第十九話「まさかまさかのプロポーズ!?」




 今の己の心情をどう言葉に表したら良いのでしょうか。王から告げられた禍の力を消失させる方法……術者と呼ばれる何処の、ど! どいつかわからない輩とエッチをするだなんて……嫌すぎる! 絶対に嫌だぁ~!!

 だけど、契らなければ禍として封印されるって言われるし、うぅー、なんちゅー選択を虐げられているんじゃ! そんな私の複雑な心に気付いていない王は虫の一匹も殺さぬ天使のような顔で私を見つめていた。

 禍から抜け出せる方法があって、私を安心させたって思っているのかもしれないけど、私はちっとも嬉しくないよぉおお! そりゃぁ、私は初めてじゃないけど、それでも惚の字じゃない人と致すだなんて……酷い、惨い、拷問だ!!

「私は何処の誰とも知らない、どちら様と契らなければならないのでしょうか?」

 私はせめての事を確認する。

「千景の知らない人なんていないよ?」
「え?」

 私は目を白黒させて王を見つめ返す。

「術者は千景と同じ言語を話せる人だって言ったら、誰の事かわかってもらえるかな?」
「えっと……それって」

 日本語を話せる人といったら……私はビクリッと肩をそびえ立たせた! だってそれって今、私と会話をしている王か、私の隣に立つキールか、王の隣に居る付き人の女性って事だよね! 確か日本語はこの三人しか話せないと聞いたから、他の人は有り得ない。

 ひぃぃいい! なんか究極の選択じゃんかぁあああ! キールとなんて怖くて想像も出来ないよ! 絶対エンドレスラブな行為をされまくるに違いない! つぅかヤツは未成年じゃん! 無理無理無理!!

 かといって王の隣にいる女性!? ガールズラブをしろと!? どっちが上になるんですか!? いやぁ~、私は同性との経験はないし、そもそもそっちの気もありませんからぁあああ!!

 となると……私はチラリと王へと目を向ける。相変わらず温色に微笑む王の姿に、私はカァーと顔が熱くなっていくのがわかった。わわっ、想像なんか恥ずかしくてしたくないのに、さっきからチラホラと映像が流れ出てきて、もうヤダァァ。

「なに想像してんだよ?」

 ひぃぃぃ、キールにバレてやがる! コイツ、読心術でも使えるんじゃ!?

「してないよ!」
「そんな顔を真っ赤にされて言われても」
「はしたない事を言うなぁ!!」

 図星をさされて、もう恥ずかしいのなんのって! でも契りっていっても、私は只の道具みたいなもんじゃない? 事が終われば用なしでしょ? 情のない契りなんて最悪だよ。

「あの……私は事が済めばオサラバという事でしょうか?」

 この質問にはかなりの皮肉が込められていた。嫌みな女だって思われてもいいさ!

「千景。実はね、禍の話にはもう少し続きがあって、契りを交わす事で禍の力を無くした娘はね……」
「?」

 王は私の問いをよそに別の話を語り出した。なんだなんだ?

「その契りを交わした相手の幸福を叶える力が与えられるんだ」
「幸福を叶える力ですか?」

 王からスッと温色が消え、私はその妙な異変に緊張感が流れた。

「バーントシェンナの願いは国全体が永久とわに至福である事なんだ。今、この国は幸福ではあるけれど、他国から侵略が起こらないとは言えないんだ」

 ――ひょえ、なんですか! それは!?

「実際に噂ではあるけれど、この国への侵攻情報があって大きな懸念事とされているんだ。この国の歴代では運に守られてか、争い事とは無縁にこれたけれど、その関係で我が国の武力や戦力は他国よりも遥かに劣っている。他国が本気で攻めて来るような事があれば、我が国はいとも簡単に敵の手に落ちてしまうだろう。他国からの侵略を受けないよう、禍の幸福の力を得たいと考えているんだ」
「…………………………」

 私は口がポカンとなってしまった。戦争? いやいやいや、そんな危険な事柄に巻き込まれたくないよぉおお~~! もう次から次へとなんでこう恐ろしい事柄が降って湧いてくるんだよ! もう本当に嫌だぁー!!

「禍の娘が国を救ってくれるんだ。千景が言っていた通り、君は救世主となるね」
「!」

 な、なんと、やっぱり、あっしは正真正銘の救世主なんだ! ぐへへ❤

「それに国を救ってくれる君をこちらとしても、契りを交わして終わりにするつもりはないよ」
「それはどういう意味ですか?」
「うん。千景さえよければ、私の伴侶になって欲しい」
「へ?「「は?」」」

 素っ頓狂の声は私だけではなく、何故かキールと付き人の女性も漏らした。私は頭の中に??? マークがプカプカと浮かんで、今伝えられた言葉の意味を把握出来ずにいた。

 今、王はなんと言いました? 私の伴侶になって欲しい? そ、それってプ、プロポーズ!? って事はあっしは「お妃様」!? こ、これはヒロインなら誰しも待ち望んでいる展開ではありませんか! 私の頭の中でもHAPPY❤ENDの鐘が鳴り響いていたのだが……。

「そのご要望にはお受け出来ません」

 私は躊躇う事もなく、即お断りを入れた。王は意外とも言うような驚きの色で私を見つめている。

「唐突過ぎたかな?」

 王の苦笑に私は徐に首を横に振った。

「違うんです。その結婚には愛がないからです」
「え?」

 私の言葉に王の動きが硬直する。

「王のおっしゃる結婚に私の望むものがありません。私の夢は温かい家庭を作る事です。結婚するからには愛情が当たり前に欲しいんです」

 王様と結婚なんてロマンチックな事かもしれない。でも私は平凡な人がいい。華やかで贅沢な暮らしは望んでいない。平凡な日常が幸せだと思っているから。アイリッシュさんが王と聞いて気持ちが落ち込んだ理由もそこにあった。

「きっかけがきっかけだから、君に抵抗があって当たり前だけど、千景を愛する事を誓うよ」
「それは無理矢理みたいで私は望んでいません。私に抵抗があるというよりも、王自身も愛する方を妃へと迎えて下さい。結婚って死ぬまで一緒にいるんですよ? 一生ずーっとですよ? 生涯を共に生きるんですから、心底愛する人がいいじゃないですか? バーントシェンナは至福の国なんですよね? その名にちなんで、王も幸せな結婚を望んで下さい」
「千景……」





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