Birth21「ジェオルジ神殿」




 結局、私はナンさんに手を取られて、神殿へと向かう事になりました。元はその役目はオールさんでしたね。エヴリィさんから私の手を取って地下廊を通るように促されたオールさんでしたが、まさか本当に実行されようとしていたなんて…。

 オールさんから差し出された手を取るにも、ナンさんがいる手前、彼女の気を悪くさせると思うと気が引けてしまい、かといい、オールさんの手をないがしろにするのもどうかと悩みに悩んだ末、オールさんへ手を差し出す事にしました…ところに!

「こうなりましたら、私が沙都様の手を引いて参ります!」

 ナンさんから積極的に手を引かれてしまいました。妙にナンさんの息が荒々しく、力まれていたので、私には拒否権がないと思い、そのまま手を引かれて行く事にしました。

 しかしです…。

「いっや~ん!くっら~い!」

 正確には私がナンさんの手を取って進んでおりました。ナンさん、暗い場所が本当に苦手のようで、エヴリィさんがランプを灯してはいるのですが、彼女には光が足りないようです。

「ナン、仮にもここはシークレットな場所なんだから、静かに歩いてくれよ」

 喚きが治まらないナンさんに、とうとうエヴリィさんが啖呵を切られました。

「だって超怖いんだもん!」
「怖いのはナンの奇声だっての!沙都様が横にいらっしゃるんだから、お淑やかに振る舞いなよ!」
「無理ぃー!!」

 んー、どんな状況でも、エヴリィさんとナンさんのやりとりは起きてしまうんですね。それにしても…。故意に距離を置いているであろう、私とナンさんの後ろを歩かれているオールさんは難なく進んでいるようで、恐らく殆ど明かりが当たっていないかと思われますが、凄いですよね。

 彼が距離を置かれているのは…ナンさんには申し訳ないのですが、彼女の喚声が気に障っているように思えます。コンクリートの空間内にナンさんのお声はよく通っていますので、上の階にどなたかいれば、聞こえてしまいそうな勢いです。とはいえ、実際にナンさんは本当に身を震わせているので、なおざりにするわけにはいきません。

「沙都様、ナンはあまりにも煩わしいので、その辺にポイ捨てをされても構いませんから」
「ちょっとっ!」

 とまぁ、なんだかんだこんなやりとりをしている間にも、数分後には扉が見えてきました。神殿へ繋がる入口かもしれません。

「沙都様、先の扉を潜りましたら、神殿へと入ります。ここまで、お見苦しい思いをさせてしまい、ご足労をお掛け致しました」
「アンタは一言も二言も余計な事、言い過ぎなのよ!」

 神殿を目前にナンさんの威勢は戻られたようで、いつもの調子でエヴリィさんに楯突きました。そんなナンさんに、エヴリィさんは背を向け、扉のノブに手を掛けます。

―――ギギィ―――。

 薄暗く扉の感じは分かりづらいのですが、開く音を耳にして、思ったよりも重厚な造りであるのが分かりました。そして扉を潜る際に、その考えが間違いではないと実感しました。随分と厚さのある鉄骨製で、裏扉とはいえ、繊細ディテールなレリーフがなされた立派なものです。

 内部へと足を運びますと、そうですね、普段人が通らない裏方のような場所と言いましょうか。光を差す窓がないせいか、通路全体が灰暗く、そして割と天井も低く本当に隠し経路といった感じです。

 それでも先程の地下廊よりは明かりが灯され、ランプが無くてもなんとか歩けそうです。これならナンさんも少しは安心して歩けるのではないでしょうか。

「あー、良かったぁ~」

 お隣のナンさんから、安堵の溜め息が漏れるのを耳にしました。やはり地下廊から抜け、彼女は安心をされたようです。

「本当に良かったよ。ナンの奇声から逃れられてさ~」
「ちょっと!ここに来てまで人の気を逆立てないでよね!」

 ここは神聖な場所ですよね?宮殿とは異なるのですから、慎みを覚えて下さい。エヴリィさん、ナンさん。

「沙都様、ゼニス神官がいる部屋までご案内を致します。既に神官はお待ちしております」
「はい」

 エヴリィさんは話を切り替えられ、本題へと入りました。

「せっかくですので、主祭壇のある大間ホールを通って参りましょうか」
「大間(ホール)ですか?」

 気のせいでしょうか。エヴリィさんの表情が微妙にいわくありげに見えました。何かあるのでしょうか…?

―――数分後。

「ここは…?」

 その場所へと訪れた時、息を呑んで躯が硬直となりました。目の先には真っ白な列柱が高くそびえ立ち、それは随所で節を付け枝分かれとなって無数に伸びておりました。柱頭には葉のような形をした特殊な装飾が施されています。その柱の高さと奥行きに圧巻させられます。

 それだけではありません。ステンドグラスや天井の柱頭の間に嵌め込まれたガラスから、採光が降り注ぎ、内部を包み込んでおりました。これは木漏れ日を連想させますね。なさがら森林の中にいるような心地良い空間となっております。

 このような不思議な造りをしているのも、ここが神殿という特別な場所だからでしょうか。先程の裏の経路からでは全くの想像がつきません。

「森にいるような不思議な空間ですね」
「そうですね。この大間ホールは森林をイメージして造られていますから」
「そうなんですね」

 答えて下さったエヴリィさんから笑みが零れています。彼の先程の意味ありげな表情はここの素晴らしさを現していたのかもしれませんね。

 ここにはフレスコ画やモザイク画といった絵はありませんが、代わりにステンドグラスに繊麗なデザインが描かれています。目で追っていくと分かりますが、絵柄は神の歴史を綴っているのではないでしょうか。一つ一つの絵が物語っているように思えます。

「主祭壇はこちらを真っ直ぐに向かった場所にございます。人が集まっております、あちらですね」

 エヴリィさんが指す最奥には白い列柱に囲まれた主祭壇が見えていました。その前には多くの人達が集まっており、彼等は巡礼者でしょうか。そして主祭壇の方へと向かいます。信仰者の妨げにならないように中央からではなく、左サイドから拝見しておりました。

 素晴らしい出来栄えに心が打たれますね。主祭壇は数段の上に置かれ、天蓋を冠ったシャンデリアは透明度の高い精妙なガラスを使用されています。その背景に設えたパイプオルガンやステンドグラスの色合いと配置により、とても美しい造形美が作り出されています。

 至る所すべてが斬新ですね。お祈りをすれば本当に心が浄化されそうな神聖な場に見えます。このような場所へと足を運べた事に感謝をしたいぐらいです。感嘆して魅入っておりますと、エヴリィさんから再び促されます。

「沙都様、最奥の扉から神官がお待ちしている部屋へご案内致します」





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