第二一話「恋のライバルではありません」




 私は付き人さんの後に続いて進んでいるけど、会話が一切なかった。なんとなく話しづらい雰囲気が漂っているというか。それにこの女性、キールと一緒にお風呂入っちゃう仲だし、もしかしてキールのあれかい? 気っとあれだよね。

 ――さぞかし大変だろうなぁ。キールって手当たり次第って感じだし。

 彼女との関係を知らず、私はキールと何度もチューしちゃって(つぅかヤツの一方的だけど)悪い事しちゃったな。ハッ! そういえばキールのヤツ、この女性の前でも私にチューしよった! だからこの人は怒っていて、私と会話してくれないんじゃない?

 急に私は慌てふためいた。うぅ~、だってあれはヤツが無理矢理してきたんすよ? 私は不可抗力ですってば! とはいっても、女心はそんな寛容ではありませんよね。ズンと気が重いわ。それから私は女性の後ろ姿を見つめる。

 ――そういや、この女性の年はいくつだろう?

 私と同い年ぐらいに見えるんだけど。キールって年上好きかな? つっても私は童顔でヤツは自分と同い年ぐらいに見ているみたいだから、そうでもないか。

 ちなみに女性はすこぶる美人だった。凛とした上品な顔立ち、大人の色香を感じさせる紫色の瞳とふくらみのある形の良い唇、けぶるような睫は長いも長い、艶やかに背中へと流れている髪の毛は深紫色だ。

 コテで巻いたようなエレガントなウェーブは彼女が歩く度に滑らかに舞っている。そしてめちゃ背が高い! 多分百七十五センチぐらいあるんじゃないかな? この目を惹く美貌と長身だから、スーパーモデルが出来ちゃうよね!

 女性を観察している内に、どうやらやっと目的の部屋にまでやってきたようだ。私はホッと溜め息を吐く。これでゆっくりと休めんるだよね。女性は手持ちのカギで部屋の施錠を解くと、扉が開かれた。

 彼女に続いて室内へと入ると、これがまた可愛らしいピンクの色調で覆われた空間にハッと目が奪われる! 壁と天井のから調度品のデザイン、そして寝台ベッドのレースと、その殆どが煌めくピンク色で、如何にも女のコが好みそうな内装であった。

 中でも私はベッドに目が惹いていた。カーテンレースを流した天蓋付きっていうのが嬉しいな! バリ島に行ったら、絶対にビラのホテルがいいと思っていたのも、まさにこういうお姫様が眠るようなベッドで眠ってみたかったからだ。

「気に入ったかしら?」

 呆けていたところに情勢から声を掛けられて、私は我に返る。

「はい! 柔らかなベビーピンクの色彩に、憧れていたカーテンレースのついたベッドまで設えていて、テンションが上がっちゃいます!」

 お世辞ではなく素直に思った事を口にした。私だってピュアな乙女だからね。こんな可愛い部屋を用意してもらって喜ばないわけがない。女性は私の返事に気を良くしたのか、喜色に微笑んでいた。

「奥にある別室が湯浴みバスルームとなっているの。ゆっくりと浸かって休むといいわ」
「有難うございます。あの……」
「なに?」
「お名前を伺っても宜しいですか?」

 私は思いきって訊いてみた。数少ない日本語が話せる人だもんね。これからお世話になるかもしれないし、名前ぐらいは知っておきたい。

「まだ言ってなかったわね。私はシャルトリューズ・トニック。これからアナタの世話係りになるから宜しくね、千景」
「え? はい、宜しくお願いします」

 思わず畏まってしまう。しかし……名前が覚えられん。なんだっけ? シャトルバス? シャイニングシューズ? あぁ~どうしよう、横文字の名前は覚えられん。

「シャルトでいいわよ」

 ひぃ、今の絶対に読心術ですよね! もしや術者様は心まで読めちゃんですか!? そういやキールも変に鋭いから怪しいとは思っていたんだ! いやぁ~人の心を読むなんて卑猥ですからぁ!

「別に読んでないから。アナタの心って雑念が凄そうで読みたくないし」
「じゃぁ、なんで的を得た言葉を発するんですかぁ!」

 私は幽霊でも見るような恐々こわごわとした表情を向けて問う。

「だってアナタ表情に全部表れるんですもの。自分がわかりやすい人だって把握した方がいいわよ」
「はぁ……」

 心なしか私に対して厳しいお言葉と口調なのは、やはり私を恋のライバルとして見ているからでしょうか? わたくしとはアナタの彼に対して、これっぽちもの恋心も抱いておりませんので、ご安心を。

「ねぇ、千景」
「なんでしょう?」

 なんだなんだ? 気のせいか? シャルトさんから意味ありげな様子で名前を呼ばれたような?

「アナタ、キールの事どう思ってるの?」

 ひぃ! 早速本題に入りますか!? 彼女から獲物を狙う鷹のような鋭い眼差しを向けられ、私は顔が引き攣りそうになる。キョ、キョワシシ!

「あの、どう思うかと言いますと?」

 私はわざとらしく問い返してみた。

「キールの事好き? 愛してる?」
「はい?」

 目が点になっちゃいましたよ! いやいやいや、いくらんなんでもさ、今日会ったばっかのエロ少年に惚れませんって!

「いえ、全く好きではありません!」

 私はキッパリと答えた。

「じゃぁ、エッチしたいって思う?」
「は!?」

 何故そういう発想が出てくるんだ!! これは文化の違いでしょうか!? 好きと躯は別物ですか!? いや、現実世界でも大人の関係は色々とあると思いますが、さすがに私は別物として考えてませんって!

「それも全く思いません!」
「なんで?」
「なんでって言われましても!」

 シャルトさんは鋭く詰問してくる! わぁ~なんで!? だって自分の彼とエッチしたいかってなんすか、それ? もしや彼の魅力度チェックでもしてんかい! 私にそんなチェックさせんなぁあああ!!





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