Birth15「艶やかな月光のもとに」




 星影を霞ませる澄み切った月光が重厚な窓に掛かっているカーテンレースを透かして射し込み、己の満身を照らします。敢えて消灯した室内に冴えた光が放たれ、陛下の姿を目にする事が出来ました。

 私の躯は仰向けに倒されており、その上を覆う陛下から見下ろされています。そうです。結局、情事は進んでしまっているのです。このような事態になる前、私は逃れようと必死になって思考を巡らせておりました。

 その一方で、満身をくまなく愛撫され快楽を得た躯がより快楽を深めたいと欲求を抱き、その感情に行動が伴えず、理性と感情の狭間に思い悩んでおりました。

 そのような中で、間近で目にする陛下の風采、躯付き、口調、極めつけは雄々しい男性器と何処もかしこもが完璧に艶を帯びて美しく、ゾクッとする性的魅惑に目が眩み、己の欲望に押されていきます。とはいえ、いざ寝台へと躯を落とされた時、事の重大さを思い出し、理性が戻って参りました。

「へ、陛下…私は赤子を身籠っております。これ以上の行為は母体の負担になります」

 懐妊中であっても性交渉が出来ない訳ではありませんが、通常の行為を致す事は困難です。ましては最後までなど…。この言葉によって陛下がお止め下さるのか、これは最後の切り札です。

 ……………………………。

 数秒のが流れ、私はドクドクと切迫を堪えながら、陛下のお言葉を待ちます。すると…?

―――え?

 ギシッとベッドが軋む音に、私の心臓は跳ね上がります。

―――ま、まさか、陛下はこのまま!

 ところが、私の思いとは別に室内が灰明るくなり、私は目を丸くしました。勿論、燭台に灯りを点けられたのは陛下です。そして陛下と視線が合わさった時、再びドクンッと心臓が波打ちます。

 彼の射抜くような鋭い眼光の中に、明らかな猜疑さいぎが含まれていました。その視線に私は怯みますが、悪阻の時とは違い、真を申し上げているのには間違いありません。

「どうやら其方のいた世界との異なりが障害を生んでいるようだな」
「え?」

 陛下は何かを察したようで、表情が物語っていらっしゃいました。

「こちらの世界では懐妊中でも性交渉は通常に行っておる。それが出来るのも母体が外敵から身を守る“プロテクト”という水の膜に守られているからだ。それは軍師の女性がハードな肉体的訓練を受けようと、戦場で敵と剣を交えようと、胎児には影響が出ぬ」

―――な、なんと、私の世界では考えられない出来事です!

 一見プロテクトとは私の世界でいう羊水の役割をしているものかと思いましたが、それを遥かに超える堅守レベルのものだと言えます。

「ですが、それでも…」

 私が気にしているのは内面の部分であり、「それ」を口にする事は陛下に対し、大変失礼に当たるのではないかと思い、まごついておりました。

「何だ?遠慮なく申してみろ」

 陛下は穏やかな様子をされ、私が口にする機会を与えて下さりました。

「私の世界では…その感染症の疑いもあるので、懐妊中の性交渉は避妊を要すると聞いております」

 陛下に限らずの話ですが、さすがに萎縮する内容です。ただ赤子を守る為には話さざるを得ない重要な事柄です。精子の中の菌に感染し、流産を誘発する場合があると。

「それは精液の事を言っておるのか?」
「は、はい」
「その心配はいらぬ」
「え?」

 私を安心へと導くように陛下から包容力のある優しい笑みが広がります。

「先程も申したが、其方の世界とは違いがある。懐妊中の胎児に精を放つのはむしろこちらでは重要な事なのだ」
「え?」
「精液の中にはプロテクトの効果を高める成分が含まれておる。胎児を安泰に生む為にも精は大事な役割を果たし、その為に性交渉が必要でもあるのだ」

 なんとまぁ、ここまで都合の良いお話があるのでしょうか。ですが、陛下が偽りをおっしゃっているようには見えません。それに此処で私欲の為に偽りを言ったところでも、胎児に悪影響を与えてしまうので、やはり事実ではあるのでしょう。

「そんなに不安がる必要はない。私に身を任せておけば良い」

 いいえ、あと私の気持ちもあるのです!と、言い放ちたいところでしたが、それは甘い蕩けるような口づけによって打ち消されてしまい、気が付けば寝台へと身を落とされておりました。陛下の中ではこれで問題が解決されたと、事が進んでも良いと思っていらっしゃるかもしれませんが、私にはまだ躊躇いが残っているのです。

「陛下…」
「なんだ?」

 「やはり私は最後まで致せません」と、口にするつもりでしたが「灯りが…」と全く意思とは別の発言をしてしまい、「よかろう。それぐらいの願いは受け入れよう」と、陛下から笑みが零れ、室内は月光のみの明かりとなりました。

 私は何をやっているのでしょうか。行為を促しているのは自分ではありませんか。このまま本当に陛下と事を得てしまって良いのでしょうか。まだ曇る気持ちに反して、何処か期待を抱く自分がいるのも確かなのです。

 場の雰囲気も上手い具合に揃えられ、密事から逃れそうにはありません。白く輝く月光が室内の暗い複雑な影を折りたたみ、陛下の艶気を際立たせておりました。そのお姿に私の心臓は隆起と陥没を繰り返すようになります。

 とうとう私の両脚は左右に広げられ、秘部が大きく空気に晒されます。一段と鼓動が高鳴り、躯にグッと力が込められます。陛下の屹立した肉杭が宛がわれ、秘部に触れているのを感じました。

―――ドックンドックンドックン。

 そして最後の密事へと入る時、突然、私の脳裏にあの方のお顔が浮かびました。それは「オール」さんでした。最後にこの陛下のお部屋で別れた時の彼の酸いも甘いも噛み分けたような顔つきが浮かんできたのです。

―――どうして彼のお顔が…?

 彼の顔が再び私に躊躇いを生じさせました。その刹那、

「ひゃぁあっ…」

 ギシッと寝台が軋む音と共に、私は雷に打たれたような衝撃に襲われます。たっぷりと蜜を纏っている秘裂を割った熱い肉杭が内奥へと沈んできたのです…。





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