Birth7「妊婦なのに魔女退治までするのですか?」




「あ…の、魔女退治とはなんの事でしょうか?」

 出産と魔女退治がなんの関係があるのでしょう?オールさんから只ならぬ雰囲気が、いえ彼だけではなく、他の方達のご様子からしても、何か良かならぬ事ではないかと予測がつきます。

「魔女の目的が王家の衰亡であれば、世継ぎを身籠る沙都様に危険が及びます。今回のような呪術をかける程の高い魔力を持った魔女です。既に沙都様の存在に気付いている事でしょう。なんらかの形で再び危険を振り落しに来るに違いありません。それに伴い、魔女の退治をせねばなりません」
「そ、そうですね。お願いします」

 私は深々と頭を下げます。戦いとは疎遠の世界で生きてきた私なので、妙な緊張が迸ります。ここは討伐をお願いするしかありませんね。ところがです。

「魔女の退治は沙都様が行われます」
「はい?」

 今、私へと向けられた言葉はなんでしょうか?耳を疑うお言葉でしたよ。

「今のお言葉ですが、私が魔女退治を行うと聞こえたのですが?」
「その通りですよ、沙都様」
「はい?」

 決然とした口調で返されたのはエニーさんです。彼女の隙を入らせない鋭気は相変わらずです。私はポカンと間抜けな表情を浮かべておりました。

「えっと、ですが、私は至ってなんの力もない一般市民ですよ?退治をする前にられてしまいます」

 無力な私が出ても自殺行為にしかなりませんよね?

「沙都様は無力ではございません。“天神あまがみ”でいらっしゃいますので」
「え?」

―――天神とはなんでしょうか?

「天神とはどういったものでしょう?」

 私は首を傾げてエニーさんへ問います。

「神の力を宿したかんなぎを天神とお呼びします」
「それが私だと?」
「さようです」

 な、なんという事でしょう。私にはそのような尊号があったのですね!「天神」いい称呼ではないですか!巫女姫、舞姫、姫神といった可愛らしい名前はこの年では合いませんしね。天神、気に入りました!って、喜んでいる場合ではありません。名だけは立派ですが、実際はそれ相応の能力が備わっていないのですから大変です。

「あの天神というご立派な称号を頂いたのは嬉しいのですが、残念ながら私には神力というものを持ち合わせておりません」
「もし神力がおありでないのであれば、私は沙都様を召喚する事は出来ませんでしたよ。沙都様がこちらの世界に来られた事実、神力をお持ちでいらっしゃるという事になります」

 言葉を上乗せされたのはエヴリィさんです。彼が私を召喚したので、今の言葉にお間違いはないかと思いますが…。今現在、自身ではそういった力を感じません。腑に落ちないせいか、口を閉ざしている私に次の言葉が振り落とされます。

「本来、我々の力で魔女を退治すべき事です。しかし、今回の魔女はかつてない程の魔力をもった邪悪な者です。その魔女を退く程度は出来ましても、息の根を止める事は難しいでしょう。ですので、沙都様のお力添えが必要となるのです」

 そう乞われたのはオールさんです。なにやら皆さんのご様子から怖いぐらいに圧力を感じるのは気のせいでしょうか。託された感のされが半端なく、私は萎縮してしまいます。余計に私がだんまりとなりますと、今度は陛下からのお願いが入ります。

「沙都。オール、エヴリィ、エニーは其方の魔女討伐の援護を致す。其方の日常を含めてな。このような事を頼むのは忍びないのだが、大国の平和の為に是非協力を願いたい」

 と、言われましてもですね。出産だけでも大それた事ですよ?さらに魔女退治までしてくれとはあんまりではないでしょうか。なにより私に神力がるとは思えませんし。何かの間違いであればいいのですが。

「ですが、陛下…「天神と魔女討伐の話は後日改めて説明するとしよう」」

 陛下は私の言いたい事を察したようで、ごく自然に言葉を覆われました。それに陛下の穏やかな表情の奥には何か激情の炎のようなものが隠れている事に、私は気付きました。他の誰よりも私に対する期待が大きいという事でしょうか。陛下という身分だけあって、穏やかな部分は表上だけなのかもしれません。

 これ以上、耳を傾けてもらう事は難しいであろうと悟った私は一先ず自分の意見をしまいますが、先程の件は頃合いを見て、しっかりと話をつけておこうと思います。お腹の子と自分の命に関わる事です。明白にしておかなければなりません。

「オール。済まないが、沙都の部屋の案内を頼む。これ以上の話は来たばかりの彼女の疲労に繋がる」
「承知致しました」

 陛下のお言葉に、オールさんは低頭されて答えます。

「陛下!沙都様のご案内は私が致しますわ!」

 身を乗り出すようにして懇願されたのはナンさんです。なにやら彼女、必死のご様子です。

「其方には沙都の食事の用意をお願いしよう。既にディナー時だ」
「あーん!オールさんと二人っきりなんて羨まし過ぎる!せめて私も一緒に行きたい~!」

 なるほど、私がオールさんに連れて行かれるのが気掛かりだったようですね。彼女はどうやらオールさんのお熱いファンのようです。悔しがるナンさんはさておき、陛下からお声がかかります。

「沙都。この後、共にゆっくりと晩餐といきたいところなのだが、生憎、今日中に処理をしなければならぬ案件が多々ある」
「いいえ、そんなお気遣いなく」

 私は軽く頭を下げてお答えします。陛下とお食事なんて光栄ですが、それはそれでは却って気疲れが出てしまいそうですしね。恐れ多い事をスミマセン。

「エヴリィとエニーは私と一緒に参れ」
「「承知致しました」」

 エヴリィさんとエニーさんも陛下に頭を垂らし、返事をされました。

「それでは沙都様、ご案内を致しますので、こちらまで」
「あ、はい」

 オールさんに促された私は急いで駈け寄ります。彼の前まで参りますと、

「さあ、参りましょう」

 彼は背を向けて歩き出しました。私は残っていらっしゃる皆さんに軽くお辞儀をし、オールさんの後へと続きました。

「あーん!私も一緒がいい~!」

 最後、出入口の扉が閉まる瞬間、ナンさんの雄叫びが聞こえてきたのは間違いないと思いました…。





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