第二十五話「交じりの意味」




「やだ、やめてよ!」

 私は必死にもがくけど、足がキールの肩に掛けられていて、手を伸ばしてもキールの躯には届かず、全くといって身動が取れない。唯一声だけで抗うけれど、それも虚しくキールの蠢く舌によって揉み消されてしまう。

「ふあっ、やぁぁん」

 花びらに吸い付かれる。それからすぐに執拗に這い回されて、水気で徐々に秘所の表面がふやけてくると、今度は矛先が花芯に変わる。キールは指で花芯の包皮を開くと、舌で突っついたり、やんわりと舐め上げたりする。その度にピリピリッと躯中へ電気が駆け巡る。

「やぁん、や……やめて……よぉ」

 恥ずかしくて心臓がバクバクに打たれ、キールから離れたい一心なのに、逃れる事が叶わず行為を受け続ける。その内に舌は花芯を追い詰めるように動きを速め、花芯を捏ねくり回す。その集中的な攻め方に躯が仰け反るようにビクンビクンッと跳ね上がる。

「あん、やん、はぁあんっ、や……だって……ばぁっ」

 瞳を溢れるばかりの涙で潤せ懇願をしているのに、キールは私の声には耳を傾けず、チゥーと音を上げて花芯に吸い付いてきた。

「いやぁぁん」

 雷に直撃される。キールの唇は花芯に吸い付いたまま、舌を這わせる。稲妻が躯中へと走る。舌はネットリと纏わり付きながら淫猥な水音を漏らす。

「あぁぁん、やぁああっ」

 どんなに私が制止の言葉を落としても、ますます執拗に攻められてしまう。キールは花芯に重点を置きながらも、秘所の表面や花びらの奥も好き勝手に弄んでいた。

「や、やめてよぉ」

 巧みな舌戯に本来であれば私は快感を得る筈なのに、やっぱり今の私には鈍痛でしかならず、躯が拒否反応を起こしていた。それは段々と不快感に変わっていき、気が付いたら叫んでしまっていた。

「やめてってば、気持ち悪い!!」

 私が怒鳴り声を上げると、行為が嘘のように止まってキールが私の躯から離れた。私はベッドに躯を戻される。やっと解放されて安堵感を抱くがキールと向き合うと、再び心臓が脈打つ。

「いちいち場の空気が読めないヤツだ」

キールの面持ちから相当な憤りを感じる。でもそんな事はどうでもいい。こんな強姦を受けて怒りたいのはこっちの方だ! 私はキールを睥睨へいげいする。

「オマエ、処女じゃないんだろ? いちいち反応が煩わしいんだよ」

 キールはとんでもない言葉を面倒くさそうに吐いた。

「なんだ……それ? こんな無理矢理をされて感じられるわけないだろ!!」

 コイツは頭がおかしいのか!! 私は怒りに身を震わせキールに食らい付いた。

「キールだってわかっているでしょ! 私の感度が悪い事ぐらい!!」

 女性経験が豊富な彼なら当然気付いていた筈だ。

「バーントシェンナの国を救う為だ。そんな事はどうでもいい」

 私は真っ白な世界に見舞われ言葉を失う。今のキールの言葉が信じられなくて耳を疑う。彼は私から視線を外し、まるで人形のように感情がなく無表情でいた。そんな姿を見せられた私は胸から込み上げてくる感情に戦慄く。

 キールが私に興味がないのはわかる。今日、私とは会ったばかりで、愛情のどうのこうというには無理がある。でもそれは私だって同じ気持ちだ。突然と知らない世界に呼び出されて、禍だの好きでもない人と契りを交わせだの。

 どう考えても有り得ない無理難題な事を押し付けられた。おまけに承諾していない契りを勝手に始められた挙句、その相手からはどうでもいいと言われて、こんなに悲しくて辛い事ってない!

 だからキールは事の最中に「大丈夫?」「痛くない?」「気持ちいい?」っていう言葉が出てこないんだ。相手の事を想っていれば、自然と出てくる気遣いの言葉は義務感でやっている彼から出てくる筈がない。

 私の事はどうでもいい存在だから。契りが終われば用無しの女だから。私は止どめもなく溢れ出る悲しさが涙となって頬から零れ落ちていた。そんな悔しい姿をキールに見られたくなくて露骨に顔を伏せる。

 ……………………………。

 私とキールの心の距離を現すように、暫くと重々しい沈黙が流れていたが、

「……千景」

 キールから名前を呼ばれ重い空気が破れる。私は反応を返さなかった。故意にシカトをしている、感じが悪いと思われても構わない。今、とてもキールと話す気にはなれなかった。

「千景……」

 もう一度、名を呼ばれる。頭上に手を置かれているのがわかった。それでも私は答えなかった。答えたくなかったのだ。キールへの憤りと許せない気持ちが強くて口を開きたくない。

 そう思っていたところに、唇に生温かく柔らかいものが当たっている事に気付いた。私は目を見張る。いつの間にかキールと唇が重なっていて、優しい口づけをされていた。何度も何度も角度を変えて口づけられる。

 あれだけキールに嫌気を差していたのに、熱っぽいキスを繰り返しされていく内に、不思議と胸の内に温かな情が膨らんでくるのを感じた。さらに心臓がドキドキと音を立て始める。

 ――きゅ、急にどうして?

 急な心の変化に私は大きく戸惑ってしまう。そしてキスは深まっていくけど、唇を重ねられるだけで舌は差し入れられない。私の心は徐々にもどかしさを抱き、とうとう自分から舌を出してキールの唇を割った。

 キールの舌と重なったのに絡めて貰えない。我慢出来ずに自分から舌を絡めようとすると、動きが拙く上手く絡める事が出来ない。キールの舌は相変わらず微動だにしないし、たどたどしい自分の舌の動きに段々と恥ずかしを覚え、思わず口元を離した。

「なんか言いたそうだけど?」

 キールが意味ありげな笑みを浮かべて訊いてくる。うぅ~、わかっているくせになんてヤツだ! でも無性にキスをしたい衝動に駆られている私はもう一度、自分から口づける。





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