STEP11「え? 嘘でしょ!」




「このような美しさとは無縁な娘が私のジュエリアな筈なかろう!」
「はぁ?」

 私は品格に欠ける声を洩らした。うん、確かに私はジュエリアではないけどさ、否定するにも今の言葉はないよね? これが国の第一王子の言葉なのか。つぅか「私のジュエリア」という言葉にガチドン引き~。

「人違いでしたか。これは失礼を致しました」
「全くだ!」

 怒りを噴火している王太子に対し、魔術師は冷静に詫びの言葉を入れた。……一番怒りたいのはこの私ですけど? だけど、王太子の妙な怒りを目の前にしたら、怒気がしぼんでいた。っていうか、この王太子こそ色々と言い難くない? 私は凄い剣幕をしている彼を目の前にして、あやふやな顔をしていた。

 ――ここは本当にBURN UP NIGHTの世界なのだろうか……。

 この意味はおわかりでしょうか。そう、BURN UP NIGHTといえば、男性の容姿は上の中以上でなければゲームには参加が出来ない。ところがすっとこどっこい、こちらの王太子は違反レベルであった!

 ――大仏様をあくどくしたような顔だよ。髪型はパンチパーマだし。

 一癖いや難癖もある面構えをしていた。年は二十台の半ばぐらいだろうか。そして昨日ルクソール殿下が身に纏っていた礼服と似たコートを着ているけれど、可哀想なほど服に着飾られている。そもそも黒いベースの服が不似合いすぎだっての!

 部屋も無駄にキラキラと豪華な調度品が設えられていて、全部に食われている。そのせいか知的要素も品格も殆ど見られない可哀想な風貌となっていた。ジュエリアの趣味って一体……。いや、ヤツの目的は王妃という座だったのかもしれない。そういう事にしておこう。

 ハッ! もしかしてだけど、ルクソール殿下と兄弟!? いやいや有り得ない、腹違いだとしか言いようがない。……あ、いや、オンラインの世界だから兄弟とはいっても実際は他人なのかな? ん~、その辺の事はよくわからない。

 ルクソール殿下も魔術師も騎士も相当な美形だから、てっきりこちらの男性はみな見目好いものかと思っていたけど……とんだ勘違いだったのか。いや、そもそもここはBURN UP NIGHTの世界ではないんじゃ……?

 全然恋愛要素が皆無だしね。……あ、でも確かジュエリアの口からBURN UP NIGHTって言葉が出たような。なんか実際は色々と裏切られるような内容ばかりでガッカリだわ。

「人違いであればもう用はなかろう。早くこの部屋から立ち去れ!」
「大変申し訳ございませんでした」

 再度魔術師は詫びを入れると、王太子に背を向けて立ち去ろうとした。それに私も後に続こうとした時だ。

「待て」

 不意に王太子が私達を呼び止めた。なんだろう? 私と魔術師は同時に振り返る。

「いつまでかかっている? 私のジュエリアを見つけるのに」

 ――いちいち“私の”はいらなくない?

 思わず口元から零れ落ちそうになったよ。あのジュエリアにまさか本当に執着しているとは……。

「申し訳ございません」
「早く見つけ出せ! でなければ私の心は蝕まれていき、執政など手がつけられぬ!」

 ――それじゃ王太子が務まらんだろう!

 魔術師も素直に詫び入れているけど、この王太子、なに正当化して強気で言ってんだか! 公私混同もいいところだわ。さすがあのジュエリアにうつつを抜かしただけあって狂気を孕んでいる!

「最善を尽くしておりますので、もう少しお待ちを。兄上」
「頼んだぞ、ルクソール。あれだけ私に惚れ込んでいた私のジュエリアが黙って姿を暗ますなど、有り得ないのだからな」
「はい」

 この王太子、もう手遅れだ……って今、ルクソール殿下、王太子を「兄上」と呼んだよね! うっそーん、この二人の何処に同じ血が流れていると? 誰か嘘だと言ってプリーズ! あんぐりと開いた口が塞がらないわ。

「行くぞ」

 呆けていたら魔術師に促されて、余儀なく私は王太子の部屋を後にしたのだった……。

❧    ❧    ❧

「なんで私を王太子にジュエリアだと言って突き出したのよ!」

 私は部屋を出るなり、最初に魔術師へ文句をぶつけた。敬語なんてとうに崩れているが、気にしない、だってこの怒りは正当だからね。

「王太子に確認を頂く為だ。オマエがジュエリアではないかとな」
「はぁ?」

 文句に答えたのは私の後ろを歩く騎士だった。私は不満を付けて一緒に振り返る。

「だからといって、あんなやり方をしなくても。……あ、でもこれで私がジュエリアではないと証明されたわけね!」

 自然と顔に笑みが広がる。そうだそうだ、王太子が違うって言ったのなら、これで晴れて私の疑いは無くなったわけだよね。嫌な思いしたけど、それが却って報われたわけだ♪

「という事はジュエリアを捕まえる任務も無くなったよね!」

 わーいーわーい、自由の身になるわけだ。そしたら恋愛も出来るようになるよね。本来の目的が行えるわけだ。ところがだ。

「そう簡単には認めるわけにはいかぬ」
「え?」

 騎士の言葉は一瞬にして私の心に闇の影を落とした。

「な、なんで!?」
「ジュエリアは魔女の可能性がある。そうであれば、魔法で容易く変装が出来るからな」
「は……い?」

 私の聞き間違いですかね? 確かにジュエリアは人を惑わす魔性の女だとは思う。でも「魔法」ってなんですか? まさかとは思うけど、ここはファンタジーの要素満載の世界ですか? まさかね!

「オマエを王太子に会わせたのは今の姿が素であるかもしれないと思ったからだ。我々が調査した結果、普段のジュエリアは別の姿をしている可能性が高い」
「それじゃ探しようがないじゃん!」

 そんな薄っぺらな情報で探し出せなんて、ムリムリカタツムリ!

「それでも探し出さなければ、オマエの処刑は免れないぞ」
「なっ」

 また平然として処刑を口に出しやがったよ、この騎士は!

「なんでそこまでして、私にジュエリアを探させるのよ!」
「こっちもジュエリアを捕まえるのに必死なんだよ。見ただろう? あの王太子のジュエリアに対する熱の入り方を。次代を担う王太子があの様子じゃ、国の未来が危ういんだよ。しっかりと王太子を正していくにも、まずはジュエリアの事を片付けないとならない。国の未来がかかっているのだから、生半可には出来ないってわけさ」

 騎士に食ってかかろうとしたら、今度は魔術師が淡々と答えてきた。尤もな理由かもしれないけど、無関係な私にとっては腹立たしいのなんのって!

「腑に落ちない様子だけど、君がジュエリアではないと証明するには本物のジュエリアを捕まえるしかない。それにいつまでもヤツを探す時間をかけたくないからね。タイムリミットを決めて、さっさと見つけ出してもらわなきゃ」

 くっ、なにその人を聞き分けのないみたいに、冷めた表情をして物を言ってさ! 私を巻き込むなっての!

 ――絶対に私はジュエリアをとっ捕まえてやるから! そしてヤツを私の目の前でひざまずかせてやる!

 そう私は固く拳を握って決意した。





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