「食事にする? お風呂にする? それとも私?」




 面白がって思わずキールの方に身を乗り出して、現代風新妻が帰りを待ち焦がれていた夫を向かい入れる時のお決まりのセリフを吐いてみた。

「はぁ?」

 キールは意味がわからんといった顰め面に変わってしまった。なんだ、そのイケてない反応は! こっちの世界ではお決まりじゃないから、そんなリアクションして当然か。私は調子づいてニンマリとした表情をキールに向ける。そして、

「だから食事にするの? お風呂? それとも私?」

 もう一度さっきの質問を投げかけてみた。果たしてキールはどう答えるのか?

「……風呂ってなんだ?」
「はい?」

 私はポカンとなった。そっか、こっちでは現実世界でいう外国様式で湯船には浸からないから、わからないのか。

「“お風呂”って湯槽にお湯を溜めて肩まで浸かる事だよ。私の住んでいた国では当たり前の事だったんだけどな」
「そうか、湯浴みの事か」
「そうそう」

 私の簡単な説明でキールはすぐに納得したようだ。

「そう……、じゃぁこれにしようか」

 いきなりキールがフッと真顔になって……? なんか私に無駄に接近していませんかね?

「な、なに? いきなり?」

 私は反射的に後ずさりをしていきながら、キールへと問う。

「なにって? そっちが訊いてきたんだろ? 飯か、湯浴みか、それかオマエかって?」

 そうだった。お風呂の説明をしてすっかり忘れていたよ。キールがなにを選ぶのか。私なんて言われてドキドキしてしまうのではないかと面白がっていただけなんだけど、なんかこの状況危なくないすか?

 キールはなにも言わずに接近して来ているぞ。私はドキドキしながら躯を後退させるが、急にドンと腰になにかが当たって振り返る。調度品の棚に邪魔をされて、それ以上下がれなくなっていた。

 私が躊躇している間に、キールを私の目の前にまで来ていて、視線が合わさると、ドックンと私の心臓が跳ね上がった。キールにやたら熱を帯びた表情で見つめられていたからだ!

 ――こ、これは、な、なんか、ヤ、ヤバくないか!?

 追い詰められた獲物状態だ。さらに私は心拍数が上がって、キールから視線を背けようとしたが、吸い込まれそうな翡翠色の瞳に捉えられて逸らせない。なんとも言えない緊張した空気に纏わりつかれる。

「そろそろ食わせてもらおうか」

 キールからわけのわからん言葉が飛んできた。

「な、なにをだ!」

 私は鋭く突っ込みを入れたのだが、

「うわぁ!」

 突然、キールから躯を持ち上げられて、後ろの調度品の上に腰を落とさせられる。

「な、なにすんだよ! こんなところに座らせて!」

 やたら無駄にゴージャスな棚の上に座らされた私は委縮してしまい、キールに向かって怒鳴り声を上げた。

「なにって、だからオマエを食わせてもらおうって」
「ッカー、なに言ってんだよ! あっしは食いモンじゃないっての!」
「オマエが言ってきたんだろ? “私にする?”ってさ」
「!?」

 これはまさにキールは私を食べようとしているのか! なんという事だ! ほんの冗談で言ったつもりなのに、思わぬ展開を招いてしまったぞ!

「千景が期待している事をやってやんないと。せっかく珍しい事を言ってきてくれてんだからさ」

 キールは勝ち誇ったように、無駄にニヤつきながら言う。私はアワアワに動揺して慌てふためく。

「な、なにしようとてんだよ! エッチな事しようとするなよな!」
「へー、エロイ事期待してたんだ?」

 うわ~余計な事言っちまったよ~。キールは満足そう気に笑みを深める。

「!?」

 そして私の寝巻のスカートの裾を上げてきたぁああ!!

「や、やめろ! この変態め! エッチな事していいなんて一言も言ってないんだぞ!」
「ふーん」


 そう一言だけキールは返してきたが、全く行為はやめようとしない。
「やめろやめろやめろ!!」

 私はおバカなキールの手をペシンペシンッと叩きながら抵抗を見せるが、彼は気にする様子も見せず、私の下半身を露わにしてきた。そして……、

「……オマエさ」

 さっきまで嫌味な笑みを浮かべていたキールだが、いまはとことん不満げな顔をして声をかけてきた。

「前から思ってたんだけど、その妖怪柄のショーツはなんなんだ?」
「よ、妖怪柄?」

 私はキョトンして一瞬首を傾げた。私の今日のオパンツはお耳が長い「ウサちゃん」柄だった。

「な、なにが妖怪柄のオパンツだ! これは“ウサちゃん”ではないか! 私の世界では愛くるしい姿に萌えられている動物なんだぞ!」

 私はワンポイントの動物柄オパンツが大のお気に入りなのだ。パンダちゃんオパンツを筆頭に、ウサちゃん、クマしゃん、ニャンコ、ワンコetcと数々の柄をデザインし、特注してもらっている。

「そうなのか……。なんかやたら好んで妖怪柄のショーツを穿いてるけど、前からもっと色気のあるデザインのを穿けって言ってんのに」
「!?」

 キールは不愉快そうに気持ちを吐き出したが、私は……。










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