第三話「思い上がりはさらわれる」




 ――こ、これは何処のお言葉で?

 何処の外国語にも属さない、まさに宇宙語やん? げー、マジわっかんなぁーい。言葉がわからないんじゃ、この世界でエンジョイするのは難しいんじゃない? 私は半ば夢から覚めたくなってきた。

 ――目の前の二人もごついおっちゃん達で、王子様でも騎士様ナイトでもなさそうだし。このまま王子様と出会っても言葉が通じないんじゃ、つまんにゃぃよ。

 私はテンションがだだ落ちして気が抜けたのか、独りでに躯が浮き、気が付けば荷車の上にガタンッと音を立てて乗っかってしまっていた。

『なんだ、あの娘は!』
『変わった服装の娘だ』

 おっちゃん達が気付き、一斉に私の方へと視線を向ける。彼等はオバケでも目にしたような驚きの色を見せていた。まぁ、こんな殺風景な場所にいきなり人が現れたら、そりゃビックリするわな。

「にしても、マジなに言ってんのか、わっかんないわー」

 私は感嘆するような気持ちで彼等を眺め呟いた。

『あの娘、変な言葉で話してやがる』
『気味が悪いな』

 それがまたおっさん達の不気味さと警戒心を煽っているとは気付かなかったけれど。男達は暫く私を見てはまるで珍獣でも見るような不快な眼差しを向けたり、顔を合わせては首を傾げたりを繰り返しながら、こそこそと話をしていた。その内に私は彼等の様子から妙な気配を感じ取った。

『だが変わり者は高く売れるかも知れねぇ』
『そうだな。よし捕まえて売っちまおう!』

 その勘が的中したのか、おっさん達は凄い勢いで私へと近づいて来た!

 ――うわ、なんかこの展開、捕まえられて売り飛ばされるってやつ?

 剣呑を感じ取った私は咄嗟に躯を浮かせて闇の手から逃れる。

『うわ、なんだあの娘!』
『なんとしてでも捕えろ! 高く売れるぞ!』

 上空へと浮かび上がった私は、へっへーんだと高みの見物をしてやる。

「捕まえられるものなら、捕まえてみろー」

 あっかんべーもしてやった。空に逃げられるって、なんて快感なんだろう! 感動して涙が出てきそうだよ。

『なんだ、アイツ? 険しい顔をしたり、笑い出したり、泣きそうな顔をしたり!』
『本当に気持ち悪いな。しかし、アレは金目になる。なんとしてでも捕まえるぞ!』

 おっさん達は私を捕まえたいのだろう、ヤツ等の見上げている表情から察した。捕まって奴隷として使われるなんてゴメンだっつーの。……とは思いつつも、私はある事に気付く。

 ――待てよ、こういう場合の展開って、確かカッコイイ男性が助けてくれるのがお決まりだよね?

 私の心にパッと花が綻んだ。そうだ、そうだよ! ピンチを助けてくれるカッコイイ王子様と恋に落ちるにはまずコイツ等に捕まる必要がある。そう思った私の行動は素早く、おっさん達の元へと降りた。

 彼等は何事かと大きく戸惑っていたが、ややあって意を決したのか、私との距離を縮めバッと両手を伸ばしてきた! 四本の手が近づいてくると、私は反射的に腕で顔を隠した。

「きゃぁ」

 掴まれた腕に嫌悪感を抱き、私は悲鳴を上げた。おっさん達は機敏な動きで私を捕らえ、荷台へと連れて行く。

 ――もう少しの我慢だ。そう、もう少しの我慢! 王子様、早く私を助けて!

 私は恐怖から声も上げられなかったが、現れる白馬の王子様へと必死に助けを求めた。おっさん達は白い縄網ロープのようなもので、私の手首と足首を頑丈に結ぶ。

「うっ、嫌だぁ!」

 王子様が来るだろうと思っても本能的に抵抗してしまう! 相手はニ人がかりだから当然敵うわけもなく、あっという間に縛られてしまった。さらに敷袋のような布で身を覆われてしまう。

「きゃぁ!」

 視界が暗闇に襲われ、戦慄が駆け巡る。

 ――早く、早くマイプリンス助けに来んかぁーい!

 恐怖心よりも現れない王子への怒りが込み上げてくる。間もなくして荷車はガタンと音を立てて動き出し、そのまま走り出してしまったではないか!

「げぇ、助けに来ないんかぁぁぁ―――いい!!」

☆*:.。. .。.:*☆☆*:.。. .。.:*☆

 私はよくわからない輩に捕まって、はや数時間、何処を走っているのかもわからないまま、途方に暮れていた。なんと言っても布で頭から足元まで覆われてしまい、視界を奪われちまっているからね。私はフーと溜め息を吐いた。恐怖心はぶっ飛んでがっかり感いっぱいさ。

 ――あっしはこれから何処で売られ、何処の奴隷になるんざましょ。

 もう完全にやる気ゼロな気分。

 ――このまま王子様が現れないんだったら、こんな夢覚めてもいいよ。現実の世界に戻ってまた新しいLOVEを探すべー。

 そんな私のテンション下げ下げとなった時に、急に荷車の走る音が止まった。

 ――どうしたんだろう?

 なんか話声が聞こえてくる? とはいっても言葉が理解出来ないから、どうしようもないんだけど、一応聞き耳を立ててみるか。

『なんだ、貴様は?』
『見ての通り監査役だ』
『監査? こんな所に監査官がいる筈ないだろう? そもそもその服装は監査官の者ではない』
『最近不当な品物を密輸している商人がいると我が国に情報が入り、抜き打ちで監査をするよう王から指令が出たのだ。その為、服装も容易に監査役だとわからぬよう、このような格好をしている』
『そんなバカな!』
『おいっ、どうする!』

 ん? どうやらさっきのおっさん達とは別にもっと若くて素敵な低音ヴォイスが聞こえてきたぞ。それと、おっさんの達の声が微妙に焦っているように思えるのは気のせいか?

 ――なに話しているのかはわからないけど、とりあえず素敵な声だけでも耳の保養にしておこうっと!





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