STEP94「素敵な出会いを貴方にも」
「みてみてルクソール! 今日はこれを観ようとTUTAYANで借りてきたんだ」
「チワマルのブーにゃんとパグのココア?」
「そうそう。子犬のブーにゃんとパグが紡いでいく愛と冒険の物語! この子犬達が凄く可愛いのとブーにゃんの方は魔法が使える設定で面白そうだから借りてきたよ」
私はブルーレイのディスクをルクソールへと手渡す。盤面には子犬のブーにゃんとパグのドアップのイラストが描かれていた。
「確かに可愛いな」
「でしょ? ちゃんとお菓子とジュースも用意してあるよ」
「バッチシだな」
ふふふっ、今の会話でお気づきでしょうか? ……そうですそうです! 私とルクソール殿下は晴れて彼氏彼女の仲となりましたぁ――――!!(∩´∀`)∩ 今では名前呼びも「殿下」⇒「ルクソール」なんて呼んじゃっているしね♬
ルクソールから愛の告白を受けた日、私はオーバーヒートして気絶した出来事も今は良い思い出だよ。あの後、私は目覚めてからもう一度告白を受けたんだよ❤ いっやぁ~~ん!!
思い出しただけでも顔から火を噴き出して、手足をジタバタしそうになるよ! 生まれて初めて出来た彼氏がなんと超美形の外人さんなんだもん。今でもルクソールが彼氏だなんて夢ではないかと何度も思ってしまう。
葵と泉もビックリぶったまげていた。それはそうだ。あの国立T大のミスターグランプリの受賞者が私の彼氏となったからね! 葵なんて「なんの薬を使って洗脳したんだ!」なんて物騒な事を言いよったが、泉は素直に「良かったね」と喜んでくれた。
あれから丸一ヵ月と過ぎたが、私達の交際はとても順調だった。私達の間はね。周りの人間は相変わらず騒がしくって、特に熱いルクソールのファン達から攻撃を受ける事もあるけれど、そこはルクソールも守ってくれているし、なんとか切り抜けていた。
今日は私の家でブルーレイ鑑賞。二人とも英語が話せるから、日本語字幕なしの英語で観ている。日本未公開をブルーレイ化した映画が面白いのが多くて、よくAMAZONAの通販やTUTAYANを利用して観ている。
今日の作品は「チワマルのブーにゃんとパグのココア」。この物語に出てくるチワマルなんだけど、子犬のルクソールにクリソツだったから、思わず借りてきちゃったんだよね。さすがに似ていたからという理由をルクソールには恥ずかしくて言えないけどさ。
お菓子も用意したし用意万全。私はルクソールと並んで座って早速ブルーレイを再生。CMから流れて、いよいよ今作が始まる……って最初に出てきた画面に、私もルクソールも度肝を抜かれる!
「ココア、オマエを愛している! オレは一生オマエを離さない!」
「ブーにゃん! 私も一生貴方から離れないわ!」
と、ファーストシーンから熱く抱擁してチューをするブーにゃんとココア。子犬が濃厚にじゃれ合う姿は可愛らしいんだけどさ、一発目から無駄に熱くない? あ、そういえばこの作品ってR15指定だったよね?
15Rっていっても子犬が主役だし、冒険物語だから少しばかりのグロ表現ありで指定してんのかと思ったけど、色恋沙汰の方でRかい! 子犬といえど気恥ずかしいわ! そんなこんなん考えている時だ。トンと私とルクソールの手が触れ合った。
――ドキンッ!
ルクソールの肌の温もりを感じて、私の心臓が跳ね上がる。チラッと彼の顔を覗いてみると、
――ドッキュ――――――ン!! *:.。. o(((≧ω≦)))o .。.:*
心臓が外に飛び出したんじゃないかと思った! ルクソールから手を握られる! それと妙に彼の顔が熱っぽく見えるんですけど? この一ヵ月間、ルクソールの顔を拝みまくっていたとはいえ、こんな色っぽい顔に免疫はございませんから!
「ヒナ……」
「な、な、な、なに?」
名前を呼ばれただけなのに、私は変に声がどもってしまう。今の名前を妙に甘い声で呼ばれたよね! ルクソール、ど、どうしたんだろう!
――こ、こ、これはもしかして……は、は、初・チュー・の・よ・か・ん!?
予感は的中! 段々と近づいてくるルクソールの美顔に、チューする前に昇天しそうになる……が、そこをなんとか持ち堪える。初は鮮明に記憶に残しておくんだから!
――いよいよ、いよいよ初チューが!
私は自然と瞼を閉じる。もう少しで……もう少しでルクソーの色へと染まれる…………と、思っていところにだ。
「ぎゃぁああああ!! 美男と喪獣のラブシーンが眼前に!? ガチ強烈!! 恐ろしや~恐ろしや~!!」
――え? ……な、なに今の男性の叫び声は!?
急に夢から現実へと引き戻された。私は目をパッチリと開けて目の前のルクソールをガン見する!
「ルクソール、今の叫び声はなに? 私の事喪獣って言ったよね?」
「オレはなにも言っていない!」
ルクソールは慌てふためいた様子で否定するが、いやでもね、この部屋にはルクソール以外の男性はいないじゃん?
「ゼロ?」
「え?」
ルクソールは何故かテレビに向かってゼロと呟いた。……「ゼロ」ってまさかあの「BURN UP NIGHT」の創造主の事じゃないよね? それと画面は映像が流れておらず、電源が切られたように真っ暗だった。
「ひっさしぶりだね! ルクソール殿下!」
「ぎゃぁああ!! 喋ったよ!!」
真っ暗な画面が喋ったもんだから、今度は私がとんでもない叫び声を上げてしまった!
――そうだ! さっき私を喪獣と言ったヤツはコイツだ!
憤りも感じるが得たいの知れない存在なのは確か! 私はルクソールへと身を寄せる。
「どうしてゼロが? もうオレはあちらの世界には行かないと伝えた筈だが?」
あの冷静沈着なルクソールが微妙に動揺しているのがわかる。それもそうだ。ルクソールは私と付き合うようになってから、BURN UP NIGHTの世界から身を引いたんだもの。
まだまだ正体不明のゲームだ。ルクソールはこちらとあちらの世界を自由に行き来する事が出来たみたいだけど、万が一あちらの世界に閉じ込められるような事があっては私と二度と会えなくなるかもしれない。
万が一の事を考えたルクソールは自らあの世界から手を引いてくれたのだ。ゼロはその時、特にルクソールを引き留めず、それから姿を現さなかったみたいだけど、また急に現れたりしてなんなんだ?
「そんなつれない事を言わないでよ! 君とボクの仲じゃん!」
――どんな仲だと言うんだ! この気まぐれ野郎!
思わず私は叫びそうになった。そういや、この声には見覚えがあった! 私がBURN UP NIGHTの世界に入る前、私の容姿認識をしたあのウザイ声のヤツだ!
『貴方様の容姿レベルはかなりのオマケのオマケをして“中の中”でございます!』
って自信満々に言ったヤツね! まさかあれがゼロ本人であったとは。というかゼロの方はルクソールと別れたつもりないらしい! 私達の前に現れたという事はまさかあっちの世界へのお誘いじゃないよね?
「ゼロ、悪いがもうオレはあちらの世界には二度と足を踏む込まないと決めている」
「うん。それがさ、今あっちの世界ってけっこうヤバイ事になっちゃって、君の力を貸して欲しいんだよね!」
「ヤバイってどんな事が起きているんだ?」
「それは実際の目で見た方が早いと思うよ!」
――うわっ! わざと言い方を濁らせて上手く誘おうとしているよ!
やっぱりゼロはルクソールを誘おうとしている! よくよく考えてみればだ。ヤバイ事になっているって言ったけど、
「自分が生み出した世界なんだから、上手く調整しなさいよね!」
「それに殿下がいてくれた方が、華やかな世界になるしさ!」
――絶対そっちが本音だろう!
ゼロは私に痛いところを突っ込まれ、具合が悪いと思ったのが本音を零してきた。なんだかんだ理由をつけて、ルクソールに来て貰おうとしているのが見え見えだ。
「必要としてくれているのは有難いが、オレはヒナとこちらの世界で生きていくと決めたから、誘いには乗れない」
ルクソールも頑なに断りを返す。断ってくれる度に私に対する愛を感じるよ!
「大丈夫大丈夫! そっちの召使いの子も連れて行っていいからさ!」
「誰が召使いよ! 私はルクソールの・か・の・じょ・なんだから!」
私はゼロに向かって身を乗り出し「彼女」を強調して言ってやった! さっき私とルクソールのキスしそうになったところを勝手に見ておきながら、人の事を召使いと言いよって!
「あ、思い出したよ。君ってあの女中のコじゃない? 確かジュエリアとして捕まっていたね?」
「そうですけど!」
「いや~ビックリビックリ! 君って確か疑似恋愛がしたいって真剣に考えているようだったから、ボクの世界に招いたんだけど、まさかこんな大物をゲットしちゃうんなんてさ!」
「ちょっとやめて下さい! 人の過去をルクソールの前でペラペラと喋ったりして!」
別にルクソールに見栄を張るつもりはないけどさ、この年で恋愛初心者ですをバラされるのは恥ずかしいわ!
「殿下の周りは綺麗な女性が多かったのに、なんで君が選ばれたのかな~? うーん、もう綺麗な女性には目が肥えて麻痺しちゃってたのかもしれないな。君みたいな顔の崩れたコが却って新鮮に見えたのかもしれないよ!」
「ガーッ!! この口減らず!!」
爆発した私はテレビを持ち上げ投げ飛ばそうとした!
「ヒナ、落ち着け! テレビに罪はない!」
「そうそうテレビに当たるのはよくないよ!」
「ガー!! 白々しいわ!!」
ワーワーと騒ぎ出した私をルクソールが必死で止めにかかる。
「私達の前にもう二度と現れないで!!」
怒りが治まらない私はゼロに向かってピシャリと言い放つ!
「今の君の幸せがあるのは誰のおかげなのかな?」
「え?」
急にゼロの声音が硬くなり、空気までもピリッと固まったように感じた。
「ボクが招かなかったら、君は殿下とは結ばれなかったわけだよね?」
「そ、それはそうですけど……」
いつの間にかゼロの方が優位になっていた。悔しいが言われている事は間違っていない。
「殿下、それは君にも言える事だね?」
「ゼロ……」
ルクソールは感慨深そうにゼロの名を呼ぶ。ゼロはちゃっかりルクソールも丸込めようとしているよね?
「ボクは君達にとってかけがえのない恋のキューピット、そうだろう!?」
――うわっ、めっちゃ強気に出てきたよ! なんなんだよ!
「という事で……とっととあっちの世界へレッツラGO! GO!」
「ゼロ!オレ達は行くとは一言も!」
いいぞ、ルクソール! ここで流されずに断ろうとしているではないか!
「ヴァイナス王太子がし出かしたんだ。このままじゃ……お陀仏になるのも時間の問題かな」
「あ、兄上が!? わかった! すぐに行こう!」
お~い、ルクソール! 私の感心を返してくれよ! どんだけキャラの兄を愛しているんだ! ブラコンか!
「そうこなくっちゃ~♪」
ルンルン♬ と、ゼロから陽気な鼻歌が聞こえ始めた。
「脅しでしょ、今の!」
私は鋭くゼロに突っ込みを入れたが既に時は遅しっ! ほんの瞬きしたその瞬間に、私達はまたBURN UP NIGHTの世界へと入ってしまっていた!
――もうなんなんだ! あのゼロというゲームは!
最後の最後まで正体は不明の存在だったが、私がこの世界で素敵な彼と出会えて結ばれたのも事実! これからも素敵な愛の物語をルクソールと一緒に紡いでいきます! あっちでもこっちでもね!
もしかしたら貴方の元にもゼロが迎えに来るかもしれません。もし「恋する❤キューピッツ」が提供する「BURN UP NIGHT」を見かけたら(私のように)素敵な出会いを見つけて下さいね゜・:,。★ ヽ(*´∀`)人(*´∀`*)人(´∀`*)ノ