Birth6「こちらの年齢感覚に驚きです」




 出産の経験がないが故、安易な考えとも言えますが、人の命と世界がかかった、ある意味、私は救世主となっているのですね。

「分かりました。事を為したいと思います」
「嬉しい限りだ」

 私の意を決した言葉に、陛下は破顔されました。その万遍ない笑みは素なのでしょうか。意外にも少年のような無垢な表情でしたので驚きました。周りの方達からも朗らかな空気が流れています。

「やはり私の目に狂いがなかったようですね。沙都様をお選びし、召喚した甲斐がございました」
「え?」

 今の誇らしげなお声はあのナルシーのエヴリィさんです。えっと、私をこちらに導いたのはエヴリィさんだというのでしょうか?それは凄い事ですよね、彼は一体?不躾ですが、マジマジとエヴリィさんを見つめてしまいました。

 そして彼に対しての見る目が少しばかり変わったような気がします。そういえば、よく見てみますと、皆さん外人さんですよね?私の世界でいう白人さんに近いのでしょうか。

「そういえばですが、言葉が通じていますよね?まさかこちらの世界は私の国の言語と共通ではありませんよね?」
「沙都様が陛下の御子を宿した時から、王妃の能力を引き継がれています。今、沙都様はこちらの言語で話をされていますよ」
「え、そうなんですか?」

 エヴリィさんがにこやかな笑顔で、答えて下さいました。不思議です、自分では日本語を話しているつもりなのですが、相手にはこちらの言葉で聞こえているのですね。支障がなくて何よりです。私が関心していましたら、エヴリィさんが思い切ったご様子で、質問を口にされました。

「沙都様、念の為のご確認ですが、ご年齢を教えて頂けませんか?」
「年齢ですか?29ですが」

 私は躊躇いもなく、お答えしました。

「「29!?」」

 素っ頓狂なお声を上げたのはエヴリィさんだけでなく、ナンさんからもでした。他の方達も声には出されていませんが、明らかに吃驚をされています。この驚きよう、もしかして私は出産適齢期を超えてます的な感じでしょうか。

 確かに物語のヒロインにしては少しばかり年齢が高いかとは思いますが、現実世界では全く出産範囲内ですよね。こちらの世界では難しいのでしょうか。不安を煽ぎます。

「王妃様と同じ器の方をお選びしたから、てっきりご年齢が近いかと思ったのになぁ。あ~、出産は大丈夫かな」 「いやん!なんか癪だわ~」

 エヴリィさんの言葉を耳にし、やはりと確信しました。こちらでは適齢期を超えてしまっているようです。ところで、お隣のナンさんの悔しがる表情と「癪」というのはどういう意味なのでしょうか。もしや私の方が年上?それはショックですね。見た目ではナンさんの方が15歳以上は上に見えますからね。

「あの、私はこちらの世界ではけっこうな年齢になるんですかね?」
「逆ですよ、若すぎます!」
「はい?」

 わ、若い?エヴリィさんの意想外の言葉に、私は面食らってしまいました。

「ですが、私はそうですね…オールさんより少し上ぐらいかと思っておりましたが」
「実際は全っ然、違いますよ!オールは54ですし、私でも50です!」
「えぇ!」

 それは驚きます!いくらなんでも食い過ぎではありませんか?

「でもエヴリィさんは私より全然お若く見えますよ?エニーさんはもっとお若く見えますし」
「私は44です」
「えぇ!」

 エニーさんがサラッと答えられました。が、その年齢にも驚きです!彼女はどう見ても20歳を少し過ぎたぐらいにしか見えません。
v 「ナンなんて…「ちょっと!勝手に人の年を言うもじゃないわよ!!」」

 突然ナンさんから罵声が飛んできました。ナンさんの年齢を口にされる事が宜しくなかったようですね。彼女の年齢は禁句のようです。

 皆さんの年齢からしたら、私は随分と若いみたいですね。皆さんの年の半分と少し超えているぐらいなので、現代でいうと15・6歳というところでしょうか。それは嬉しいですねー。急に若返ったような気分となりました。

―――あれ?

 考えてみればですよ、皆さんの実年齢の数字を半分にしたぐらいが、私の世界の外見と相応ではないでしょうか。そうであれば、オールさんは27歳、エヴリィさんは25歳、エニーさんは22歳ぐらいという事になります。その事を私は簡単に説明してみました。

「なるほど。となりますと、沙都様はこちらでは60前後という事でしょうか」
「…………………………」

 フムフムとエヴリィさんが頷かれていますね。先程の若いかも説は見事粉々に砕けました。60歳前後とは私の世界ではご年配の方になりますよ?残念な気持ちになりましたが、私の説明で皆さんが腑に落ちたご様子となりましたので、そういう事になるんですねー。老化の進行が私の世界より緩やかのようで、羨ましいです。

「ご年齢の確認ができ、一安心しました。もしこちらの年齢と相応であった場合、母体へのご負担が大きいのではないかと懸念をしておりましたので」
「そうですよね。一先ず良かったです」v 「沙都様は大人の女性なのね。ふふっ、それなら私とも大丈夫ね。気が合うと思うわ♪」

 私とエヴリィさんの間に言葉を挟まれたのは勿論ナンさんです。年齢の話はさておき、ナンさんと気が合うのかどうかは…なんともです。でもかれ…彼女からしたら、私と何か気の合う部分を見つけられたのかもしれませんね。

「沙都、宜しく頼んだぞ」

 ナンさんに目線を向けておりましたら、背後にいらっしゃる陛下から、声を掛けられました。今のお言葉は出産の事をおっしゃっていたんですよね。

「はい。無事に出産を出来るよう努めます」

 私はペコリとお辞儀をして応えました。

「その言葉、非常に有難い」

 私の応えに陛下は満足げに微笑まれました。美形の笑顔、破壊力抜群ですねー。何事もなく無事に出産を迎えなければなりませんね。本当に大役です。

「無事にご出産を頂く為にも、魔女との対戦を終結させなければなりません、沙都様」
「え?」

 ビビッと射るような鋭い視線が向けられているのを感じた私は反射的にその視線の先へと映し出しました。今のお言葉の方は…。

―――オールさん…。





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