番外編⑫「まさかの過去へタイムスリップ!?」




 なんですか、あれは!? 現キールの婚約者フィアンセのあっしが目の前にいるんすよ! それなのにキールとルイジアナちゃんは完全に二人の世界に浸っていて、見ているこっちが恥ずかしくなるぐらいだ!

 ルイジアナちゃんは確かにキールとは恋人同士だった。でも恋仲となった数ヵ月後に、彼女は元ヒヤシンス国のビア王に魅かれてしまい、なんとその後、ビア王の元へと嫁いでしまったのだ。

 それに彼女は今、ビア王と共にこの宮殿の牢獄に幽閉されている筈。こうやってキールと会っているというのはどういう事なんだ! なんちゅー事だ! 頭がグルグルと錯乱状態へと陥った私の前にだ。

 ――うぉ!

 新たな人物が現れたぞ! ポカポカの陽光を浴びたようなキラキラとした人物だ!

 ――あれってアイリじゃない?

 私は窓にへばり付いて彼をガン見する。ムゥー、なんかアイリの雰囲気も違和感あるな。髪が短いよね? いつもはサラサラの髪が胸の辺りまであるのに、今は肩よりちょい長いぐらいだし、服装もいつもよりシンプルに感じる?

 なんだろう? イメチェン? 元の方がいいと思うけど……。っていうか、なんでアイリがキールとルイジアナちゃんの前にいるんだ! もうわけがわからなく、私はポカンとなって彼等を見ていたら、また新たな人物が現れた!

 ――ん? シャルトだよね?

 宝石のアメジストのような美しい紫色の髪をしているのはシャルトで間違いない! だけど、これまたオカシイぞ! シャルトってエレガントなウェーブヘアーなのに、いつストレートにしたん? 今日会った時、思いっきしウェーブだったよね?

 この国では髪型変えるぞデーでもあるのかな? ってそんなん聞いた事もないからあるわけないよね! それよりもだ。私は口があんぐりとなる! 揃いも揃って私にルイジアナちゃんの存在を隠していたのか! いや、騙していたのか!

 ルイジアナちゃんは幽閉されている身だ。彼女が表へ姿を現せられないから、キールは表上私を婚約者フィアンセに仕立て上げ、裏ではルイジアナちゃんと逢引きをしていたのか!

 しかもだ! それをアイリもシャルトも公認していたなんて! 彼女は元王族の人間で、キール達と繋がりが深いのもわかる。彼等はとっくにルイジアナちゃんの罪を許して、交流していたという事か! 今も窓越しの奥で四人が親しく仲良しこよしの笑顔でいる。

 ――ひ、酷い! 私を利用していたなんて! ゆ、許せん! 絶対に許せぇえええ――――ん!!

 メキメキと怒気が込み上げ、私は爆発しそうになった! その時だ。

「キールの十五歳のバースデーパーティを迎えてから慌ただしかったけど、やっと落ち着いてきたわね」
「そうだな」
「今年はパーティを終えた後、国交の仕事が多いもんね」

 声を弾ませながらキールと会話するルイジアナちゃん。

「そうね、珍しく取引の話が多くて書類の処理が大変で困るわ」

 忙しない仕事に不満を零すシャルト。

「キールが王に即位してから、もう少しで丸二年になるけど、国交の話が多くなったって事はそれだけ王として信頼が出てきたって事だよね。嬉しいよ!」

 なんでも前向きプラス思考のアイリ……と。

 ――んん!?

 いきなり彼等の会話が耳に入ってきたぞ! また自動的に術力が発動したらしい。そんな事よりもだ。内容がおかしくないか? キールの「十五歳のバースデーパーティ」? 「王に即位してから、もう少しで丸二年」?

 ………………………………。

 ま、まさかだよね? キール達の姿から、会話の内容まで違和感ありまくりなのって……うっそ――――――――ん!? 私は自分の置かれている状況を察すると、心の中で雄叫びを上げた! だってだってだってだよ? そんな事があるわけないよね!

 ――まさか二前の過去にタイムスリップとかって有り得ないよね!?

 そのあまりの驚愕と興奮のせいか、

 ――ピリピリッ……。

「ん?」

 何処からともなく、なにか不吉な音が聞こえませんかね? 私は妙に嫌な予感が走った。

 ――ピリピリ、ガッシャ―――――――ン!!

 うっひょ~!! 嫌な予感が的中! 突如窓ガラスが割れ出した! 運良く破片は私とは逆の外側へと飛び散ったけど、けっこう派手な音が響いてキール達も気付いたみたいだ。

「今のなんの音?」
「窓が割れたような音だった」
「重厚な窓には特殊な加工がされているから、そう簡単に割れたりしないよね?」
「もしかして他国の刺客が侵入した可能性があるかもしれない」
「それはない……と言いたいが、すぐに調べた方が良さそうだな」

 ――うぎゃっ、キール達が私の方へと向かって来たぞ! 見つかったら超怪しまれるんじゃ?

 ここが過去だとしたら、キール達は私の存在を知らない。しかも私ってばコントロール出来ないとはいえ、術力が使えるし、絶対に刺客だと思われて囚われるに違いない! そんなのゴメンだっての! 私は急いで気を消して、突風如くその場から離れた……。

☆*:.。. .。.:*☆☆*:.。. .。.:*☆

 ――参ったなぁー。

 キール達が刺客が現れたと騒いだんだろうな。宮殿の内部が慌ただしくなっている。ただでさえ動きづらいってのに(誰も私の事を知らないから、下手に宮殿内をふらつけない。不法侵入者扱いにされたらゴメンだ!)。

 さらに自由がきかなくなってしまって、私は途方に暮れていた。今は現代で使用している自室にこっそりと入っていて、身を潜めていた。良かったよ、この部屋もしかしたらルイジアナちゃんの部屋じゃないかとヒヤヒヤしたよ!

 なんたってお隣がキールの部屋だからね。元婚約者の部屋に現婚約者が過ごすなんて複雑だもん。まぁ、ルイジアナちゃんは王族だから、元から何処かに自室を持っているんだろうけど。

 ――それにしても、なんで私は過去になんぞ来ているんだ! 全くわけがわからん!

 現代でキールを探しに回廊を歩いていただけだったじゃん! ……あっ、あの突然聴こえてきた不快な歌が怪しいよね? あれが原因だったのかな? とはいっても、あれ自体がなんだったのかさっぱわからんからなー、調べようがないよ!

 ――私、ちゃんと愛しのキールがいる現代に戻れるよね?

 急に私はシュンとした気持ちになる。過去に来てしまった理由がわからないのであれば、現代へ帰る方法もわからない。かといって、こっちのキール達に会って事情を話すにも、刺客だと思われるのも怖いし。

 それに変に接触して現代に影響が出て、帰った時に自分の存在が消えちゃってたりしたら怖い! せっかくキールと結ばれて薔薇色の生活が待っているというのに、本当になんでこんな事になっちゃったんだろう!

 ――きゅるるるぅぅ~~。

 あーお腹ペコリンコなんすけど! 今日はお茶のお菓子も食べれてないし、今のこの時間って晩御飯じゃん。ディナーのお料理を一番楽しみにしている私なのに、食べられないなんてなんちゅー拷問なんだ!

 ――きゅるるるぅぅ~~。

 うぅ~、またお腹の虫が鳴いてしまったではないか。お腹空き過ぎて死にそうだよ。こっそりと調理場に忍び込んで、なにか口にしてこようかな。でも誰かに会ったりしたら、捕まりそうだしな……。

 あ、そうだ! 万が一、現代に影響出ないよう変装が必要なんじゃ? そう思った私はすぐに変装グッズを手にする事を決めた。まず服装だな。正直このドレスだと目立つからアカン! 私はクローゼットの中を開けて、もっと質素な服がないかと探してみる。

 ――ムゥ~、なさそうだな。

 ここは元々客室なのか。今着ているドレスとさほど変わらない。これじゃ行動しにくいんだよね! 出来れば侍女さんや使用人さんが着ているような作業服があればベストなんだけど。

 ――おっ!

 何気に奥の方にそれらしき服を発見した。ラッキー! シンプルな淡いアイボリー色のガンドゥーラのようだ。これなら使用人さんの服と似ているから良さそうだ。よしよし、私はハンガーからさっと服を取る。服もだけど、なにより見た目も変えなきゃだよね。

 ――そうだ、ツインのおさげにしよう!

 普段結わないから、髪型を変えるだけでもだいぶ違うよね。それとメガネがあればな。こちらの世界にもメガネはあるのだ。といってもこちらのメガネは視力を補うものではなく、作業する時に目にいらんゴミや埃が入らない為のガード用。

 という事で度の入っていないメガネだから、視力の良い私でも使用が出来るわけだ。ちなみに視力が低下した場合はなんと回復薬があるらしい。羨ましいよね。話は戻ってメガネだよ。あれをかけさえすれば、完璧な変装になるんだよ~!

 ダメ元で私はドレッサーの辺りをゴソゴソと探り始めた。出来ればこの部屋で変装してからじゃないと、部屋の外へは出にくい、。ゴソゴソゴソゴソと探しまくっていくと……。

 ――あ!

 こ、これは! まさしくメガネやん! やったぁ~。ドレッサーの上には色鮮やかな化粧品が揃っているし。これで変装が完璧にやれる。そうと決まれば急がなければ! 私は急いで着替えと化粧をし、そして髪をツインに結いだ。

 ――数十分後。

 大きな立て鏡を前にして自分の姿を見てみる。

「か、完璧だね!」

 どっから見ても使用人っぽいじゃないですか! おさげのヘアーなのに、ちょっと濃い目のメイク。普段の私からじゃ、想像もつかない格好だ! これなら現代に戻った時、私が過去へと行った事が記憶に残らないだろう。ぐふふっ。

 ――そうと決まれば、とっとと現代へと戻る方法を探しに……の前に、この空腹感を満たさねば!

 と、私は勢い良くドアの扉に向かおうと振り返った時……。

「ここに居たのか」
「ほぇ?」

 扉の前に一人の人物が立ちはだかっているではないか! 私は一瞬で凍りついた! 何故なら……。

「オマエ、刺客か……」

 ――ひょぇえええ!!

 その人物がまだあどけない顔をしたキールだったからだ!





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