Birth19「彼の職業は…?」




「オールさんは陛下にお仕えする重臣とお聞きしましたが、どういったお仕事をされているのですか?もしかして騎士ですか?」
「…?」

 ナンさんとエヴリィさんをお待ちしている間、無言でいる訳にもいきませんので、私は自ら話題をふってみました。これも彼と上手くやっていく為の手法ですよね。

「この国には“騎士”はおりません。軍人はおりますが」
「ではオールさんは軍人でしょうか?昨日は鎧を着衣されていましたよね?」
「いいえ、私は退魔師たいましです」
「え?」

 思わず私は目を剥きます。「たいまし」とはなんでしょうか?初めて耳にします。

「えっと、退魔師とはなんでしょうか?」

 今度はオールさんが瞠若します。不躾な問いだったのかもしれません。そう思いきや、彼がすぐにいつのも冷静な表情に戻られます。

「退魔師とは魔物を退治する者の事をそう称しています」

 簡素な説明で分かり易いですね。なるほど「退魔師」という字になるのでしょうか。あれ?納得しましたが、まものって…あの「魔物」ですか?

「あの、魔物というのは魔性の力をもつ人外の事でしょうか?」
「さようです」

 どうやら思った通りの生き物のようです。って、え?やはりあの「魔物」ですか!それはさすがに驚きを隠せません。魔女に魔物、こちらの世界は思っている以上にデインジャーのようです。まぁ、目の当たりにしていないので、まだ何処か現実味が湧きませんが…。

「とても大変なお仕事をされているのですね」
「えぇ、まぁ。大抵の魔物は人間に危害を及ぼし、そして並の人間では太刀打ちが出来ない為、私のような魔力をもつ人間が討伐の役割を果たします」

―――…?

 オールさんのお応えに、私は胸に引っ掛かりを感じました。

「あの…今、魔力をもつとおっしゃいましたか?」
「はい」
「オールさんは魔力をお持ちでいるのですか?」
「はい。とはいえ、魔導師のように本格的な能力が備わっている訳ではございませんが」
「いえいえ、人外の能力をお持ちなだけでも十分に凄い事ですよ」

 私の聞き間違いかと思いましたが、やはり本当のようです。良い意味でオールさんに対する見方が変りました。そして魔女や魔物に続いて、退魔師さんや魔導師さんまでいらっしゃるとは本格的なファンタジーの世界に入り込みましたね。私は改めて感心しました。色々と勉強になりそうです。

――ギィ―――。

 そんなこんなやりとりをしている間に、出入口の扉が開きました。サッと室内へと入って来たのはナンさんです!

「あ~ん!やっぱりオールさん、先にいらっしゃってたんですねー!」

 私の元へ戻られた彼女はオールさんのお姿を目にしますと、涙目となって肩を落とされました。やはりナンさん、オールさんと会えなかった事をとても悲観されていますね。予想通りでしたねー。

 そんなご様子をオールさんは微妙に眉根を寄せながら、ナンさんから視線を逸らされています。彼女の純粋な乙女心を分かってあげて下さい、オールさん。

「オカマの泣き叫ぶ姿って何度見ても醜いよね」

 なんという事でしょう。本気で悲しんでいるナンさんの後ろから、ヒョッコリ現れたエヴリィさんが追い打ちの言葉を投げつけました。

 改めて目にするエヴリィさんのお姿も煌びやかですね。華やかな容姿に昨日よりも繊細なデザインがなされたローブは、もはや礼服に近いと言えるかもしれません。自他共に認める秀麗さは本物のようです。

「ちょっ!エヴリィ、今の言葉まさか私に対して言ったわけじゃないわよね?」

 エヴリィさんを観察していましたら、ナンさんかの鋭い突っ込みが入りました。

「オカマってナン以外にいないのに、その問いかけ可笑しくない?」
「なんなの!アンタ!!喧嘩売っているわけ?」

 あー、ナンさんの目頭が吊り上がってしまいました。エヴリィさん、火に油を注いでいますよ。

「目に毒な姿を見せつけられて、沙都様のご気分が害されたら大変でしょ?」

 あらら?なんだか巻き込まれそうな予感です。エヴリィさん、ご勘弁下さい。

「沙都様がそんな事を思うわけないでしょ!勝手に沙都様に押し付けて、自分の暴言の罪から逃れようたって、そうはいかないんだから!」
「あー煩い」

 ギャンギャン喚く…失礼、抗議をされるナンさんの勢いは凄まじいですが、反対にエヴリィさんは平然とされています。

「本当になんなの!アンタ、ちょっと綺麗な顔をしているからって、人を見下すなんてサイテーよ!!」
「オレは天性に輪をかけて美を保つ努力をしているからね。ナンみたいに努力しても美しさを表せられない人は心底に気の毒だとは思うよ」
「なんですってぇ~!!」

 ナンさんは顔を真っ赤にしてを憤慨されています。さすがにこれは止めにかかった方が良さそうですね。野放しにしてはエヴリィさんの毒が強まり、ナンさんが本当に爆発されそうですから。

「あの…お二人とも「オマエ等、いい加減にしろ」」

―――え?

 口を挟もうとした私より少し後に、オールさんからも言葉が入りました。彼は目を細め、冷然とした表情を見せています。ん~、なんと言えぬ怒気が感じられますね。

「あーん!怒らないでオールさん!悪いのはエヴリィなんですよ~!」
「悪いのはナンが醜いからでしょ?」
「ちょっと!」
「いい加減にしろと言っているのが聞こえなかったのか?」

 美形の凄味は異様に威圧感がありますね。一瞬にしてナンさんがシュンとなってしまいました。エヴリィさんは変わらずヒョウヒョウとされていますが。シーンとなった空気が鉛のように重いです。

「…あの、とりあえず今日はこちらのメンバーで神殿に向かいますし、皆さん仲良くしましょう」

 と、気の利いた言葉ではありませんでしたが、私は場の空気を変えようとしました。

「わっかりました~!」

 一番に威勢よくお応えしたのはエヴリィさんでした。満面の笑顔ですねー。変わってナンさんは腑に落ちないご様子です。ご不満を抱いていますねー。

「ほらっ!ナンも応えなきゃ!沙都様に失礼だよ~」
「失礼なのはアンタだっての!アンタさえ一緒じゃなきゃ、私は笑顔でいられるんだから!」
「とはいっても、神官様にお会い出来るのは誰のおかげかな~?」

―――?

 何でしょう?今のエヴリィさんのお言葉は。引っ掛かりましたよね?

「いっちいち上から目線で物事を落とすのがイラつくのよ!」

 あ~、もうどうしたら、お二人を止められるのでしょうか。手の施しようがないのではと諦めかけた時です。

「時間に遅れる。行くぞ」
「はーい♪」

 なんと!オールさんの促すお言葉で、瞬時にナンさんのご機嫌が回復されました!

「うわっ!オールだと無駄に従順でキッモ~イ!」
「ちょっと!」

 あ~、またエヴリィさんが余計な事を口にしてナンさんが…。

「あのっ、エヴリィさん」
「何でしょうか?」

 喧嘩をお止めするつもりで、咄嗟に私はエヴリィさんを呼び止めます。すると、彼はナンさんの存在を忘れたかのようにして私へと振り向き、笑みを見せます。この変わりよう、尊敬レベルですね。

「私の元いた世界が今どうなっているのか気掛かりでして。私は忽然と消えてしまったので、あちらでは騒ぎになっているのではないかと心配をしております」

 今朝も思いましたが重要な事です。私にも住む世界がありますからね。

「そちらは心配ご無用ですよ」
「え?」

―――どういう意味でしょう?

 意味が把握出来ず、私はキョトンと鳩のような表情をし、エヴリィさんを見つめます。

「沙都様の召喚に成功した時点で、貴女はこちらの住人として認識されています。それは元の世界では沙都様の存在が無になっているという事です」

―――なんと、まぁ!

 私は瞳を大きく揺るがし、口がポカンとしてしまいます。それはそれで悲しいような良かったような、私は捉え所の無い気持ちになりました。





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