番外編③「想っている人は……」




 キールの言葉の意味を考えると、とても彼と目線を合わせていられない。

「もういいか?」

 そんな強請るような甘い声で言われて、嫌とは言えないよぉ。

「う、うん。いいよ」

 私は答えた後にカァーと顔が赤く染め上がった。今日はやっぱり、さ、最後までするつもりなんだ! ドックンドックンと脈打ちが切迫する中、キールは再び私の膝を屈折し、大きく左右へと広げる。もう恥ずかしさMAXで、視界を開いてはいられなかった。

 キールの熱塊が秘所の入口に当たるのを感じ取ると、私はビクンッと反応した躯を引きそうになったけれど、キールの腕がガッシリと私の足を固定してきて、それを許さなかった。グッと秘所に重圧がかかり、私は覚悟を決めて待った。

 ……………………………。

 ところが、中へと入ってくる気配を感じられず、思わず瞼を開いてみると、キールは私にし掛かったまま見下ろしていた。

「千景。オマエ、このまま契りを交わしても構わないのか?」
「え?」
「愛し合ってからじゃないと出来ないって言っていただろう? それにオマエはチナールが好きだろ?」
「そ、それは……」

 それを言われたら一溜まりもない。返す言葉も出てこない。私は戸惑いのあまり、キールから視線を逸らす。正直かなり躯は疼いていて、早くキールに満たして欲しいと叫んでいる。

 でも冷静に考えてみれば、私はチナールさんの事が好きだし、今から繋がろうとしているキールから、一言も愛の言葉をもらっていない。これって結局、前と状況は変わっていなくて、本来交わしてはいけない筈だ。

 私は無性に悲しくて哀しくて瞳が涙で滲んでいく。また受け入れてもらえないのかと、その悲しみが涙となって溢れてくるのだ。キールは夜な夜な訪れる女性とは最後まで抱けるのに、どうして私とは出来ないのだろう。

 他に好きな人がいる私に言えた義理はないし、それにここまできて、気を遣ってくれているキールの優しさに感謝しないといけない。でも、でも……。それと今日はキールが他の女性ひとを抱くの止められたけど、明日からはまたわからない。

 ――だって私は愛されていないのだから。

「なんで泣いてんの?」
「だって私とは最後までやれないんでしょ? 他の女性とは出来ても」

 私の言葉にキールはハッと息を詰めた。他に好きな人がいる私が責める資格はないけれど、涙が止まらない。キールは暫く私を見つめていたが、ふと私の伝う涙を指で拭って口を開く。

「オマエが来てから、他の女には手を出していない」
「え?」

 私は耳にした言葉の意味がわからなかった。

「手を出していないって、だってこの間、会った美女とエッチしたんでしょ? それに私の部屋で寝なくなってから、他の女性とってシャルトも言っていたよ。さっきも私がキールの部屋に行った時、女性がいたじゃん!」

 思い当たる節が多すぎて、私は捲し立ててキールを問い詰める。

「あぁ~、この間の彼女が戻って来たっていうのは嘘だよ」
「う、嘘!?」

 シレッとして答えるキールだけど、私は思いっきし面食らってしまう。

「オマエ、いきなり無理に探すって言って出て行くし、待っても来なかったじゃん?」
「そ、それは……」
「少し腹いせにさ。それとシャルトが夜な夜なって言ってたっていうのも、アイツが勘違いをしているだけだ。部屋に来た女性とは立て込んだ仕事の話をしていただけだし、さっきオマエが部屋に来た時もそう」
「そ、そうなの? で、でもこの間の美女にはキールが他の女性とエッチしなくなったのは私の宮殿入りと関係ないって言ってたじゃん!」
「あれはもし関係があると言ったら、余計にオマエへの嫌がらせが増えると思ったからさ」
「え? そうなの? ……じゃぁ、私が来てから本当に誰ともエッチしてないの?」
「あぁ、してない」

 騙されていたのには腹立だしかったけど、キールが私を庇って嘘をついてくれた事や他の女性を抱いていないという事実がわかって、凄く凄く嬉しかった。今度は別の意味で涙が込み上げてくる。

「それは私が来たから?」
「あぁ」

 キールは迷う事もなく返事を返してくれた。私は今、愛情をもらったように心が温かさで溢れ返っていた。

「キールは私の事好き?」
「え?」

 自分でもストレートな事を訊いているなとは思った。キールは目を丸くして、私を見つめている。でもすぐに、

「オマエは?」
「え?」
「オマエはオレの事好きか?」

 訊き返されて今度は自分が目を丸くする。真っ直ぐに捉えられているキールの瞳に魅入られてしまい、躯が硬直する。正直、キールがなんで今の質問を返してきたのかがわからなかった。私が好きなのはチナールさんだって知っている筈なのに。

 チナールさんは温かくて柔らかい雰囲気を持っていて、一緒にいるととっても落ち着く。こんな人となら、結婚してからも心地好くいられるんじゃないかなって思う。

 キールは最近一緒にいるとドキドキする。エ、エッチな事をいっぱいしてくるからだと思うけど。手を出されると、なんだかんだ抗えなくて、気が付くとキールを求めている自分がいる。

 彼と一緒に寝なくなってからも、淋しさから眠れなくなってしまって、他の女性とエッチしているのかと思った時も、胸が張り裂けそうだった。キールには私だけを見てもらいたい、私だけに触れてもらいたいって思う。

 ――あ、あれ?

 急にドキドキと鼓動が高まってきて、それが全く抑えが効かず、心臓が爆発しそうとなる。自分の言葉の意味を理解すると、な、なんだか、まるで私……?

「私、キールの事が……」

 自分の意思とは別に口元が開く。キールは私の言葉に合わせて、右手を私の左手と重ねて指を絡めてきた。それに私も応えるように絡め返して……。

「キールの事が……す……」

 キールの熱塊が秘所へとググッと圧力をかけてきて、花びらを割って入りかけた。

 ――ドクンッドクンッドクンッ。

 爆音を上げる心臓と共に、言葉を続けようとした瞬間。

 ――コンコンコン。

「「え?」」

 私とキールは同時に叫んだ。入口の扉をノックする音が聞こえ、拍子抜けしてしまった。

「キールいるんでしょ? 千景、悪いけど、急いでいるから開けるわよ」
「へ? ま、待って!」

 な、なんと! ノックの主はシャルトのようで、私は扉を開けるのを待ってもらおうとした。だってだって今開けられたら、こんな凄い格好見られちゃうんだもん! ところが、すっとこどっこい、ギギィーって扉は開けられてしまった!

 ――ひぃいい!!

 私は久々にムンクの叫び顔となる。なにも知らないシャルトはヒョッコリと部屋へと入ってきて……。私とキールは呆気に捉われて、そのままの格好で石化していた。

 シャルトは無言で私達の方へと向かって来る。扉から歩いて来るまでの間に、キールの後ろ姿と私の足が見えていたと思う。素っ裸のね! そしてシャルトは私達の近くまで来ると、目を細め、なにかとても言いたげ表情をして私達を見下ろしていた。

 ……………………………。

 私はもう恥ずかしくて恥ずかしくて、早くこの場所から消えてしまいたかった! だってだってこんな間近からシャルトに見られて公開プレイじゃん!

 し・か・もぉ! い、今から最後のところにいこうとしている格好で、どんだけ恥ずかしいのやらぁ!! 無言で立っているシャルトは異様な凄みがあって……。

 ――こ、恐すぎる! うぅ~早く向こうに行ってよぉ!!

「千景。アンタ、最近キールと寝てなくて欲求不満だったのね?」
「ちっ、ちがうよ」
「じゃぁ、なにこの状況?」
「こ、これは合意の上だもん!」
「あーのーねー、キールは私と大事な仕事の話をしていたのよ! ずーっと待っていたのに、キールが一向に帰って来ないと思っていたら、まさかね~」

 ひぃぇ、まさに鬼の形相! しかもキールの部屋から聞こえた女性の声ってシャルトだったの! キールの言っていた言葉が本当だったんだと安心するのも束の間、とにかくシャルトが、こ、恐すぎるぅ~!

「ったく、キールもキールよ! こんな貧相な千景の躯に欲情して!」

 ペシンッとシャルトから軽く頭を叩かれるキール。しかし貧相な躯って……。一応、胸はBカップはあるんだからね! フンフンッ!

☆*:.。. .。.:*☆☆*:.。. .。.:*☆

 結局あの後、キールはシャルトに連れられて去ってしまった為、最後までエッチする事は出来ず。それからシャルトとの話を終えたキールは私の部屋へと戻って来てくれて、エッチの続きをした…………………………………………………………………………のかといえば、キールが来る数分前に、私の女のコデーがきちゃって、お預けとなってしまった。

 もしシャルトが来なかったら、最後までしてたのかなって思うと、シュボボボ~ッて顔が熟れ熟れの林檎色へと染まる。キールから最後までしてもらえるんだって嬉しい半面、どこかまだ気になるところがあったりもして。


 キールが結局、私を好きなのかどうかもわからなかったし、それと私……あの時、キールになにを言おうとしたんだろう? あんまりにも無意識すぎて、自分がなにを言おうとしていたのかわからなかった。

 ――まぁ、考えても仕方ないからもうやめようっと!

 私はそのままバスルームへと向かって行く。そして私が本当の自分の気持ちに気付くのは、この後、マルーン国からこのバーントシェンナ国へと戻って来た時、初めて気付くのであった……。





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