Birth4「この私が王妃様の代わりですか?」
今の男性、確実にオネエ言葉でお話をされていましたよね?
「エニーよりいいじゃない?女性らしくて丸みがあるもの!」
「ナンは王妃様の秀麗さを妬んでいたものな。王妃様と相似した女性ではなく、好感が持てたのだろう?」
「そんな勝手に決めつけないでよね!私は純粋に彼女に好感をもったんだから!」
話しの流れからして「エニー」さんというのは軍服を着た女性のようですね。そして「ナン」さんというのはオネエ系の男性のようです。ナンさん、見た目からして個性的な方ですね。フロントの髪を長く残したモヒカン風のスタイルがとても印象的です。
髪の色もオレンジとバイオレットの二色を取り入れたメッシュヘアーですし。それに服装もチュニックをさらにヒラヒラとさせたドレスが色鮮やかで、そしてなんとも奇抜な模様のデザインです。斬新すぎます!
それにしても、生のオネエは初めて目にしました。女性のエニーさんは男性らしい話し方をされるんですねー。とても凛々しいお姿です。
「事実を言ったまでだ」
「ちょっと!喧嘩を売る気?」
「最初に売ってきたのはナンからだ」
あらあら、エニーさんとナンさんの言い争いは続いてしまっています。
「まぁまぁ、二人とも落ち着いて。陛下の前でみっともないよ」
お二人の間に入られたのはあのナルシーさんです。最もらしい言葉をおかけして止めに入られました。うーん、でも彼が言うのも違和感がありますねー。私にとって、さっきの髪の毛一本の件が、よっぽど脳裏に焼き付いてしまっているようです。
「いい加減、本題に入るぞ」
悩ましいと眉間に皺を寄せたオールさんが話題を変えられます。
「いやんっ、エニーのせいで、オールさんに怒られたじゃない!せっかく間近で彼に会えたってのに、怒られるだなんて超最悪ぅー」
ナンさん、ブーくれています。その姿に他の方々は固く口を閉じていらっしゃいますが…。いえ、正確には流そうとされているように見えます。
「沙都、少しばかり遠回りをしてしまったが、彼等の紹介も簡単にしておこう」
仕切り直しをなさったのは陛下です。さすがです、自然に流れを変えられました。
「エヴリィ達、まず彼女は沙都と申す」
「初めまして」
陛下は最初に私を紹介して下さいました。私が挨拶をしますと、皆さんは軽く会釈を返されました。
「そして彼等の紹介だ。オールの隣のおる者がエヴリィ・アジュールだ」
「お初目にかかります、沙都様」
艶やかな笑みで名を呼ばれ、先程の件を知らなければ、彼に対してもトキメキがあったかもしれませんね。
「エヴリィの隣におるのが、エニー・カンパヌラだ」
「以後、お見知りおきを。沙都様」
「はい」
キリッとした表情から全くの隙がありません。まるで軍人さんのような鋭気を感じます。
「二人ともオール同様に、私の大事な臣下だ。そしてもう一人、エニーの隣におる彼が…」
「いやん!陛下、彼じゃないわ~!」
オネエ言葉のナンさんは透かさず陛下に突っ込みを入れられました。国の主になんとまぁ。
「これは失礼。彼女はナン・アマランスだ」
陛下も素直に「彼女」と言い直しをされました。ナンさん凄腕です!
「どうぞよろしゅうお頼申しまぁ~す❤」
「は…い」
何故、近畿一円のお言葉を?もの凄くフランクな口調ですね。ある意味親しみが込められているという事でしょうか。
「そしてナンは沙都、其方の世話係をやってもらう予定だ」
「は…い?」
思わず私は硬直としてしまいました。今、陛下はなんと…?ナンさんが私の世話係だとおっしゃいましたよね?
「えっと…ですが、ナンさんは……」
なんと訊いていいものかと、私は懸命に言葉を探ります。
「男だって言いたいのね?」
そんな私の様子を悟ったのはナンさんご本人です。
「そうです。なので、世話係になるというのは…」
「んっもう、そういう可愛げない事は言わないの~♪心は女性よりもリアルなのよん♪」
どういう意味のリアルなのでしょうか?私には全く意味がわかりません。本物の女性より女性らしさをもっているとおっしゃいたいのでしょうか。やはりナンさんは一癖も難癖もありそうです。
私はなんと返したら良いのかと分からず、無意識にですが、後ろにいらっしゃる陛下へと視線を泳がせておりました。まさに陛下に助け舟になって頂こうと思ったのです。
「沙都、ナンは少々個性的な部分はあるが…」
お言葉に最大限の気を遣っていらっしゃるのが分かります。
「家政業務に関しては一流の腕をもっている。こちらの世界で不慣れな生活も彼…彼女であれば、ある程度は不自由なく世話をしてくれるであろう」
「やだ、陛下ったら!そんな持ち上げられなくても、宜しいのですよ!」
と、謙遜した態度を取られるナンさんは正直とても嬉しそうです。
「そうですよ、陛下。ナンは只の世話好きなだけですし。執拗にやりすぎて、沙都様に嫌がられないかが心配です」
「ちょっとっ!」
間に槍を投げてきましたエヴリィさんに対し、ナンさんはドスの利いた低い声で抗議にかかろうとされました。あ~この感じ、まさにオネエですよね。
「いちいち話を遠回りさせるな。本題に入ると言っただろうっ」
「いやんっ!またオールさんに怒られちゃったじゃない!」
再びナンさんは頬を膨らませてプンスカになります。やはりどなたも何もフォローされません。それはそうとナンさんへ意識が集中してしまって、スッカリ肝心な事を忘れておりました。
「陛下、私はここでお世話になるという事ですよね?何故でしょう?」
「それは説明をする。もう気付いておるかと思うが、この世界は沙都のいた世界とは異なる」
「異世界という事でしょうか?もしかして私は彼方者になってしまったのでしょうか?」
「まさか。沙都には生きていて貰わなければ困るのだ」
「?」
たわやかな陛下の笑みが鋭利な表情へと豹変され、妙な緊張感が流れました。
「先程も申したが、其方の腹の中には私の赤子がおる」
「陛下。お言葉を挟み、失礼かとは存じますが、私は…その陛下の御子を身籠った記憶がございません。私はもしや記憶を無くしているという事でしょうか?」
「そうではない。沙都をこちらの世界に導いたのには大きな理由がある」
「と言いますのは?」
「王妃の代わりに私の子を生んでもらう為、召喚をしたのだ」