Birth11「睦事の始まり」




 唇から流れる甘美な酔いに躯中が痺れ、ふわふわとした浮遊感に襲われます。それが次第に快感へと変わっていくのを感じておりました。

―――どうして陛下は私に口づけを?

 脳裏に浮かぶ疑問も塞がれている唇によって解かれる事が叶いません。私は陛下の成すがままの行為を受け入れておりました。

 初めは優しく唇を覆われていましたが、そこに情熱が加わり、啄むような口づけへと変わります。軽く音を立てられながら、何度も角度を変えられ、まるで陛下の唇に慣らすように重ねられておりました。

 慣れた頃には唇の密着度が上がり、潤いが生じてきました。そしてそのまま下唇を甘噛みされ、左右に振られますと、くすぐったさとほんのりとした甘酔いを感じ、さらに送られる熱視線により、顔全体に熱が集中し、躯は芯から疼きを覚えます。

「ふっ、あ…」

 思わず吐息を洩らしてしまいます。これがきっかけとなり、恋人同士が行うような本格的な口づけとなりました。

「ふぁっ…」

 唇を深く吸われた次の瞬間には私の唇は割られ、舌を挿入されます。陛下の熱い舌はまろやかな動きで私の舌を誘い出そうとしますが、この時の私は理性の気持ちが強く、舌を返すのに抵抗を感じておりました。

 躊躇う私の舌に陛下は痺れを切らされたのか、より深く口づけられ、顔の角度が下がった私の後頭部はグッと押さえ付けられました。再び入った陛下の舌は私の口内の奥へと沈み、とうとう舌を捉えられてしまいます。

 舌と舌が触れ合った瞬間、甘く吸い立てられ、私は小刻みに揺れ動きます。今の微妙な反応が陛下にも伝わってしまったようで、今度は優しく舌を包み込まれました。陛下は様子をご覧になりながら、暫く私の舌の柔らかさを楽しんでいらっしゃるようでした。

 徐々に口づけに慣れ始めると、躯の力も抜けて、私は自然と舌を出すようになりました。舌はやんわりと絡め取られていき、じんわりと気持ち良さが募っていきます。

「ふっ…あぅ」

 私の吐息の数が増え、羞恥を煽られますが、舌の動きは益々淫らなっていきます。円を描くようにネットリと絡まり、唾液が混ざり合うと、なんとも言えぬ情欲にそそられます。そしてこちらの動きに合わせていた陛下の舌はいつの間にか私の舌を追い詰めるようになりました。

「はぁ、はぁ…」

 時折、唇を離されますが、息をつく間もなく、すぐにまた唇を奪われてしまいます。陛下の柔和な風采には似つかぬ獰猛とした動きが男性の本能を知らされます。

 さらに歯列や舌の裏側、顎上の部分と口内全体へと愛撫が繰り返され、その巧みな舌の動きによって生み出される快楽に、私の抗う気持ちが失われつつありました。

 このような濃厚な口づけは初めてではありませんが、このような躯が蕩けそうな甘い感覚は初めてです。日本人男性には持ち合わせていない美技に酔わされておりました。恐ろしいです。こちらの世界のスキルは高すぎです。

「そろそろ口づけだけでは物足りなくなってきただろう?」
「え?」

 ふと陛下から垣間見られ、声をかけられます。その言葉は口づけよりも先の行為を促していらっしゃいますよね?陛下はすべてを悟っているのだと、優雅な笑みを浮かべています。

「そのような事は…」

 そう頭では思っていても、それを口に出来ない自分がおります。躊躇いはありつつも、口を噤んでいるという事は陛下のおっしゃる意味を認めてしまう事になるのです。それが妙な程に恥じらいを生じ、私は陛下のいわくありげな視線から目を逸らしてしまいました。

「どうした?答えぬという事はうべなうと受け取って良いのだな?」

 再度、陛下から煽られ、今度は否定をしようと口を開こうしました。その時は既に時の遅しであり、

「あぅっ!」

 ビリッとした衝撃が胸の敏感な部分から駆け巡りました。夜着の上から胸の形が分かる程に掴まれた左胸の先端を摘まれ、かい撫でられていたのです。

「先程の口づけの効果で、だいぶ敏感になっておるな」

 陛下は予測通りだと余裕の笑みを見せ、そのまま行為を続けられます。

「あ、あっ、はぁ…」

 自分でも信じられないと驚愕しています。あまりにも過剰に反応をし過ぎているからです。正直、私はそこまで感度が良い方ではありませんが、陛下にぜるを繰り返さていく内に、先端の形がクッキリと現れてきました。

「夜着越しだというのに、ここまで突き出し形を強調してくるとは誘っていると受け取って良いのだな?」

 違います!なんでもご都合良く解釈し過ぎです!と、突っ込みを入れたいところなのですが、零れてしまう羞恥の声を抑えるので必死でした。私は唇を噛み締め、声を押し殺そうとしました。そんな私の健気な様子は陛下にも伝わっている筈ですが、彼は私が願う行為とは真逆の事を考えていたようです。

「はぅっ、な、なにを?」
「声を押し殺す必要はない」
「あっ、あぅ」

 陛下は私の胸の前へと顔を落とされ、形づけられた胸の先端を口に含まれたのです。含んだまま口を動かされるだけで、くすぐられ過敏に反応してしまいます。

「其方の声を出さねば、気の毒でならぬ」
「はぁ…んっ」

 自分の喘ぐ声を聞く方が気の毒です!私と陛下の思う方向ベクトルが食い違っております。布が間接的に挟まれている為か、陛下は歯を立て刺激を送り込んできます。

「あ…あぅ…い…やぁ」

 恐れ多くも陛下の髪を掴み、引き離そうとしますが、それが却って行為を強めてしまいます。夜着の上からでも、私の速まる鼓動が陛下には丸分かりでしょう。緊張と羞恥、そして戸惑い…そうです、私は陛下のものではありません。陛下も私のものではないのです。


 このような行為をしてはならない関係です。いくら互いに悲愴な経験があるとはいえ、その気持ちを埋めるかのように、このような情事を行ってはいけません。ですが、陛下から与えられる官能的な刺激によって、理性が失われていきそうでした。

 さらには手を掛けられていなかったもう一つの胸が、いつの間にか陛下の大きな手に揉みしだかれていました。感触を楽しむかのように、大胆な動きを見せています。

「あ、あ…はぁん」

 触れられる場所に熱が籠り、躯の火照りが止みません。まだ理性が残っている内に離れなければ…。

「も…う、お止め…下さい」

 私は行為から視線を逸らし、熱を含んだ上擦った声で陛下に懇願をします。すると、陛下は視線を上げられ、私の瞳をしっかりと捉えます。その無表情のお顔は癪に障られたのでしょうか。そして行為が中断され、陛下の手が離れました。気まずい雰囲気が流れ、私が狼狽えていますと、

「え?」

 陛下は私の胸元に手を掛け、そのまま夜着を広げ、中から私の双丘がまろび出てしまいました。

「私一人が楽しんでいても意味がない。共に落ちるのだ」





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