STEP7「ラブ❤イベント突入ですか」




 牢獄から私を出すよう命じられた魔術師と騎士は渋々に従っていたけれど、明らかに彼等は意にそぐわない様子であった。突然、ルクソール殿下から下された決断、その真意は……?

 てっきり私がジュエリアではないとわかってもらえたのかと思いきや、私を牢獄から出す代わりに本物のジュエリアを捕まえる事を条件にさせられた。期間は一ヵ月。もしその間にヤツを捕まえる事が出来なければ、虚言を吐いた罪とみなし、私は処刑されてしまう。

 つぅか普通に考えて無理じゃない? 普段ジュエリアが何処にいるのかもわからないし、私は顔を隠したヤツとちょっくら話をしただけで、実際の姿は知らないんだよ? それでどうやって探し出せと?

 ――ガチ有り得ない!

 とはいっても、あのまま条件を呑まないのであれば、即処刑。どうみても条件を呑まざるを得ない状況だった。思うに無茶ぶりなのは殿下もわかっていると思うんだよね。なにか彼に意図的な考えがあるのかな……。

 それがなんなのか考えてわかる筈もないわけで。色々と聞き出したい事は山ほどあるんだけど、今は目の前を歩く麗しい殿下の背中を追って、宮殿内部を進んで行くのがやっとだった。どうやらこれから私は部屋の案内をしてもらえるみたいだ。

 ――歩き方が綺麗だな。

 私は何処までも品性が損なわれない殿下の優美な姿に見惚れていた。この人、本当にカッコイイ。牢獄の薄暗い中でも見目好さが際立っていたけど、光のある場所で目にする彼は神の領域だった。

 プラチナブロンドの髪もアメジスト色の瞳も陽射しに反射してキラキラ光る水面のように輝いていて、海のように広大で荘厳な存在感の溢れる人だった。そんなめくるめく姿に心臓が飛び出しそうになって、キュン死にしかけそうになったしね!

 今ならドルオタの気持ちがわかる。リアルはヤバイわ。鼻血ブー垂れもんだ。ヤバイ、今の殿下は後ろ姿なのに変に昂奮してきてしまう。その背中に抱き付きたいと思ってしまっている自分は痴女ですか? 変態ですか?

 あー、今の心情を例の魔術師や騎士にバレたら、間違いなくイカレポンチ扱いにされるね。何故なら今こうやって殿下自ら部屋の案内をされているわけだけど、魔術師と騎士は私から襲われてでもしたらどうするのかと、訴えていたんだよね。

 んでもってアイツ等二人の考えている「襲う」の意味が異なっていた。騎士は闇討ちという意味で、魔術師は事もあろうに色目的な意味で言っていた。どっちもどっちだ。とはいえ、確かに殿下に対してトキメキあるのは事実な訳だけど……。

 ――私は乙女ゲームの世界に入ったわけではなかったのか……。

 その要素全く皆無の世界なんだよね。ここは命を懸けたサバイバル推理ゲームの世界ですか? 全くジャンル違くねぇ? あ~なんでこうなったわけさ。本当にもう訳がわからなん。そもそもこの世界、始めからオカシかったんだよね。

 それは例のジュエリアという悪役令嬢のせいだったわ。アイツが私に関わらなければ、今頃本当はラブイベントに萌えていたかもしれないというのに。純粋な私の心を踏みにじったあの悪女め! ヤツに対して再び漲った怒りが湧き起こっていた。

「ここだ」

 色々と思考を巡らせている内に、どうやら目的の場所まで来たようだ。そして殿下は目の前の扉を開ける。

 ――ギィ―。

 見た目からして絢爛な装飾が施された重厚感のある扉は、開けた時の音まで重みを感じた。

 ――なになにこの部屋は?

 私の胸に期待が膨み、殿下の後に続いて部屋へと足を入れる。すると……?

「わぁっ!」

 思わず感嘆の声を上げてしまった。だって一言でいえば、中世ヨーロッパ風のお姫様部屋なんだもん! 純白で基調された天井と壁には芸術的な形の模様が描かれ、ベッド・カーテン・椅子といった調度品はアンティークな素材で可愛らしいピンク色のお花のデザインで統一されている。

 今まで映画の中でしか目にした事がなかったけど、実物は胸をドキドキにときめかせる。お姫様気分を存分に味わえる高級感の溢れる空間だった。只々凄いとしか言いようがなかった。

「ここを本当に私が利用していいお部屋なんですか!」
「そうだ」

 私は目をキラキラにさせ問うと、殿下は簡素に答えた。もう一度、部屋全体を見渡す。本当に私の部屋になるんだ。興奮した気持ちと、そして……。

 ――ホッ。

 ここで安堵の気持ちが心を満たし、躯の力が抜けてしまう。ついさっきまであの陰鬱な空気が漂う牢獄の中にいて、しかも冤罪で処刑されるかもしれないという恐怖の思いを抱えていたんだもん。それと打って変わってこんな素敵な部屋で休めるのかと思えば、ホッと胸を撫で下し、気が付いたら目頭が熱くなるのを感じていた。

「え?」

 フワッと躯がなにか温かいものに包まれる。潤んでいる視界では一瞬、「それ」がなにかを把握出来なかった。……けど、髪を愛おしむように撫でられて気付く。

 ――え? これってもしや!?

 「なにか」を察した私はバッと顔を上げる。

 ――ドッキ―ン!

 心臓が飛び出た!? そう思ったのも間近に殿下の美しいお顔があったからだ。なになになになにが起こったわけ!? どうして私、殿下の懐で抱き締められているわけさ?

 ――い、いきなりラブ❤イベント突入なわけ!?

 自分でも耳の付け根まで真っ赤になっているのがわかる。だって生まれてこの方、こんな風に男性から触れられた事なんてないんだから。男性経験のないウブな私には刺激の強い出来事だった! 本当にどうしてこうなったの! 部屋で二人っきりになった途端にこれでしょ!?

 ――はっ!も、もしかして、殿下って私の事を……? う、嘘!

 時折、彼から射抜くように鋭い視線が送られる時があったけど、それって熱視線だったって事!? よくよく考えてみれば、ここはBURN UP NIGHTの世界。日本語に訳せば「燃え上がる夜」。キタァ――――(/ω\*))((*/ωヽ)――――――!!!!

 あ~、こんなイベントがあるなら、せめてお風呂に入った後にして欲しかったよー。昨日、丸々地下牢獄なんかにいて躯洗えてないし、私、に、におってないよね? こんな素敵な殿下に嫌な体臭をかがせたくないんですけどぉおおー! 私だって乙女なんだからさ。

 正直、自分でもなにを言っているのかわからないほど、興奮エキサイティングしてしまっていた。経験がないが故に変に妄想だけが爆走し、これから起こり得るだろう出来事に期待してしまう自分が痴女だと思ってしまう。

「あ、あの、殿下、こ、これは?」

 や、やだ、緊張のあまり声が上擦ってしまっているじゃない。「殿下、これはどういうおつもりでしょうか?」と、私はわざとらしく訊こうと思っていたのに。動悸もドクドクドクと超高速していて、もう破裂しそうだよ~。

「これは? 泣いている女性に肩を貸すのは常識であろう? 当たり前の事を訊く変わった娘だな」
「は……い?」

 ――なんですか? その当たり前の事とは?

 私は目をパチクリさせて固まる。も、もしや、こちらの世界では好意云々の関係なしに泣いている女性がいたら、肩を貸すのが当たり前ってやつ? ま、紛らわしい、今度は違う意味で恥ずかしくなってきたよ。クッソー、私のトキメキを返してくれっての!





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