第六十話「この国でも求婚されますか!?」




 ――な、何故このような体勢になってしまったんだ!

 自問なのか相手に問うているのかわからなくなるほど、私は大きく動揺していた。そりゃそうだ、いきなりベッドへと押し倒されて、目の前にはマキマキ王が私を見下ろしているではないか! これから男女のラブシーンが始まります体勢だよ!

 私の頭の中はグルグルと渦巻き、心臓はバクンバクンと爆音を上げていた。マキマキ王の澄んだ瞳の網膜には私の姿がしっかりと捉えられている。貪り見るような熱視線。私はどう出たらいいのかわからず、困惑していた。そして王から出された言葉は……。

「もう一度言おう。貴女を帰せば、必ず貴女は不幸になる」

 王はラブラブ行為を求めるわけではなく、至って先ほどの話に決着をつけたいようだった。私はどこかしら安堵感を覚えて問い返す。

「どうしてそう言い切れるんですか?」
「契りを交わした後、貴女は間違いなく用無しとなり、捨てられるからだ」

 王は毅然とした態度で言い放った。

「え? でもバーントシェンナの王は確かに私を妃にしてもいいとおっしゃってましたよ?」
「それはその場限りの言い逃れに過ぎない」
「え?」

 呆れたと言わんばかりに、王は軽く溜め息を吐いた。

「王がそう容易く異界の者と結婚出来る筈がないのだ。確かにバーントシェンナは王宮の人間でも自由結婚が認められている。しかし、民衆が祝福するとは言い難い。あそこの国は常に無難な道を選ぶ。民衆の反対の声を押し退け、貴女を妃にするとは思えない」
「そうかもしれないですけど、私は妃を望んでいるわけではないので気にしません!」
「では貴女は役目を終えられたら、捨てられてもいいと思っているのか?」
「そうとは言ってません!」

 な、なんかめっちゃせっついて訊いてくるな! 私は無性に腹が立ってきて眉根を寄せる。

「すまない。貴女を困らせたり怒らせたいわけではないのだ。ただあの国に利用されるだけされ、最後に貴女が捨てられると思うと、居ても立ってもいられないのだ」
「お気持ちは嬉しいですけど……」

 この王はなにが言いたいんだろう? 私になにを望んでいるの? 王の意図的な考えを読む事が出来ず、困惑が生じる。

「もし貴女が私を選んで頂けるのなら、私は必ず貴女を妃に迎える」
「はい?」

 私は目が点になる。い、今なんと言ったばい! 私を妃に迎えると!?

「あの……それは責任感からくるお言葉でしょうか? でしたら不要なご厚意です。そもそも私は妃という重荷のポジションにはつきたくありませんから」

 妃なんて聞こえはいいかもしれないけど、実際の生活は大変そうだもん。社交界のマナーやらモラルやらといった堅苦しい掟に縛られて生活するのはご免だい! ただでさえキールの取り巻きにイビられて大変だもんね。

「これは欲のない方だ」

 王は純粋に驚いている様子だった。そんな女性の誰しもが妃には憧れませんって!

「お褒め言葉だと受け取っておきます」
「実際に褒めの言葉だ。思っていた以上に賢く、そして純粋な方なのだな。私的には責任感の縛りなしに貴女が気に入った。今、私の心には貴女しか映っていない」

 な、なんと! いつの間にかマキマキ王の心を揺さぶってしまっていたんだ、私は! 今度は私がぶっ飛んだ顔をしてしまう。ただ素直に思った事を口にしていただけなのに。王の真剣な眼差しから、とても嘘を言っているようには見えなかった。なんという事だ! 求愛をされてしまっているではないか!

 た、確かにマキマキ王は超好みの容姿だし、ところどころ私を褒め上げて気分を良くしてくれる。まぁ、多少は女性を喜ばせるテクニックをご存じのように見えるけど……でもな、この求愛を受けてしまう=お妃様にならんといけないんだもな。そりゃ有難ありがた迷惑だっての!

「先ほども言いましたが、私は妃を望んでいないんです」
「それは私を愛せないと言い切っていると?」
「そういうわけでは……」
「では妃云々ではなく、私自身を考えてはくれないか?」

 うわぁ~、こんな美顔のドアップで攻められると、気持ちがグラつかないとは言い切れないよぉおおお!! ど、どなんしよぉぉ~、一生の問題を今ここで決めるなんて出来ないっての!

 それにさ、契りの件はキールとの約束もあるし、交わした後、キールは私を元の世界には帰さない、オレの傍にいろって言ってくれたもんな。私が来てから他の女性とエッチはしてないって言っていたし……。

 もう私以外の女性ひととはしないって約束もしてくれたんだ。キールは絶対に私を見捨てたりしない。傍においてくれる。それなのに別の男性ひとからの求愛を受け入れちゃダメだよね。

「あ、あの、今のお話はとても大事な事ですよね? そんなに簡単には決められないです。それに、こちらの国の民衆の方々にも、私を受け入れて下さるかわかりませんし」
「それであれば問題ない」
「へ?」

 そんなアッサリと解決する問題なのか?

「ここは絶対君主主義国だ。王が決めた事に民衆が反対する事は許されていない」
「へ?」

 そ、それっていわば独裁主義というんじゃ! 一瞬ゾワッてしてしまったよ。共和国のバーントシェンナにいた私には独裁主義国は刺激が強すぎますから!

「だから貴女が安心して、この宮殿で過ごせる保証をする」
「そ、そうですか」

 って結婚するかどうかは別問題ですよ?

「あ、あのそろそろですね」

 この体勢から逃れたいのだよ! 実は押し倒された格好のまま会話を繰り広げていたんだけど、さすがにね~。そもそもこの体勢で話さなくても良かったよね!

「なんだ?」
「体勢を戻して頂きたいなと」

 そして、やっぱり私をバーントシェンナに帰して欲しいんだよね。私は催促するように王の腕を押した。だけど、その私の手を王は手に取って?

「?」
「戻すつもりはない」
「へ?」
「これからが大事な時間ではないか」
「はい?」

 私は意味がわからずキョトンとしていると、さらに王は私の顔に自分の顔を近づけて来たのだ! こ、これはまさかの!?





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