番外編⑬「あの濃厚なひと時がカムバック!?」




 キレイさっぱりすっぽんぽんとなった私とキールは浴室へ足を運んだ。私は日本人の女性らしく、フェイスタオルで躯の前を隠していた。キールが相手でもやっぱ恥じらいを感じるもん。

 ――うっひょー!!

 私はキールと一緒のお風呂って事に頭がいっぱいだったけど、バスルームを見て口があんぐりとなった。今日のバスはおったまげだ。露天ではないか! 淡い光が灯る中、周りが瑞々しい緑に囲まれた自然の空間となっていた。

 屋根、柱、床、囲いのすべてが木造となっていて、落ち着いた雰囲気を醸し出している。その中心には艶感のある大理石で設えたバスタブがあり、溜められたお湯の中にはヴィラのような香りの良いお花がプカプカと浮かんでいた。

 ――屋根付きのお洒落なハンモックまであるではないか! す、凄いぞ!

 そうそう、こちらの世界の人は日本のようなお風呂に浸かる習慣はなくて、基本シャワーなんだけど、わざわざ私の為に、お湯を溜めてくれているんだよね。昨日の宿がそうしてくれたから、今日もそうなんだと思う。感謝感謝!

「今日もまた凄い素敵な湯槽だね」
「あぁ、凄いな」

 瞳をキラキラとして興奮している私の様子を見ているキールも微笑んでいる。

「私の世界では外にある湯槽を“露天風呂”って言うんだよ。私、露天風呂が大好きだったんだよね」

 私は高揚し過ぎて前を隠しているタオルが外れてしまい、豊満なボディが姿を現してしまった。

「あっ」

 咄嗟に私はまたタオルで躯を隠す。薄暗いけど、躯のラインはわかる明るさだもんね。

「千景……」
「!?」

 ぬぉ! き、気のせいかな? 妙にキールの声が熱っぽく聞こえたのは湯気のせいか!?

「な、なに?」

 私は妙に声が上擦ってしまい、キールの方を見られずにいた。

「オマエ、なんでそんなんで隠してんの?」

 そう問うキールは私が隠しているタオルをスルリ剥ぎ取ってしまった! 声からして彼が不満そうなのがわかる。

「あっ!」

 再びすっぽんぽんを露わにした私は瞬時に赤面が広がる。

「何度も言うけど、千景の裸体は今更だって」
「うぅー」

 私は恥ずかしくて俯いていると、これがまたキールのご立派なモノが目に入ってしまった! とんだ刺激物に、益々顔に熱が集中した私は即座に、その場から離れる。

「さ、先に躯から洗わないとね!」

 私は勝手にキールに背を向けて、中心にあるバスタブとは別のタブへと入った。メインのタブにお湯が張ってあるから、特別にもう一つ躯を洗う用のタブを用意してくれたんだと思う。ボディタオルやシャンプーとか置いてあるしね。

 私はそそくさボディタオルを手に取り、ソープを付けて躯を洗う事にした。ゴシゴシゴシッ、ん~! このソープってば、バニラエッセンスのような甘い良い香りがする♪

「千景……」

 私の後を追ってきたキールがいつの間にか前まで来ていて、またもや熱っぽい声で私の名を呼んだ。

 ――うぉ!

 どうやら熱っぽいのは声だけではなくて、躯全体からフェロモンムンムンを放散している。裸体でそれヤバイから! 湯気で余計に色づいて見えるんだって!

「オレも一緒に洗うよ」
「!?」

 い、一緒にって、ど、どういう意味で!? 私が動揺している間にも、キールは一緒のバスタブの中に入って来てしまったぁぁああああ!!

 ――あわわっ、ど、どうしよう!

 私はキールと距離を置こうとする。だって前回、私がボディタオルを手にしたら、無理に取られて「そんなん必要ないよ。オレで洗ってあげる」って言われて(いっや~ん!)、後の事は皆さんのご想像にお任せしますが、結局散々エッチな事されたんだもん!

 ――あの時の事を思い出しただけで、躯が逆上せてきたぁぁああああ! どーうーしーよぉ~~!!

 …………………………。

 ところがだ。キールは淡々と自分の躯を洗い始めている。

 ――あ、あれ? どうした、キールよ。

 もしかして、あの時はイスラちゃんの事があった後だったし、それで熱が入っていたのかもしれない。今日は落ち着いているのかな。

 ――はぅー。

 なんか変に意識し過ぎて、返ってキールに悪い事したな。あからさまな態度をとってしまったもん。キール、気にしてないかな? 彼をチラ見すると、変わらずゴシゴシと躯を洗っていた。

 ――あっ、そうだ!

「キール、背中流してあげるよ」
「え?」

 急な私の申し出にキールは面食らっているけど、私はキールのボディタオルを手にし、

「遠慮しないで。こっちに背を向けて」

 あっちあっちと前を合図して、彼に背中を向けさせる。背中流しでご機嫌取りをするぞ。

「なんだ、急に? なんで背中?」
「こっちの世界では背中を洗ってあげるってないのかな?」

 私は新たにプシュッとソープをつけて泡立てた後、キールの背中をゴシゴシと洗い始める。んー、キールって綺麗な顔立ちしているから、想像つきにくいけど、しっかりと筋肉もあって、均整のとれたしなやかな躯をしているんだよねー。

 それでいて無駄に色気があるしっ。私の世界でヌーディーな冊子を発売したら、何人を萌え死にさせてしまうんだろうな、この躯! そんな躯で毎夜抱かれている私って……ブハッ! 余計な事を考えたら、鼻血が出てしまいそうになったよ。

「他人の背中を洗うなんて聞いた事ないな」
「やっぱそうなんだ。私の世界では家族で一緒に入ったりする時は背中の流しっこしたりするんだよ!」
「へー、変わってんな」
「小さい頃はね、こうやってお父さんやお母さんの背中も流してあげていたんだ。懐かしいなー」
「え?」
「あ、でもたまにお母さんとは旅行で一緒に露天風呂に入った時、こうやって背中を流してあげてたっけな! とはいっても、それも何年前が最後だったかな~?」
「……………………………」

 可愛らしい出来事を思い出して、私は自然と笑みを零していた。反対に何故かキールがだんまりとなってしまい、後ろからでも顔を伏せている様子がわかった。

 ――あんれ? どうしたんだろう? 私なにか……?

 そしてハッと気付く。そ、そうだ、ヤ、ヤバイゾ、キールは五年前にご両親を亡くしているんだ。今の私の話を耳にして、ご両親の事を思い出しちゃったんだ。あ~なんで私、無神経な話をしちゃったんだろう。

 後悔したところでも現状が変わる事はなく、私はその場でオロオロとしていた。その内にキールが私の方へと振り返って視線が合わさる。キールは眉根を寄せていて、なんとも言えない複雑な表情をしている。

 ――ど、どうしよう、思ったよりもずっと怒っているみたいだ。

「キール、その私……ご、ごめんね」

 私は申し訳なさそうな表情をして謝ろうとした。

「千景、オマエ……」

 キールはみなまで言わずに、突然私のボディタオルを持っている右手を強く引っ張ってきた!

「え?」

 不可抗力の私はそのまま引き寄せられ、気が付いた時には深く口づけられ、そのままキールの舌で口を割られる。いつものように自然とキールの舌を受け入れると、ネットリと舌が交わった。

「んんっ」

 キールは私の左胸の突起を摘んで引っ張り上げた後、強く弾く。それを何度も何度も繰り返される。

「んっ、んっっ、んんっ」

 口内もいつもは一緒に舌で感じ合っているのに、今日はキールの一方的な責めに、私は身動きが取れずにいた。上手く息も出来ず、変に乱れた息遣いとなって苦しい。

 ――ど、どうしたの、キール!?

 彼らしくもない乱暴な行為だった。それほどさっきの事に気を悪くして怒っているのだろうか。私は再び自分の無神経さを思い出し、その罪悪感に瞳が水気で潤んできた。





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