Birth18「度重なる気まずさを回避したいです」




 朝食はとても豪華なフレンチでした。これは朝食なのでしょうか?と、突っ込みを入れてしまいそうな内容でしたよ。肉、魚、野菜、ブレッド、シリアル、ドルチェ、ドリンクとどれも種類が豊富で、ビュッフェのようにふんだんに並べてあり、そちらから好きなお料理を選びますと、シェフさんが盛って下さいます。

 私は大好きなオムレツを選びましたが、それだけでも具が数十種類以上もあって、中々決められませんでした。ですので、他のお料理はナンさんやシェフさんのお勧めで頂きました。お味は頬が落ちそうな程の絶品でしたよ。

 一人で食すのもなんでしたので、昨夜と同様にナンさんとご一緒に頂きました。ナンさんはお話をされるのがとてもお好きなようですね。彼女と会話をする時は自然と自分が聞き役となります。

 そして今日一番初めに受けた質問が陛下との昨夜の出来事で、私は目を丸くしました。なんとストーレートな質問をぶつけてくるのであろうと硬直しておりましたら、ナンさんの話がどんどん陛下に対する熱意に変わられていくのが分かりました。

 ナンさん、陛下をとても慕われているようですね。一瞬オールさんは?と思い、実際はどうやら陛下とオールさんのどちらも大ファンのようです。お二人とも確かに私もかつてお目にかかった事のない美形ですからね。

 ナンさんの他にも熱を上げられている女性達は数多くいらっしゃるかと思います。という事で、今日のお話のメインは陛下となり、昨夜の話はなんとかうやむやにする事が出来たので、私はホッと一安心を致しました。

 ですが、話の随所に「あ~沙都様と入れ替わりたい」と、何度も溜め息交じりで呟くナンさんのお姿が印象的でした。私と入れ替わりなんてしましたら、出産に魔女退治ととんでもない事が待ち受けていますけど?

 …そうでした。出産も一大事ですが、まずは天神としての力が私の中で、本当に存在しているのかを確認しなければなりませんね。そのような力がないのに、魔女と対戦など有り得ませんよ。とはいえ、備わっていたとしても、どう魔女と立ち向かえば良いのか分かりませんが。

 色々な事を含めてハッキリとさせておかなければなりませんね。悩みは変わらずです。私は無意識の内に溜め息を吐いてしまいました。そんな私の姿を目にしたナンさんが、
「沙都様、お疲れですか?今日はこれからジェオルジ神殿へ向かう予定となっておりますが、ご無理のようでしたら、予定の変更をかけてみますよ」

 お気遣いの言葉をかけて下さいました。有難く思いつつも、耳に留まった彼女のある言葉が気になります。

「あ、いえ。大丈夫ですよ。それよりもジェオルジ神殿ですか?そこに何をしに行くのでしょうか?」
「ゼニス神官様にお会いして頂きます」
「ゼニス神官様…ですか?」

 私の目を見開いて首を傾げます。

「はい、ゼニス神官様は神の力を持つ方ですからね。天神様の沙都様とも深い関わりになられる方かと思います」
「そうですか」

―――その方であれば、天神の力の事もご存じかもしれませんね…。

 そうであれば、善は急げです。天神の力については早く知りたいですもの。

「是非お目にかかりたいので、予定通りでお願いします」
「そうですか。沙都様がそうおっしゃるのであれば、参りましょう!」
「はい。宜しくお願いします」

 ホッとされた様子を見せるナンさんです。予定を変更してはその後の調整が容易でないのかもしれませんね。

「良かったですぅ~!今日の神殿はオールさんもご一緒なので、楽しみにしていたんですよ~♪」

 あらら、そちらが目的だったんですね。ナンさんは頬を赤く染めながら、嬉しそうに気持ちを零されました。オールさんがいらっしゃるのですね。ここで私は何故か心にズンッとした重さを感じてしまいました。

「では私は今からオールさん達を呼んで参りまぁ~す♪」
「達ですか?」

 他にもどなたかいらっしゃるという事ですよね?

「はい、オールさんの他にエヴリィも参りますよ」
「そうですか」

 ナルシーのエヴリィ―さんもご一緒なんですね。

「それでは今度こそオールさん達を呼んで参ります!沙都様は引き続きドルチェでも召し上がって、お待ち下さいませ~!」
「はい」

 小躍りするような足取りをして室内から出られるナンさんを見送った私は席へと戻りました。そういえば、まだドルチェを頂いていませんでしたね。せっかくの豪華なデザートですので、吟味させて頂きましょう。

―――数分後。

 シェフさんにいくつかドルチェを選んで頂いていた時です。

―――トントントンッ。

「はい…?」

 室内に響いたノックの音に反射的に答えますと…。

―――ギギィ―――。

 出入口の扉がゆっくりと開かれました。扉から現れたのは…。

「オールさん…」

 彼の姿を目にした私は鼓動が胸の奥から立ち上がりました。どうやらお一人のようです。彼は昨日と服装が異なり、藍色ダークブルーの軍服姿でした。昨日のエニーさんの制服に近いでしょうか。

金色の肩章とふさ飾りから前部にかけて吊るされている金糸の装緒モール、襟にも美しい刺繍の縁取りが施され、上質な素材で作られ制服コートだと分かります。そんなノーブルな制服に着飾れたオールさんは一段と美丈夫で際立っていらっしゃいました。

 彼の存在の美には改めて感嘆としますが、昨夜の陛下の寝室で別れた時の事、陛下との睦事中にオールさんの表情が浮かんだ事、何より彼が昨夜の陛下と私の出来事をどう思っているのかなど、何かと私としては気まずい思いが流れっぱなしです。

「おはようございます」

 対面して言葉を失っている私を前にして、オールさんは気兼ねなくご挨拶をして下さいました。

「おはようございます」

 私も軽く会釈をして挨拶をお返しします。顔を上げますと、心なしかオールさんが私をジーと見据えているように見えるのは気のせいでしょうか?あ、私の天神の衣姿に目が止まっているのかもしれません。上質で美しい素材ですものね。

 あらら?視線を外されず、ずっと見つめられていますが?もしかして上質な衣が私には不似合いだと思っていらっしゃるのかもしれませんね。違和感ってやつですか。これはこれは失礼を致しました。

「あの、ナンさんがご一緒ではないのですか?」

 妙な緊張が解けたところで私は問いかけました。

「いえ、会っておりませんが」
「え?ですが、ナンさんはオールさんを探しに行かれましたよ?今日はご一緒に神殿に行かれるんですよね?」
「どうやらすれ違ったようですね。先にエヴリィを探して、こちらに戻って参るかと思います」
「そうですか」

 ナンさん残念がりそうですね。きっとエヴリィさんより先にオールさんを探しに行かれたかと思いますし。彼女の悲観する姿が思わず目に浮かんでしまいました。





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