第九十八話「至福のひと時」




 キールになら壊されてもいいって思った。こんな恥ずかしい事も彼だから、許してしまうのだ。それからキールの腰を穿つ速度が上がり、私の躯が揺れ動く度に胸が淫らに躍る。ニ人の情液の音と乱れる呼吸が部屋中へと響き渡っていた。

「はぁっはぁっはぁっ」
「あぁぁん、いやぁ、あん、あん、あん、あぁぁん!」

 熱塊が脈打ち、私の中で激しくうごめいている。激しければ激しい分、キールから求められるようで、堪らなく気持ち良かった。

「うっ、千景……マジヤバイ! 少し緩めろっ。食い千切る気か!」
「やぁ! やめないで!」

 表情を歪めたキールが行為を止めそうな気がして、焦った私は無意識に自分から腰を振って促した。

「くっ」

 キールから絞り出すような声が洩れると、躯全体に思いも寄らない痺れが駆け巡って、目が眩むような快感が襲いかかってきた。そして繋がった部分がキュゥーと収縮し、ガクンガクンッと痙攣が起きる。

「ふ……っあぁぁあん!」

 次の瞬間、私はエクスタシーへと至り、急激な弛緩に見舞われた。吐精を感じなかったから、キールは達せられなかったんだと思う。

「「はぁはぁはぁ……」」

 お互いが息を整えようとする。その間もキールは私から熱塊を離さなかった。汗ばんで息を整える彼の姿が妙に色気づいていて、私は達したばかりにも関わらず、躯の芯が疼き始めた。もっともっとと欲する自分を恥じらうよりも、キールに強請る言葉が先に出てしまう。

「キール、キスしたい。もっと深く愛情を感じていたいよ」

 そう言った私はキールに向かって両手を伸ばした。抱いてキスして欲しい。その私の様子を目にしたキールはより表情を恍惚とさせ、すぐに躯を落として私と深く口づけをする。

「んんぅ……んっ……んぅ」

 色づいた吐息が零れてしまうほど、ネットリとした激しいキスが繰り返される。唾液が混ざり、淫靡なリップ音までもが洩れ、お互いが想いをぶつけ合うように激しく貪る。そしてキスの間に突然片脚を上げられ、キールの脚と挟まれ交差させられる。

「んんぁっ」

 再びキールの熱塊が奥深くに入り込み、私の快感は高まった。格好は恥ずかしいけれど、密着して挿入される幸せに身を委ねた。ググッと埋め込むような穿ちに快楽が広がって酔いしれる。

「ん、んんぅ、んぁ! ん、んっ!」

 さらにキールは私の胸へ唇を落とし、突起をレロレロとねぶり始めた。新たな強い刺激に思わず彼の躯を押し退けようとしてしまう。

「あん、はん、やぁん! あぁん、いやぁぁん!」

 纏まり付くように濃厚な行為は私の言葉を受け入れる様子はなかった。上からも下からも敏感な部分を同時に責められ、快楽に砕かれた躯は打ち突けられる行為を受け入れるしかなかった。

 どうしようもないほど気持ち良い。どうしてこんなにフワフワと温かなんだろう? 私は触れ合う肌から吹き込まれる温もりを感じ、擦れ合う性感帯から胸いっぱいに満たされていた。

「はぁはぁ、千景……」

 耳元で囁かれるキールの甘い声。

「なあに?」

 会話の途中でも律動的に振動を与えられ、甘美な快楽に包み込まれる。

「愛している」
「え?」
「愛している。ずっとこうしたかった」
「キール……」

 私は涙が溢れて流れた。愛する人に包み込まれて愛の言葉をもらう。今まで経験した愛情とは比べものにならないほど、幸福感いっぱいに溢れ返っていた。躯全体で幸せを感じ過ぎて涙が止まらない。

「私も大好き。愛してるよ」

 ギュッとキールの背中に回した腕に力が入る。禍と称され、苦しく辛い思いもたくさんあったけれど、こうしてキールと巡り逢わせてくれた神様に私は深く感謝した。

 きっとキールと出会って愛し合う事は必然的だったのだろう。こんなにも愛する人はもうこの先ニ度と現れない。暫く長い間、私達は肌を重なり合って愛を確かめ合っていた。

「キール……まだイケてないんでしょ?」
「あぁ、オレ遅漏だから」
「私だけ……イケて……悪いかなって……思ってさ」
「じゃぁ、一緒にいこうっか」
「う、うん」

 躯を起こしたキールは絡めた私との脚を元に戻して、最初のように私の膝を立てさせ左右に広げた。再び熱に滾る熱塊が入ってくる。キールは前屈みの体勢になって、ゆっくりゆっくりと腰を打ち突けてきた。

「ふぁ……はぁん! いやん、あん、あん」
「千景の中ヤバイ。どんどん絡みついて締め付けてくる」

 キールはまたしても羞恥心を煽り出した。

「やぁ……恥ずかしい事を言わないで」
「じゃぁ、エロイ音出すな。なんでこんなに出すの?」

 さらに腰の速度を上げ、音をわざと大きく出させる。グチュグチュヌチュヌチュとお互いの情液が混ざる凄絶な音が響く。

「やぁぁん!」
「答ろって」

 半ば乱暴に両胸を揉みしだかれ、答えを引き出そうとされる。性急な刺激に思わずビクンッと私の躯は跳ね上がった!

「ひゃぁぁん! あん、はぁぁん……き、気持ちいいからぁ……出ちゃうのぉ」
「素直で可愛い」

 素直に答えた私にキールは満足したようで、強く突き始めた。

「ふぁ! ダ、ダメェ!」
「なんで?」
「気持ち……良すぎて死ん……じゃう!」
「じゃぁ、やめない」
「やぁ!」

 キールの表情は艶めかしく、熱で高まった気持ちはまるで欲望をぶち込んでくるように、激しく打ち突けてきた。それに私も必死で応えようとする。滴る情液がどれほどお互いを求め合っているかを表していた。

 もうなにも考えられない。秘所だけじゃない、頭の中までグショグショにされて、喘ぎ声も激しく息苦しいとさえ感じた。それでもキールに応えたい気持ちは揺るがなかった。

「はぁはぁはぁっ」
「あぁぁん、いやぁぁ、あん、あん、あん、あぁぁん!」

 グヂュグヂュグヂュグヂュッと淫猥な音に犯され、さらに快楽の渦に呑まれて我を忘れかけたその時だった。脈打つキールの熱塊が膨張し、私の秘所の中も痙攣し始めた。

「くっ!」
「ひゃぁぁん! イクよぉ!」

 ニ人の声が洩れた瞬間、秘所はキュゥーと収斂し、さらにキールからも熱い飛沫しぶきが吐精された。

「ふあぁん!」

 ドクドクドクンッと膣内の中へと打ち込まれた後、私はすべての力を出し切ったようにグッタリと倒れてしまう。

「「はぁはぁはぁはぁ……はぁ……」」

 吐精した後もキールは熱塊をすぐには抜かず、繋がったまま私に躯を預けてきた。

「……キール、大丈夫なの?」
「大丈夫だ。理性が吹き飛んで、ぶち込んだから我に返っているだけ」
「そ、そっか」
「オマエ、締め過ぎだって」
「し、してないもん!」
「ハハッ、それだけオマエの情愛は深いって事だろうけど。しっかりと離さないって事だもんな」
「フーンだ!」

 私はブーくれてキールから視線を逸らしてやった! 褒めたって許さないもん! だってし終えた後に言う言葉じゃないよね!

「悪かったよ、怒るなよ。すげー気持ち良かったよ。だから抜きたくない」
「え?」
「オマエは? 気持ち良かった?」
「う、うん」

 答えるとカァーッて躯全体が赤々となる。蕩けそうになるぐらい気持ち良かったもん。

「そっか」

 キールは満足げに笑みを深めた。その表情を目にしてしまえば、さっきのキールの言葉がどうでもよく思えてきた。

「これでオマエの禍の力は完全に封印されたよ。歌ってももう誰も悶絶しないぞ」
「そ、そうなの!?」

 な、なんと! じゃぁ、これで心おきなく歌う事が出来るんだ!

「でもフル音痴なのは変わらないから無駄に歌うなよ」
「し、失礼な!」
「ハハッ!」
「笑い事じゃないっつーの!」

 と、まぁキールからの憎まれ口はこれからも減らないだろうけど、人を死に至らせる恐ろしい禍の力は封印され、私は禍から晴れてキールの「女神」となれたのだった。





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