第二十四話「交わらぬ心」




「んぅー、んぅ!」

 無理に口内へ侵入した指が私の舌を翻弄して息苦しい。なのにキールは綽々しゃくしゃくと、人の首筋や耳裏へと舌を這い回している。私は彼の躯を押し退けようとすると、半ば爪を立てる感じとなり、それが不快に思ったのか、キールの指が私の口内から離れた。

「はぁ、はぁ、はぁ」

 私はフラフラになりながら上半身を起こす。やっと自由に酸素が吸えるようになって、乱れた呼吸を整えようとした。ところが、再びキールの手が伸びてきたものだから、その手を私はバシンッと払い退けた。

「やめろ、離れろ、殴るぞ、頭をカチ割るぞ! なんでエッチな事をするんだよ!」
「助けてやったお礼を貰っているだけだ」
「はぁ?」

 そういやキール、お礼がどうのこうのとは言っていたけど、そんなの只の戯言だと思って忘れてた。つぅかコイツが勝手に言っていただけで、私ははなから承知していないし!

「私は躯でお礼を払うなんて承知してない! それにアンタ大事な女性ひとがいるでしょ? その人に悪いって思わないの!?」
「…………………………」

 答えないし! シャルトさんに悪いと思わないのか! なんてヤツ、なんてヤツだ! さっき、彼女が伝えた「宜しく」の意味がやっとわかった。どういう気持ちで自分の恋人を差し出そうとしていたのだろうか。

 契りの為とはいえ、彼女の気持ちを考えると、酷く胸が締め付けられる。キールは依然として無表情だから、なにをどう思っているのか全然読めなくて、でも彼がやっている事はおかしい。合意なしで、こんな事をして只の強姦魔だ!

「礼だけじゃない。契りの交わしもある」

 キールは一変して深い真顔となった。眼差しが鋭く瞳が真剣な色を帯びている。しかし、私は眉間に深く皺を刻む。

「契りならアンタじゃなくてもいいじゃない! 大体契りってのはすんごい大事なんだから、私には相手を選ぶ権利があ……「ないんだよ」」

 みなまで言わぬ内から、キールに言葉を被せられた。

「なんでそう決めるんだよ!」
「契りの役目はオレじゃないと駄目だ。事が終われば、オマエがアイリを選ぼうが他の男を選ぼうが構わない。それはオレにはどうでもいい事だ」
「なんだよ、それ!」
「でも契りだけはオレじゃないと……」

 なんだその絶対的な義務感! 聞いてて虫ずが走る! 事が終われば、どうでもいいって人を道具みたいに言いやがって。だからコイツはさっきから……。こんなヤツに好き勝手にされて、私は怒りと憎悪を覚えた。

 さっきまでの温かな熱は心と共に冷却していく。私は殺意に似た感情を瞳に宿し、キールへと向ける。そんな私の殺気にキールは気付いてる筈なのに、ゾッとするような冷めた面持ちをして、私を見つめ返している。

 そして対峙していたかと思えば、いきなり迫って来られて反射的に私は後退をするが、ガシッと腕を乱暴に掴まれ、躯をベッドへと倒されてしまう! 私は身の危険を感じて逃れようとするが、すぐにキールの躯が覆ってきた。

 逃れる事なんて許さないとでも言うように。それからすぐにまたキールは人の胸へと手を掛けてきたもんだから、ギョッとする。一方の胸の突起を熱の籠った唇で含み、もう片方の胸は手で包み込んで揉んでいく。

「ちょっ、ちょっと!」

 誰もいいなんて言ってないのに勝手にしてきて! キッとキツイ視線をキールへ送るけど、部屋が明るく、行為の様子が赤裸々に見えていて恥ずかしい。ずっとは目にしていられなくなってギュッと瞼を閉じる。

 唇で翻弄している胸の方は突起を吸い付いたり、舌で転がしたり、撫で回したり、やんわりと優しい刺激を与えてくる。片やもう一方の胸の突起は指で押し潰して強めに回されたり、摘まれたり、弾かれたりと、それぞれ相反した器用な動きに、頭の脳裏へとかけて刺激が迸る。

「やぁあっ」

 鼻にかかった甘い嬌声が上がるけど、やっぱり違和感が生じていた。その違和感とは「感度の悪さ」だった。私は感度の悪い体質ではない。好きな人との行為はとても幸せに感じるし、自然と躯も反応する。

 だけど、キールから与えられる刺激は躯が反応をしても、幸福感に満たされる時のような甘い反応を感じられない。彼のテクに問題があるわけではない。むしろ彼は器用な部類に入ると思う。

 キールとのキスは素直に気持ち良いと思えるし、キスをされながら躯に触れられれば、まだ気持ち良さはある。でもキスがなければ、刺激は只の嫌悪感に過ぎない。

 そもそも私はキールの事を愛してもいないし、好きでもない。だからどうしたって甘美な刺激が生まれないのだ。とはいえ、キールの行為はエスカレートしていき、私はなんとも言えない嫌気が湧き起こり、

「もうやめてよ、ぜんっせん気持ち良くない!」

 胸の内の感情が爆発して叫んでいた。すると、キールは行為がピタリと止まる。

「ひゃあっ」

 突然、キールは秘所の茂みに隠れる花びらを指でいとも簡単に割って沈め、ゆっくりと出し入れを始める。

「その言う割りにはけっこうここは凄いみたいだけど?」

 キールは指にネットリと絡めた蜜を目の前に見せつけてきて、私の羞恥心を煽った。

「やだっ、見せんな! それに触られて痛いんだから!」
「これだけ濡らしておいて言われても」
「濡れていても痛いものは痛いんだよ!」

 抵抗とか意地を張っているとか、そんなんじゃなくて純粋に痛かった。本当は凄く気持ち良い事をされている筈なのに躯は嘘がつけない。

「わかったよ」
「え?」

 意外にもキールが私の言葉を呑んだ。

 ――わかったって行為をやめてくれるの?

 私はほのかな期待に身を乗り出した。だが、すぐにそれが間違いだと気付かされる。いきなりキールは私の両足を大きく広げ、

「え、ちょっ、ちょっとやだ!!」

 そのまま私の両足を自分の肩へと掛けてきたのだ。私は今の体勢に大きく動揺する。火傷しそうなほどの熱が顔中に渦巻く。こんな恥ずかしい体勢された事がない! しかもこんな明るい部屋で、大事な秘所が丸見えにされているだなんて!

「これなら痛くないだろ?」

 そう言ってキールは私の秘所へと熱く滑った舌を差し入れてきたのだ。





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