第二十三話「甘いひと時に感じる違和感」




 イイ匂い。キールから勝手にキスをされているというのに、私の頭の中は彼から漂ってくるバニラのみたいな甘い香りにポ~ッとしていた。きっとキールもシャワーを浴びた後なんだろうなぁって思った。髪も微妙に湿っているようだし、肌から熱気のような温かさも感じる。

 それと、いきなり部屋に入って来られたから気付かなかったけど、服装もバーヌース糸だったのが、今はアイリッシュ王が着ていたような美しい刺繍が織られた藍色の外套ハイクに、艶感のある淡いベージュ色のインナーとスラックスを穿いていて、ウエストの周りには紫色のベールが巻かれている。

 まさにオスマン衣装だね。今の格式ある服装は引き締まっていて、本人によく似合っている。どう見てもまだ子供なのに、やっぱお偉いさんなのかな? そんな呑気な事を考えられたのは初めの数秒間だけで、その後はなにも考えられなくなった。考えさせられなくされたって言った方がいいのかな?

 気が付けば、キールから唇を割られて深く舌を差し込まれていた。その舌は私の舌を探るように奥へと沈んでいき、いつもの私なら絶対に舌なんて返さないけど、甘い匂いで脳が犯されているせいか、吸い込まれるようにして舌を出してしまった。

 キールはここぞとばかりに私の舌に吸い付いてきて、私が躯をビクッと跳ね上げると、気遣うようにやんわりと舌を絡めてくる。そう優しく重ねてきたと思えば、突然に激しく吸いつかれたりと、舌の動きが全く読めず、私は大きく戸惑ってしまう。

「……ん、んっ」

 私の零れる声に反応してキールの舌は私の舌裏、歯裏、顎上へと器用に舞い踊る。

「……ん、んぁ」

 自分でも甘い声と吐息が洩れている事に気付いていて、羞恥心を抱いていた。だって完全に感じているってバレてるじゃん! 認めたくないけど、キールのキスは上手いと思う。絡められれば絡められるほど、頭の中がじんわりと蕩け出していって、なにも考えられなくなる。

 与えられる熱に感情が昂って瞳が潤いに滲んでくるのがわかった。時折、キールは唇を離して私の表情を確認している。私の恍惚とした瞳を目にすれば、キールも感情が高まるのか、貪るような激しいキスを続けられる。ふとした時、彼の手が私の胸へと下りていくのを感じ取った。

「!?」

 そうだ! よく考えたら私、完全なすっぽんぽんだったぁ! 今更アワアワジタバタする状況でもなく、意識した時にはキールの手は私の胸を包み込んでいて、突起まで触れられていた。

「ん……んぅ……」

 ビクンッと身を強張せるのも束の間、ビリビリッと刺激が躯中へと駆け走る。初めは親指の腹で優しく撫でられていたが、その内に動きが速くなって撫で回される。反応して尖端が硬くなってくると、今度は無尽縦横につねられて、

「ん……んぁ!」

 指の動きを止めさせようと思うのに、口元と胸の二ヵ所から甘美な刺激を受けている為、躯の力が抜けていく。そんな躯を支えるように、キールのもう片方の手が私のお尻の方へと回り、感触を楽しむかのように揉んでいた。

 私って生れつき二の腕やお尻が妙にフニャフニャと柔らかいらしく、これは過去に好評を得ていた。絶対に今キールは面白がって触っていやがる。文句を言いたいけど、口はずっと塞がれっぱなしだし、私の思いをよそに、お尻に触れているキールの手は割れ目を伝って前へ移動してこようとしていた。

 さすがにこれには私も激しく動揺してしまい、やめろぉー! と、キールの胸元をドカドカと叩くのだけど、私の胸を翻弄していたキールの右手が私の後頭部へと回り、キスに集中しろと言わんばかりに押さえ付けられてしまった。

「んっ、……んん!」

 息苦しくなって口元から荒々しい息が洩れる。その間にもキールの左手の指がとうとう茂みへと渡り、すぐに探り当てた花芯を無遠慮に擦り上げた。

躯に鋭く電流が駆け巡り、私は声にならない声を上げる。それからすぐに脳裏に浮かぶ「違和感」を感取する。胸を翻弄されていた時にも覚えた違和感。それは甘いキスによって上手く揉み消されてしまうから、口に出す事が出来ない。

 キールは舌だけではなく指も軽やかに踊らせていた。彼の指は律動的に花芯を擦っていたかと思えば、玩具オモチャのように転がしたり、摘まんだりして、いつの間にか秘所全体は潤いを帯びていた。そして唇を離されると、鼻にかかった甘い声が零れ落ちる。

「あ……はぁ……あぁっ」

 その声は感じているからではなくて、酸素を求める生理的なものだった。だけど、今の蕩け切った私の表情からでは生理的なものだと、キールにはわかってもらえず、さらに行為は進んでいく。ダメだと思いつつも、制止出来ない自分に苛立ちを感じていると、ふと行為が止まる。

「?」

 キールは私に腰を下ろさせた。ヤバイ、後ろがベッドなのを忘れてた! 今の私は完全なる獲物だ。キールも腰を下ろして私へと身をよじのぼって来る。彼は完全にモードが入っていた。その鋭い表情に私の躯から冷や汗が流れる。

 キールは本気だ。本気で私を食べようとしている。これ以上行為が進まない内に早くキールに言わなきゃ。違和感を伝えなきゃ。そう思った時、ガバッと口の中に指を入れられてしまう。そのキールの指が私の舌へと纏わりつく。

 さっき出した自分の蜜と唾液の混ざった味が自分の舌へ浸透して変な感覚がする! それからキールの指は私の口内を好き勝手に蠢いていた。私の意思なんてこれっぽちも考えてない。その証拠に私の首筋にはヌルッと生温かい舌の感触が回ってきた。





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