Please6「呪解方法は性的ご奉仕」




 例の魔法使いは見事なブロンド色の髪をもった美しく中性的な容姿をしていると聞いていた。そして瞳は宝石ガーネットのように輝かしいとも。赤い瞳は魔女や魔法使いのみがもつ特別な色。

 数少ない情報ではあるが、今、私の瞳に映るあの男性が例のアクバール様に呪いをかけた魔法使いの可能性もある。そう思った私は考えるよりも先に行動を起こしていた。

「待って下さい!」

 男性の背中へと向かって駆け走り、大声をぶつけると、相手の行動が止まった。私は後先を考えずに、男性の手をガシッと強く掴み、自分の方へと引き寄せた。

 ――!

 相手の美顔を間近にして、心臓が鷲掴みされたような衝撃を受ける。あまりの見目麗しさに動揺を隠せない。委縮……というよりも畏怖して震え上がる。彼の美しさが人間とは遥かにかけ離れているように感じて心が戦慄おののいた。それでも私は必死さを忘れない。

 反対に魔法使いは不思議なぐらい落ち着いていた。それに私は唖然とし、彼を掴んでいた手を思わず放してしまった。すると、彼は何事もなかったかのように、神殿の扉を開いて内部へ姿を消そうとしたものだから、私は慌てて後を追う。

 ――ギィ――。

 装飾がなされた絢爛な扉が開かれて、再び私は中へと足を踏み入れる事となった。そして恐る恐る魔法使いと肩を並べて進む。今は彼の美しさや神秘的な内部を感嘆している余裕はなく、私はひたすら相手を注視していた。

 内部には多くの巡礼者が訪れていた。魔法使いも早々何かを起こそうとは考えていない筈……だと思いたい。この魔法使いはなんの目的でここへやって来たのだろうか。いや、今はそんな事を気にしている場合ではない。

 彼は私が隣にいても気にもせず、ゆっくりとマイペースに身廊を歩いていた。放たれる只ならぬ異彩オーラはとても近寄り難く、私は何度も身を引きそうになった。こちらとて自分とアクバール様の将来がかかっている。何もせずにこのまま引き下がるわけにはいかない。

 いつのタイミングで話しかけようか、四苦八苦していたが、測廊を進んでいく内に奥まった一角へと入ると、一通りの少ない事に気付く。今だ! と思い、私は魔法使いに声をかけた。意外にも彼は立ち止まって、私に耳を傾ける姿勢を見せた。

 私は酷く目を剥く。人が少なく話しかけられたのはいいけれど、返って何かあった時は非常に危険でもある。相手は魔法使いなのだ。一瞬で私の息の根を止められるだろう。狼狽えていると、フッと魔法使いと視線が重なり、ドクンッと私の心臓が飛び上がった。

 真っ赤な瞳から視線を逸らせない。良く言えば宝石のように輝かしい。悪く言えば生々しい血のようだ。血だと意識すると、身の危険を感じ、冷や汗と共に切迫が激しくなってくる。ヤバイ、早く要件を切り出そう。

「あ、貴方はアクバール様に失声する呪術をかけた魔法使いなのですか?」

 私は変に前置きを置かずに、直球に質問を投げた。まどろっこしい言葉はいらない。イエスかノーかを知りたいのだ。私の質問に魔法使いの表情が僅かに歪んだよう見えた。やはり彼は何かを知っているのだと直感した。

「要件だけをお聞きしましょう」
「え?」

 魔法使いから思いがけない言葉を投げられ、私はギョッとした。彼は想像とは違い、朗らかで優しい声色をしていた。しかし、声とは反対に心までも見透かすような鋭い視線を向けられ、私は大きく戸惑っていた。

 せっかく魔法使いの方から要件を聞くと言っているのに、声を発せられない自分に苛立ちを覚える。私の願いはただ一つ、アクバール様にかけた呪いを完全に解いてもらいたい。それを声にして出せないのだ。

「要件以外の話は私にとって必要がありません。さぁ早く要件を言いなさい」

 複雑な様子をしている私の事は気にもせず、魔法使いは促してきた。彼の無表情の裏には企んでいる何かがあるのだろうか。私は息を大きく吸い込み、気を落ち着かせる。

「アクバール様の呪いを完全に解いて下さい!」
「いいでしょう、解きましょう」
「えぇえええ!?」

 私は聖なる静謐せいひつな場という事を忘れて雄叫びを上げた。僅か数秒で魔法使いは私の要求を呑んだのだ。あまりにもアッサリ過ぎる! 要求を呑む前にもっと長期戦になると思っていた。

 本当に呪いをかけた魔法使いなのかとか、何故アクバール様に呪いをかけたのかなど、確認する事をすっ飛ばして、魔法使いは要求を呑んだのだ。そんな容易に呪解を承諾するなんて、本当に彼の気まぐれだけで呪いをかけたんじゃ!

「本当に貴方はアクバール様に呪いをかけた魔法使いなんですか! 何故アクバール様に呪いをかけたのですか!」
「最初に言った筈ですよ。要件のみをお聞きすると。それ以外の話は答える気はありません」
「うっ」

 魔法使いから容赦な釘を刺された。彼の表情は実に冷めている。確かにそう言ってはいたけど、こっちは腑に落ちない。とはいえ、何を言っても彼が答える事はないだろう。であれば……。

「本当に呪いを解いてくれるのですよね?」

 これだけは確実な答えをもらいたい。私は偽りがないか再度、魔法使いに確認を取る。

「えぇ、二言はありませんよ。ただし解くのは私ではなく貴女です」
「え? 私?」

 返ってきた答えに私は目を丸くし、思考も停止した。

 ――今のどういう意味なの?

「そう貴女です」

 魔法使いは無表情で淡々と答えた。ってやっぱ断定的に答えたけど、そもそもそれは根本的に無理じゃ……。

「私には魔力がないので呪解は出来ませんが?」
「魔力は必要ありません」
「へ?」

 自分の口元から緊張感のない声が洩れてしまった。至って魔法使いは態度が変わらぬまま話を続行する。

「先に伝えておきましょう。呪いは二つの方法で解かれます。今から言う内容のすべてを行う事が必須条件です」

 「必須条件」、そう耳にした瞬間、私はゴクリと喉を鳴らした。

「では一つ目の方法をお教えしましょう。ねやの情事の際です」
「はい? あのねやの情事とは何でしょうか?」

 聞き慣れない言葉が耳に入り、私は即行に質問を投げつけた。内容を理解していなければ、意味がないものね。私の言葉に魔法使いは右の目袋辺りをピクッとさせた。

「男女の夜の営みといえば、お分かりになりますか?」
「!」

 ――と、突然この人は、な、何を言い出すの!?

 次の瞬間には私は頬を朱色に染めた。呪いと男女の夜の営みが何の関係があるって言うのよ! あたふたとする私をよそに、魔法使いは平然として話を紡いでいく。

「まずは主人の雄芯を満遍なく愛撫しなさい」
「……はい?」

 ――どうしよう。また意味が分からない。

 さっきから出てくる単語の意味が理解出来なくて困惑しまくりだ!

「あの、雄芯って何でしょうか?」

 二度目の質問だし、今度はおずおずとした恭しい態度で問いた。それに魔法使いが微かに眉根を顰めた事を私は見逃さなかった。彼の顔がもの知らずな女子おなごだと言っている。

「男性器の事です」
「!?」

 私はビクンッと肩を飛び上がらせた! い、今、魔法使いは何て言ったの? 雄芯は男性器だって言わなかった!? いや、私の聞き間違いだろう!

「意味が分かりません!」
「男性の一番大事な躯の部分です」
「!?」

 聞き間違いじゃなかった! って事は男性器を満遍なく愛撫しろって事だよね!? なんて卑猥な事をこの魔法使いは平然と口にしているのよ! それにここを何処だと思っているのよ! 神を崇める聖なる神殿だというのに!

「さっきから何なんですか! 卑猥な用語ばかり言って!」
「私は呪解の話を伝えているだけです」
「!!」

 ――そうだ! 私は呪解の話を聞いているんだ!

 って事は……? えぇえええ――――――――――!?!?

「な、なんでそんな卑猥な方法にしたんですか!?」

 この魔法使い実はとんでもない変質者なんじゃ!

「男女に纏わる事柄ですからね」

 またしても魔法使いは顔色の一つも変えずにサラッと答えた。あ、有り得ない!

 ――ど、どうしよう!

 想像を遥かに超える危険な人だ! 私は無意識の内に後ずさりをしていた。

「おや? 良いのですか、続きを聞かなくても? 今の行為だけでは呪いは解かれませんよ?」
「……っ」

 魔法使いからしたら、私が逃げ出すのではないかと見えたのだろう。

「勿論、続きを聞きます!」

 そう反射的に答えてしまった。このまま逃げる事が出来なくなってしまった! あ~、でもまさか呪いを解く方法がこんな卑猥な事だったなんて!

「では続きを話しましょう。愛撫の仕方まで教えるので、頭にしっかりと叩き込み、完璧に夫へ奉仕するのです」
「…………………………」

 ――それが私に出来るのだろうか……。

 突然と嵐のような波風が立ち、私の近い将来が不安のなにものでもなくなった……。





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