Birth23「オーベルジーヌ王国」




「私共の世界は東西南北に各国が存在しております。北からポンパドール国、西はシュヴァインフルト国、南はアルジェリアン国、東はシレスティアル国。各国に囲まれ点在しておるのが、我がオーベルジーヌ王国です。国の中枢となっている王都でございます」

 エヴリィさんから説明を促され、意に満たない様子のオールさんでしたが、きちんと前に姿を出し、淡々と話しを始められました。

 中枢とは相当な大国ですね。こちらの国は…そうですね、イメージ的にはドーナツの穴の部分に点在しているといったところでしょうか。あー、久々にドーナツが食べたくなってきました。こちらの世界にもあるのでしょうか。…と、話がずれてしまいました。

「我が国は点在位置から他国との流通がし易く、貿易と外交が盛んとなっております。例えばですが、他国同士が直に商業取引をするよりも、我が国を仲介とすれば、関税の一部が引かれる等のメリットがございます。これは我が国に仲介手数料を払っても、その国はプラスの利益を得られます。また他国から政経に携わる業務委託の申し出があった場合、その他国の中で行う二分の一ほどの費用で代行を承っております」
「まぁ、太っ腹ですね」
「利益は依頼の量で補い、またその分、我が国の労働者は増え、自国の利益と繋がっております。我が国の商業利益は他国の数百倍を誇ります。その理由の一つに、一年中気候の安定が関係しております。他国のように季節が変われば、売買する品物が変わる懸念もございませんので、利益の安定または向上が図れるのです」
「恵まれた風土なんですね」
「はい、おっしゃる通りです。地形をご覧になれば、お分かりになりますが、我が国は広大な海に囲まれた数千以上の島が集結して成り立っています。その為、水産物に恵まれており、その数も膨大でございます。魚介類はもちろんの事、希少価値の高い宝玉といった土地の気候風土を生かした特産品が多く、自国の商業に加えて輸出を盛んとし、経済に潤いを与えているのです。安定した経済の維持により、他国からの絶大な信頼を受け、我が国は国と国を繋ぐ重要な架け橋となっております」

 なんとまぁ、想像よりもとても豊かな国のようです。私はこのような大国に呼ばれ、ある意味光栄ですね。私は感心するように頷きました。

「最も人口が多いのも、我がオーベルジーヌ国となっております。我が国に居住を置く場合、職を得る事が絶対条件となっています」

 それは逆を言えば、仕事がなければ住む事は不可という事になるのでしょうか。

「勝手なイメージですが、これだけの都であれば、高いクオリティやスキルを求められるのでは?誰しも定職に就けるものなのでしょうか?」

 どうも条件が厳しいように思えてなりません。良いものは容易に手に入らないものですからねー。

「審査を通し、問題のない者であれば、職が得られるよう補助は致しております。業務を行う場合、国の認定を得てからとなりますので、こちらも労働者の把握をするようにしております」
「なるほど。となりますと、行政は細かに行われているのですね」
「さようです。管理者は数知れず存在しております」

 ですよねー。ご丁寧に一人一人の労働者の面倒も見るとなれば、細かな業務となり大変です。面倒見が良いというのか、国がきちんと責任をもっているのが凄いですね。

「こちらの国では政治体制はどうのようにされているのですか?」
「各国王政となっております。宮殿の中には現在、数百の省が存在し、業務を遂行しております」
「凄い数ですね。それほど経済状況がよろしいという事なんですね」
「ご最もです」

 オールさんは感慨深く頷かれました。その彼の様子からして、いかに国の経済が潤い安定しているのかが窺えますね。

「お話を聞いている限り、国自体がとても安定した生活を送られているようですね」
「厳密には細かい問題はございますが、危険に及ぶ大きな問題はございません。それも国の間のみの話ではありますが…」
「?」

 なんでしょう?今のオールさんの意味ありげなお言葉は…。何かがあるのでしょうか。何やら淀んだ空気を感じます。私は言葉の意味が把握出来ず、首を傾げておりました。

「私が退魔師という話をさせて頂きました。この世界には人間に害を与える魔物が存在しております。今、最も厄介な問題と言えば、その魔物と言えるでしょう。下級レベルの魔物であれば、結界を張る事によって近づく事はありませんが、高度なスキルをもつ魔物であれば変化術へんげじゅつを使い、人に紛れる場合もあります」

 オールさんの身動みじろぎ一つしない深く鋭い視線に、私は戦慄が走ります。経済が安定した豊かな大国だと思いましたが、まさかこのような危惧があるとは。異世界でも世の中はそんなに上手くいかないものなのですね。

「それでは日常が帯やされてしまいますよね?」
「それを防ぐ役割を行っておるのが、“魔導士”なのです」
「え?」
「退魔士は魔物退治を専門としますが、魔導士は魔物の存在を見つけ、危険を知らせる役割を担っております」
「まぁ、それはそれは」

 私は感嘆の声を上げ、チラッとエヴリィさんを一瞥します。すると、彼から得意げ満足そうな笑みを返されました。

「そうなんですよ!魔導士達の一番の活躍があって国は守られていると言っても、過言ではありませんね!」
「なんでここでアンタが出てくるのよ!せっかくオールさんの素敵なボイスにウットリしていたのに!それに魔導士は魔物を見つけても、後処理はオールさん達、退魔士がしているでしょう!変に偉ぶって超頭にくるぅー!!」

 エヘンとしたエヴリィさんの誇らしげな言葉に、透かさずナンさんが非難ゴーゴーをされました。昨日同様、誰も何もナンさんにはおっしゃいませんが。場の空気を元に戻さなければ、またお二人の本格的な言い争いが始まってしまいます。

「あの、てっきり魔力は技術的な業務の手伝いをされているのかと思っておりましたが、そうではありませんね」

 私はエヴリィさんに本来の話を紡ぎました。

「いいえ、沙都様がおっしゃる内容の業務も致しております。魔力のレベルによって、仕事内容が異なります。例えばですが、遠方にいる人間と至急に話がしたい場合の通信業務や、対面で急を要する場合の移動、短時間での物の大量生産など、そういった日常に関わる内容はすべて下位レベルの魔法となります」

 それはまさに私の世界でいう、電話、車や飛行機などの乗り物、はたまた機具といった、いわば「機械」の役割をこちらの世界では魔導士さん達にやって頂いているのですね。

「魔物の察知は非常に高度な魔力をもつ魔導師が行っております。魔物から狙われる危険性もございますので、高い保身能力を伴なければ、この仕事は行えません」
「奥深いですね。…そういえば、魔物は潜んでおるようですが、魔女はどうしているのでしょうか?」





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