「狼領主と純情令嬢の恋愛奇譚 」




「あの、オラージュ様、このような事なさっては性的罪に問われます」
「大丈夫だ。終わる頃には合意の上となっている」

 可憐なる乙女の透き通る純白肌に触れ、とんでもない事を吐いた男、オラージュ・ガードゥンプールは広大な領地を基盤に台頭する大領主である。二十八歳という若さで公爵の地位をもつ今や勢威をふるった上級貴族の彼だが、生まれもった家柄は爵位の称号をかろうじてかすれる程の下級貴族であった。

 彼が領地をもつ、この都市システインモーヴは「風の都」と呼ばれ、風に恵まれた風土であり、風車を利用し、粉を引く、油を搾る、染料を作る、丸太を切る等といった工業地帯であった。その風車を利用し、オラージュは新たな発想を生み出したのだ。

 海抜一~二メートルの湿地帯を農作地として開拓する事に目をつけた。しかし、柔らかい湿地帯は地盤沈下を起こし、海抜よりも低い為、水の排出が困難であった。そこに水を掻き出す動力として風車を利用したところ、これが思いのほか上手くいった。

 新たな土地を生み出し、王族から認められ成功を治めたオラージュ、実力で昇り詰めた彼は少々、いや、かなりの自信家で傲慢であった。そして彼の持つ権力と見目麗しい風姿は社交界の間では有名であり、女性との交流も潤せていた。性的な意味で。

 さてそんな彼に同じ大領主の古き友人トゥアレグからある話が持ちかけられた。

 ――ある女性を当分の間、預かって欲しい。

 と。詳しい事情は話せないらしいが、その女性は貴族の令嬢で身寄りを無くしてしまったとの事。おおよそ家柄が没落したのではないかと予想が出来た。そんな令嬢を友人のトゥアレグが預からず、なんの血縁もないオラージュが引き取るなんて有り得ない話……の筈だが。

 オラージュは引き取る事を即承諾した。その女性を一目見て一瞬で心を奪われたからだ。柔らかなふんわりとした亜麻色フラクスンの髪、澄んだ青い海を彷彿させるサファイアの瞳、筋の通った形の良い高い鼻、もぎたての林檎のような深みのある紅色の唇。

 愛らしさの中に含まれる凛とした聡彗な美しさも持ち合わせた極上の賜物だと、そうオラージュの心を揺るがせた。美の化身とも言える女性ラズリ・メイフェイアをトゥアレグが預からなかった理由も気になってはいたが、ラズリ自身はなんの問題もなく、むしろ癖のない従順な性格はオラージュのタイプそのものであった。

 彼女を預かってから数日はオラージュも真摯な対応をしていたが、やはり女性に対して見境なく手を出すのが彼だ。まさに今、狼となって食事の支度をしていたラズリを美味しく頂こうとしていたのだ。片手で彼女の両手を押さえ、もう片方の手は彼女の腰を自分の方へと引き、純白の首筋に舌を這わせていた。

「いけ……ま……せん、オラージュ……さ……ま」

 ラズリは緊張からか随分と声が震え強張っていた。そんな緊張もすべて可愛いとオラージュは舌を離そうとしない。それに嫌だと抗う言葉を言ったところでも、この先、自分からよがって堕ちていく姿も女性経験が豊富な彼にとって、たまらない愉悦感の一つでもあった。

「これ……以上は……」
「もう何も言うな。このまま身を委ねておけばいい」

 ラズリの意思に反し、オラージュはさらなる行動へと出る。彼女の淡い青紫色ドレスの中に隠れる膨らみにじかに手をかけようとした。その時……。

「触れてはなりません」

 ラズリの手がオラージュの手を振り払い制止に入った。

「例え合意の上で合っても、オラージュ様、貴方は罪人となってしまいます」
「ラズリ?」

 オラージュは思いがけないラズリの行動に目を剥いた。彼女の最後の抵抗といったところだろうか。オラージュには言われた言葉の意味が理解出来なかった。

「私の年はまだ十三ですので」

 突然のカミングアウト、それを耳にした瞬間、オラージュには時の流れを感じなくなっていた……。

✻ ✻ ✻ ✻ ✻ ✻

(不覚だった、オレとした事が……)

 オラージュは己の落ち度を悔いていた。それは勿論、麗しき居候人ラズリの年齢の事であった。彼女の外面はどう見ても成人を迎えた十六以上の娘にしか見えない。それが実際は十三だったのだ。完全な未成年である。

 この国での未成年の保護はかなり徹底されていた。身寄りのない孤児は国が管理をする施設に預けられ面倒をみてもらえる。その厚い保護もあってか、未成年へ対する犯罪も重く考えられていた。特に性的な罪は「重罪」とされている。

(トゥアレグめ、敢えてラズリの年を言わなかったな)

「クソ、してヤラれた」

 オラージュは腰を掛けた寝台の上で天を仰いで文句を吐き出した。ことごとく成功を治めてきた彼には珍しい光景だった。

「どうなさったのですか?」

 熱の含まれた甘やかな声の女性から声を掛けられる。水気を帯びる裸体姿の女性からは甘美な香りが漂っていた。女性は湯浴みから上がりたてのようで、肌身を隠さず、真っ先にオラージュの元へとやって来た。

「なんでもない」
「さようですか」

 オラージュの言葉に、女性がそれ以上問う様子はない。単純に興味がないのであろう。それよりも……。

「お待たせ致しました、オラージュ様」

 妖艶な笑みを湛え、女性はオラージュの首に手を回して抱き付く。彼女の黒曜石のような艶やかな長い髪がハラリと純白の背中へと流れた。

「最近はあまりお顔を見せに来られないので、淋しかったのですよ。今日はその分、沢山可愛がって下さいまし」

 甘えた欲をぶつける女性のシルクのような柔肌がオラージュの肌と深く触れ合う。彼女から流れる甘い香りがオラージュの劣情を煽り、彼は素早く彼女の躯を寝台へと沈ませた。

「えっ、そんないきなりですの?」

 女性は大きく瞳を揺るがせ、動揺する。それもそうだ、オラージュはいきなり彼女の内腿を持ち上げ、姿を露わにした茂みの前へ己の分身をあてがっていたからだ。彼の肉杭は前戯なしでも十分に屹立していたが、女性の秘部はまだ完全には潤っていない。

 彼は苛立ちをすぐにぶちまけたい気持ちだった。この数日はラズリと一緒に過ごしていた為、オラージュの今まで華やかであった夜の生活はすっかりと乏しくなり、その溜まっていた鬱憤を晴らしたかったのだ。

「何を今更? 前戯なしでもここはオレを受け入れる形となっているだろう?」
「あっ……はっぁあん」

 肉杭が茂みに少し触れただけで女性は満足げに喘ぐ。幾度もオラージュと躯を重ねてきたからか、彼の言う通り、柔軟に彼女の秘部は独りでに開けてきたのだ。

「あん、あんっ、あぁあんっ」

 秘部の中には挿れず表面を擦るだけで、彼女の秘部は水気を帯び始め、嬌声を上げる。

「!」

 そんな女性の蕩ける姿を目にしてオラージュは瞠目し、腰の動きを止めてしまう。

「あんっ、オ、オラージュ様?」
「…………………………」

 走り出したら満足するまで止まる事のないオラージュなのだが、今回はどうしたものかと女性も同様に目を剥き、彼を見上げる。だが、彼の瞳には彼女の姿は映っていなかった。

(これは幻覚か)

 彼は呆然としていた。喘いでいた彼女の姿が何故か「ラズリ」と重なって見えたからだ。

(幻覚だとしてもかなりヤバイレベルだ。未成年のアイツと重なって見えるなんてどうかしている)

 だが、明らかにラズリが蕩け切っている姿が見えていた。重ねて見えるほど、今抱いている女性とラズリは似通っている訳でもなく、オラージュがラズリの事を想っている訳でもない。彼は一過性の気の迷いだと思い、再び女性の躯を引き、肉杭を宛がう。今度は性急に内奥まで沈めた。

「はっぁああんっ!」

 不意に質量感がし掛かられた女性は叫び声と共に、躯を跳ね上げた。その後、彼女は幾度も躯を揺さぶられる。オラージュの気の迷いは払拭するどころか纏わり付き、それを打ち消すかのように腰の動きは速まっていき、女性は甲高いよがり声を上げ続けていた……。

✻ ✻ ✻ ✻ ✻ ✻

「お帰りなさいませ、オラージュ様」

 仕事を終え、屋敷へ戻ったオラージュをラズリが出迎える。エントランスの螺旋階段から自分に向かって来る彼女は一際目立つ大輪の花のようで美しかった。幾層となっているスカートのレースは彼女の小走りに合わせて、ふんわりと舞い踊る。可憐な彼女にはピンク色のドレスがよく似合っていた。

 優美な風貌は成人した女性も顔負けだと言え、これで本当に未成年なのかと目を疑いたくなる。「実に惜しい」と、最近のオラージュの口癖になりつつある言葉だった。そんな彼の前まで来たラズリは溢れんばかりの眩い笑みを向けていた。

「今日はお帰りがお早めでいらっしゃったのですね。ではこれからご一緒に食事が出来ますか」

 期待を膨らませたラズリに、オラージュは……。

「悪い。この後、すぐに出掛けなければならない」
「そう、ですか……」

 ラズリの声には抑揚が感じられなかった。悪いと思う気持ちからか、オラージュはまともにラズリへ顔を向けられずにいた。

「色々と立て込んでいてな」

 とは言いつつも、ラズリが来てからの数日間、おろそかにしていた女性達との色事だ。オラージュは子供ラズリとの時間よりも大人の時間を優先にしたかったのだ。

「お忙しいですものね。ですが、今度ほんの少しでもよろしいので、ご一緒に食事をするお時間を作っては頂けないでしょうか。オラージュ様とご一緒の方が食事も美味しいですし。それに正直、私は淋しいのです。顔を合わせられない日が続いてしまうのは……」

 吐露する気持ちと悲しみに表情を翳らすラズリに、オラージュの心は強く波み打たれた。今すぐにラズリへ貪るような熱い口づけの雨を落としたい、それでもって、彼女のきめ細やかな柔肌を存分に蹂躙してやりたいと。

 オラージュの頭の中では甘い声を上げるラズリを抱く自分の姿が鮮明に浮かんでいた。これを現実におこなってしまえば、完全な犯罪者である。恐ろしい破壊力をもつラズリの言葉に、惑わされてはいけないとオラージュは自分の理性と葛藤する。その結果……。

「明日からは早く帰るようにする。食事の用意をして待っていろ」

 心にもない言葉が独りでに出ていたのだ。

「本当ですか? はい、食事の用意をしてお待ちしておりますね」

 ラズリから陽光のような満面の笑顔が広がる。彼女は心底喜んでいるようだ。そのような反応に、オラージュも素直に喜ばしかった……とは反対の感情を抱いていた。

(あぁ、なんであんな軽率な事を言ってしまったんだ……)

 ズドンッと躯では担えない程の黒い影が圧し掛かり、まさに後悔の念に苛まれていたのだった……。

✻ ✻ ✻ ✻ ✻ ✻

 結局、オラージュは晩御飯を共にすると約束をしてから、来る日も来る日も夜は(清い意味で)ラズリと過ごしていた。……正確には過ごせざるを得なかったというべきか。約束をした翌日の夜は、さすがの彼もきちんとラズリと食事をとった。

 とはいえ、翌々日からはちゃっかりと仕事を言い訳にして、別の女性と過ごそうとした。ところが、そこに思わぬ大きな問題が生じた。それは抱く女性の顔が必ずラズリの姿と重なるようになってしまったのだ。

 チラつくなんてもんじゃない。完全に彼女にしか見えなくなったのだ。おかげですっかりと己の分身を屹立する事が出来くなったオラージュは腑抜けとなった。かといい、ラズリの愛らしい仕草や言動といったものに、躯が疼きまくるという、不憫な事にまでなっていた。

 それからあの(節操ないないの)オラージュが禁欲生活を始めたのだ。有り得ない! 有り得ない! と、毎日叫ぶ彼だったが、ラズリとの生活はほのぼので温かいものであった。

 彼女は純粋にオラージュを慕い敬い、はたからみても二人の仲はとても円満だった。たまにオラージュは性に対する捌け口がなく、問題発言を出してはいたが、そこは大目にみてやって欲しい。ある食事中に、こんな会話もあった。

「ラズリ、成人を迎えたら、その……ヤラせてくれないか?」
「何をですか?」
「大人になってからヤレる事だ」
「まぁ、それは楽しい事ですか?」
「あぁ、楽しいのと、あと気持ちいい事だ」
「それはそれは、楽しみにしていますね」
「あぁ」

 とんでもない会話だ。ラズリが意味を把握していれば、間違いなくオラージュは牢獄行きだが、幸運にもピュアな彼女には淫靡な意味として、受け取っていなかったようだ。年の離れた未成年にド変態な発言をしているオラージュはかなりの問題であったが、この時の彼はもうラズリしか見えていなかったのだ。

 純粋にラズリに想いを寄せていた。彼自身認めたくない事実ではあったが、禁欲生活を始め、ラズリが成人を迎える十六の年がやって来るまで、彼は他の女性を一度も抱く事がなくなったのだ……。

✻ ✻ ✻ ✻ ✻ ✻

 オラージュがラズリを引き取ってから丸三年の月日が経った。当初は数ヵ月間だけ預かる予定だったのだが、オラージュがラズリを手放してしまえば、彼女はまた別の家に預けられると聞き、何処の良からぬyからに持って行かれるぐらいならばと、オラージュはそのまま彼女の面倒を見る事を決めたのだった。

 そして今日、ようやくラズリは誕生日せいじんを迎え、この日、オラージュは仕事をオフにし、一日彼女と過ごす予定にしていたのだが、彼女の方はせわしい彼の事を考え、祝いは夜からで良いと気遣った。

 いつもであれば、家政婦とラズリが夕食の支度をして、オラージュの帰りを待っているのだが、この日は家政婦に腕を振るってもらい、豪華な料理を用意してもらった。オラージュも早めに仕事を切り上げ、帰りにありったけの花を買い占め、彼女の元へと急いだ。

 屋敷に戻ったオラージュが食卓のへと赴くと、ラズリが待っていた。今日はほんの少しだけ着飾った清楚な真っ白なドレスが、また天使のようで愛らしかった。そして花を渡した時の彼女の反応は幸せに満ちていた。

 愛おしく想う気持ちと同じぐらいにオラージュは緊張の弦を張っていた。何故なら今日は彼にとって、祝うだけでなく、この三年間、秘めていた想いをようやく吐露する日でもあったからだ。

 ラズリの心も躯も自分と重なって欲しいと、気持ちはぎ、落ち着かずにはいられなかった。それを悟られまいと必死で隠し、他愛のない話をしながら気を紛らわせていた。

 そろそろ食事も終わる頃、彼は緊張のあまり、喉を鳴らしてしまう。自分から告白など、大人になってからあっただろうか。自分が少し微笑むだけで、女性の方から勝手に寄って来る、なに不自由のない色生活をしていたのだ。

 それが、今となってはすっかり目の前のラズリに心を奪われてしまい、女性達との関係も絶ってしまっている。あれだけ自信に満ち溢れていた自分が、これから伝える気持ちを受け入れて貰えるのか、焦燥感に駆られているなど、オラージュにとってはまさに青天の霹靂ともいうべきか。

 少なからず、ラズリはオラージュを慕って懐いてくれている事が僅かな希望ではあるが、ただそれは家族愛というのが正しいであろう。果たして彼女が自分を男としてみてくれるのだろうか。彼は意を決する。

「……ラズリ」
「なんでしょうか」

 上品にナプキンで口元を拭うラズリは微笑んでいる。彼女の一つ一つの仕草すべてが愛らしく、オラージュの心を華やがせる。

「実はオマエが成人を迎えたら、伝えようと思っていた事があった」

 オラージュは面映おもはゆい気持ちを感じ、ラズリから目を背けたくなっていたのだが、雄々しくしっかりと彼女の双眸を捉えていた。だが、爆音の心臓の音と流れそうな汗は止められない。

「なんですか、それは?」

 ラズリは期待と不安が入り混じった複雑な表情となる。

「オレはオマエを愛しているんだ。一人の女性として」
「オラージュ……さ……ま?」

 なんともストレートな告白であった。前置きなんてものがなかったからか、ラズリは目をしばたかせ、言葉を失っていた。

「オマエのその穢れのない純粋な心が常にオレの心を穏やかにしてくれる。だからオレはずっとオマエの心に触れていたい。生涯を共に歩んで行きたいと思っている」
「オラージュ様?」
「オマエがオレを家族としてしか見ていないのは分かる。だが、オレがオマエを一人の女性として見ているように、オマエもオレを一人の男として見て欲しい。その願いを叶えてはくれないか?」

 …………………………。

 沈黙が降り、オラージュに緊張が迸る。ラズリは完全に言葉を失っているようであった。彼女は暫し呆けてオラージュを見つめた後、ふと視線を逸らして瞼を閉じた。

「ラズリ?」

 オラージュが名を呼ぶと、ラズリはおもむろに目を開く。いつになく真剣な面差しの彼女にオラージュの胸がドキリと音を立てる。

「オラージュ様」
「あぁ」

 いよいよ返事が来るのかと、オラージュの緊張は高潮となった。

「真摯なお言葉を有難うございます。気持ちをお伝えする前に、私の方からもお話しする事がございます」
「え?」

 ラズリの思いがけない言葉に、オラージュは少しばかり拍子抜けをしてしまう。

「まずは私の年齢ですが、オラージュ様の元へ参った時には既に成人しておりました」
「は?」

 なんの話だとオラージュは耳を疑った。

(ラズリが成人している。んな馬鹿な!)

 本当であれば、この三年間、彼女を抱かずに過ごしていたという事なのかと蒼白しそうになる。

「何故偽っていた?」
「オラージュ様、カナリーという名の十八の年の娘を記憶にしていらっしゃいますか?」
「カナリー?」

 いきなり問われるものの、オラージュは素直に記憶を辿ってみた。たが、多くの女性と交流をもっていたものの、殆どがその場限りの付き合いであり、名を憶えていない方が多かった。

 …………………………。

 数秒と間が流れ、ラズリは見兼ねたような表情を見せ、言葉を紡ぐ。

「三年と少し前にオラージュ様と関係をもった娘でございます。そして彼女は私の妹でございます」
「なっ」

 オラージュは絶句する。そんな彼を何処か咎めるような表情で見つめるラズリにオラージュは戦慄く。まさか純情な彼女から色事の言葉が出てくるなんて想像がつくわけがない。

「先程のオラージュ様のご様子からして、お記憶にはないようですね」
「そ、それは……」
「良いのです。分かっておりましたから」
「ラズリ……」
「ただこれだけは言わせて下さい。妹は貴方を本気で愛しておりました」

 これは制裁という罰なのだろうか、愛する女性からの……。過去の出来事とはいえ、オラージュと関係をもった女性の中には本気で彼を想ってくれた人もいた。そんな女性達の心を知っておきながら、オラージュが受け入れる事はなかった。ラズリの妹もその一人だったという事なのだろう。

 愛した男に名前すら憶えてもらえていなかった、こんな酷な出来事を許してくれるほど、ラズリも寛容ではないであろう。例え、オラージュがいくら彼女を愛していると伝えても、信じてもらえていないのではないかと彼は心の底から失望した。

「ラズリ、オマエはもしや、妹の件があってオレの所に来たのか」

 彼女が何故、オラージュの元へと来たのか、何故、親友のトゥアレグが預からなかったのか、あやふやにしていた部分がようやく繋がったように思えた。少なくとも、トゥアレグはラズリの果たそうとしていた事柄を知っていたのだろう。

「お察しの通りです」

 この言葉にオラージュは自分の想いが砕けて行くのを眼前にした。ラズリは妹のかたきとなった自分に報復しに来たのだと、そう確信したのだ。

「オマエは妹の件でオレに復讐しようとして来たわけか。オレがオマエを愛するようにし、そしてその想いを伝えた時、真実を伝え、オレの気持ちを打ち砕こうとしたのだな」

 …………………………。

「えぇ、そのつもりでした。最初は……です」
「ラズリ?」

 補足するように後に出た言葉を耳にしたオラージュは胸の内に何か熱いものを感じ取った。

「初めはそのつもりだったのです。でも今は違います。この三年間、オラージュ様の事をずっと見て参りました。貴方が私と過ごすようになってから、間もなくして他の女性達との関係を絶って下さった事、いつも私の事を優先で考えて下さり、一緒にいて下さった事、オラージュ様が私にぶつけて下さった想いは偽りではない事は分かっております」
「ラズリ……」
「そちらの想い、とても嬉しく思いました。そして私もオラージュ様と、この先もずっとお傍にいさせて頂きたいと、そう願っております」

 ラズリの澄み切った面持ちがオラージュの縛り付けていた緊張と不安を解き放したのであった……。

✻ ✻ ✻ ✻ ✻ ✻

 いつも当たり前のように過ごしていた自分の寝室が、今日は神聖な場所に見えた。それは想いを重ねられたラズリを迎い入れる事が出来たからだと、オラージュは湧き上がる喜びに身を任せる。

 彼女を自分の寝室に迎える、それはすなわち心だけではなく、身も捧げてもらえる意味をもつ。いつも無駄に夢想を抱いていた事が目の前まできているのだ。天にも昇る気持ちもあれば、彼女が自分を受け入れてくれるかどうかの不安もあった。

 ラズリは成人済みだ。出来れば彼女が処女であって欲しいと願いたいところだが、きっとそれは無いに等しいだろう。これだけの美女を男が放っておく訳がない。オラージュはわざわざ訊く野暮な事も出来ず、良からぬ事は胸の内に閉まって置く事にした。

 そしてラズリの躯をおもむろに寝台へと沈ませる。彼女が抗う様子を見せない事にオラージュは安堵感を抱く。既に二人は裸身となっていた。彼女の要望で燭台の灯りを消し、室内には冴え渡る月夜の光りのみが広がっていた。

「ラズリ……」

 オラージュは遠い憧れのように愛おしく彼女の名を呼び、躯を屈む。その声に甘美な熱が籠っている事にラズリは気付き、彼女の躯の芯を疼せた。また頬に添えられたオラージュの手から小刻みな震えが伝わる。

「オラージュ様、緊張をなさっているのですか?」
「勿論だ」

 色事に場馴れしているあのオラージュが? と、部屋に灯りがあれば、露骨に目を丸くするラズリの姿が一目瞭然であっただろう。確かに色男時のオラージュであれば、格好が悪いと嫌がるところだっただろうが、彼は純粋に緊張を認めていた。

 そもそもこのラズリを想ってからの三年間は女性を抱いていない。久々の女性の肌に緊張が迸るのは勿論だが、相手はずっと想いを寄せていたラズリなのだ。これが緊張せずにいられるものか。

「久しく女性と肌を重ねていないのもあるが、相手がオマエとなれば、その緊張も計り知れない」
「オラージュ様……。わ、私も同じ気持ちです。相手が貴方だと思うと、先程から心臓が爆弾を抱えているように切迫がなりません」
「ラズリ……」

 彼女の打ち震える声からも肌からも、偽りのない想いがオラージュへと伝わっていた。互いに気持ちを共感出来ている事に、オラージュは大きな感動を覚える。それはラズリも一緒だった。

 次々と緊張は重ね上がるものの、オラージュの劣情も高揚し、ラズリを見ているだけでは済まなかった。気が付けば、オラージュはラズリに頬に添えた手に引き込まれるように、己の顔を近づけ、そして彼女の唇に触れた。

「んっ……」

 微かに震えを感じる唇からの反応。それはラズリからなのか、自分なのか、それとも互いなのか、緊張に重みが圧したが、触れ合う部分からは柔らかな熱が広がっていき、強張りを解かしていく。

 以前の彼であれば、濃厚な口づけでなければキスではあるまいと思っていたが、今は軽く触れているだけでも、彼の心は火が点いたように熱く感じていた。これが本当の意味で愛する人と触れ合う事なのだと体感する。

 壊れ物に触れるように優しいキスが繰り返される。その度に甘美な熱が強まり、オラージュは舌を使って、ラズリの唇を割った。それは自然に受け入れられた。それからラズリの口内に舌を泳がす。

 彼女の舌に触れようとした時、彼女が過剰に反応を示した。ひどく驚いたのであろうとオラージュは最善の注意を払って、舌を絡める。水気と熱の両方を帯びたラズリの舌はたまらない気持ち良さがあり、オラージュの雄の本能を扇ぐ。

「んっ……ぁあっ」

 気が付けば、彼女の舌をネットリと纏い絡め翻弄させる。急に動きを速められ、ラズリは呼吸がままならず、甘い吐息を零す。それがまたオラージュの情欲を高めてしまうと知れずに。

 オラージュの理性が飛び、貪るような口づけの嵐が始まる。白く蕩ける快美な口づけは羞恥する心さえもどうでも良いと思わせる。舌が交わる水音と二人の熱い吐息が静謐せいひつな室内へと響く。

「気持ちいいか?」

 自分だけこんな気持ち良いものを感じているのではないかと、懸念を抱いたオラージュは唇を離し問う。

「は……い。もう頭の中は蕩け切っています」

 荒げた息をさせながら必死で答えたラズリの姿があまりにも愛おしく胸の内が熱くなった。高揚した気持ちは次の行動を起こさせる。

「オラージュ様?」
「もっと気持ち良くしてやる」

 そう言ったオラージュはまた身を屈め、ラズリの耳に、首筋に、鎖骨と、次々に口づけを落としていく。触れる度に彼女から可愛い声が洩れる。舌が形の良い双丘へと辿り着いた時、真っ白な肌の頂に浮かぶピンク色に意識が集中した。

 甘い実のように魅惑的な蕾にオラージュはすぐに味見をしたかったのだが、まだラズリの躯は硬直していた。いきなり敏感な所を狙っても、逆に痛みを伴うのではないかと気遣い、まず隆起した双丘を優しく包む。

「あっ……」

 彼女からか細い声が零れる。オラージュが柔らくも弾力のある双丘を揉み上げていると、その様子をジッと見つめているラズリの躯が小刻みに揺れるのに気づく。それは彼女が明らかに羞恥を抱いているのが分かった。そうさせているのが自分の行動一つなのかと思うと、よりオラージュの昂奮を高めた。

 その内に胸の蕾を意識させるように、中心を目掛けて強めに揉みしだいていく。オラージュの手の動きが速まると、ラズリは見るに居た堪れなくなったのか、あからさまに視線を逸らした。そこでオラージュは身を落とし、蕾に舌を触れさせる。

「あぅっ」

 ラズリは目を瞑っていた為、前触れのない衝撃が走った事になり、大きく驚愕する。動揺していようとも、一度触れた舌は早々に離れてくれない。まるで吸い寄せられているように、何度も何度も蕾に触れる。いや、ねぶり上げられていると方が正しいのかもしれない。

「ひゃっ、あっ、やんっ」

 触れられる度に声が洩れる。ラズリははしたないと思い、手の甲で口元を抑えるが、声は止まらず零れてしまう。羞恥に堪え切れず、目が潤み始めるが、それでも舌の動きは緩まない。

 それどころか、舌先を尖らせ円を描くように回されたり、ネットリと絡みついて押し潰されたりと、益々淫猥な動きをして責められる。ラズリは身を震わせて、その快楽に堪え続けていた。そしてオラージュの唾液でしっとりと湿り気を帯びた蕾は形がくっきりとして立ち上がってきていた。

 腫れたようにパンパンに膨れ上がった蕾は熟れた実のようでオラージュの情欲をそそった。彼はずっと抑えていた欲望を解禁し、蕾を口の中へと含んでしまう。

「ふぁっ」

 ラズリはグッと息を詰める。先程まで散々に舌で翻弄されていたが、吸い込まれる感覚はまだ格段と違っていた。蕾に熱が一心し、そこから躯の芯へと痺れが駆け巡る。ラズリはこのまま素直に快感に身を委ねてしまいたい気持ちと羞恥を拭えなく抗う気持ちに葛藤する。

 チゥーと音を立てて吸われれば、その生々しい音に堪えられず、目を背けてしまう。そうすればまたオラージュはさらにラズリを快楽の極致へと追い詰めようとする。今度は蕾に吸い付いたまま器用に舌を這わし始めた。するとラズリは稲妻に打たれたような衝撃に打たれる。

「あぁっ……はぁんっ、やぁあ」

 先程までとは打って変わって甲高い声を上げるようになる。彼女はオラージュの躯を押し離そうとするが、既に躯の力を抜け切ってしまい、只ひたすら蕩けた声を洩らし続けるしかなかった。ラズリの躯の強張りもなくなり、快楽に身を委ねるまで陥ると、オラージュの欲は膨らみ、胸を好きに貪るようになった。

「あ……あんっ、ふあっ」

 オラージュの淫らな舌と指遣いが絶妙であり、ラズリは気がおかしくなりそうであったが、それでも彼の行動をジッと見つめていた。彼の淫らで艶めかしい姿から目を離せずにいたのだ。今まで決して見せた事のない闇の甘い姿。

 決して自分は目にする事のないものであろうと思っていた。それは彼女が彼を受け入れる事はないと思っていたからだ。それが覆され、こうやって目の当たりとなり、妙に昂奮してならなかった。

「も……う」

 声を出すのもままならないような声を、なんとかラズリは発する。その様子で彼女が達するのに気付いたオラージュは再び蕾を口に含んで強く吸い、舌で押し潰すようにネットリと舐り回した。

「ふっぁあ」

 ラズリは一瞬にして躯全体に痙攣が回り、次の瞬間には目の前の世界が真っ白に染まっていた。

「はぁはぁはぁ」

 乱れた呼吸を整えていく内に、現実の世界へと引き戻されていく。目に映るのは満足げに口角を上げているオラージュの姿。ラズリは彼のしたり顔が憎らしいと思いつつも、今はどんな姿の彼も愛おしいと思ってしまう。

「どうやらイケたようだな」

 オラージュから言葉にされ、ラズリは羞恥のあまり否定したい衝動に駆られたが、素直にコクンと頷いた。それにオラージュの笑みをより深めた。そしてごく自然にオラージュはラズリの内腿に両手を滑り込ませ、左右に広げる。

「!」

 抵抗もなくオラージュの思うがままに脚が広がってしまった事にラズリは吃驚する。

「あの、オラージュ様?」

 これからされる事を考えれば、緊張で声が打ち震えてしまう。一方、オラージュは月光の灯りのみで、ラズリの秘部の姿形が分かる筈もなかったが、彼には秘境のように輝いて見えていた。

 今すぐに繋がりたい。それが素直な気持ちなのだが、十分に潤わさなければ、本当の快楽は得られない。彼は少しでも早く繋がられるように考えた。

「なぁ、ラズリ……」

 熱と愛が籠った声で呼ばれ、再びラズリの躯の芯を震わす。

「なんですか?」
「ここは指と舌どちらで弄られるのが好きなんだ?」
「え?」

 問われたラズリは目を丸くした。突然になんという質問を投げてくるのかと、固まってしまう。だが、オラージュからしてみれば、少しでも早く繋がる為に最良の道を導こうと真面目に聞いたつもりだった。

「そ、そんな事はわかりません!」

 ラズリは声を荒げて答えた。これもまたオラージュのある意地悪な言葉責めなのかと、動揺していたのだ。

「そうか」

 今のラズリの答えで、オラージュがどう思ったのか、口調では読み取れなかった。だが、瞬きもしない間にその答えは分かる。

「ひゃっ」

 ラズリの膝は屈折させられ、左右大きく広げられる。

「分らないのであれば、両方試せばいい」
「え?」

 ラズリの一瞬の驚きの間に、オラージュは彼女の秘部へと顔を埋める。

「あぁんっ」

 ラズリの躯は跳ね上がった。熱く滑った舌が纏わり付くように襲う。ピチャクチッと味わうような淫靡な音に、互いがゾクゾクとした。

「そ、そんな所……ダメ……です」

 駄目と言っても弱々しい声音では本気と伝わらない。

「ラズリ、素直に快楽に委ねろ。ここは思っていた以上に蜜が溢れ潤っている。オマエがいかに快感を得ていたのかよく分かった」
「ち、違い、んあっ」

 最も敏感な花芯に舌が襲い掛かる。本来、この敏感な秘玉以外を十分に潤してから、最後に責める場所なのだが、オラージュが先程に言った通り、ラズリの秘部全体は前戯した後のように湿潤としていたのだ。

 彼女の感度が良いのか、それともオラージュの手に昂奮し過剰に濡らしたのか、どちらにしてもさほど手を加えなくても、繋がる事が出来そうであった。それでもオラージュは丹念に舐め上げ、泉のように潤していく。

「あぅっ、やんっ、あぁん」

 舌は離れず、絶え間なく快感を湧き出し、ラズリの嬌声も止まらない。昇り詰めてくる恐ろしい快楽に躯が独りでにくねってしまう。それがオラージュの舌から離れようと思われてしまったのか、彼の腕がラズリの脚を挟み込み、躯を固定される。

 逃げ場を失った体勢となり、さらに舌は胸の頂きでもされたように唇で吸い、舌で転がすという行為を始め、ラズリは左右に顔を横に振って堪え続ける。一度狙われたら決して離れる事のないと思わせる恐ろしい舌戯だった。

「ひゃあんっ」

 そのまま快楽に溺れていると、ズンッとした重圧がかかり、何事かとラズリは閉じていた瞼を即座に開けた。

「な、何を!」

 問うた時にはオラージュの中指の一本が秘部の中に沈み込み、抽迭が始まっていたのだ。指責めが始まっても舌は離れてはいない。それどころか抽迭していないもう一方の手で花芯の包皮を剥ぎ、露出された素の花芽を舌で転がされる。

「はぁっん、あんっ……こ……んな……同時に」

 ラズリは息をつく間も困難なほど、追い詰められていた。

「言っただろう? 両方試せばいいと」
「そ、そういう意味で」

 指と舌を交互に責めるのではなく、同時責めという意味であったのかと、オラージュの劣情にラズリは慄く。

「そうだ。それにこれだけ甘美な蜜を垂らし、人の事を煽っているではないか?」
「そ、そんなつもりは」
「自覚がないのであれば、とんだ魔性だな」
「そ、そんな」

 そしてオラージュの指が膣内を広げていくように蠢いていく。ラズリの感度の良さからして初めてでないという事は分かったが、それでも久々なのだろうか。隘路に近い状態であった。

 これではオラージュの自慢の雄芯はとても収める事は出来ない。彼の分身は自負しているだけあって、屹立した際、一般的よりも遥かに大きい。今の状態では先っぽだけでも挿れるのがやっとだろう。

 それでオラージュが満足する訳がなく、無理矢理にでも全部を収めようとするだろう。そうしてしまえば、ラズリにとってオラージュとの色事は傷がついたものとなり、今後の性交渉に支障をきたすのではないかと彼は危惧していた。

 時間をかけた甲斐があり、今は二本の指を挿れても、難なく抽迭を行える。ラズリも声の様子からして痛みを伴っていないように思えた。水気ももう蜜が滴るほどに溢れている。これであれば自分の分身を挿入出来るだろうと判断したオラージュはラストスパートへと入った。

「んぁあっん!」

 舌を離し、仕上げは指で膣内を攪拌かくはんさせた。ヂュブッヂュブッと泡立つような水音が響き渡る。

「やぁあっ、それ……駄目!」

 ラズリは薄らと目を開けると、すっかりと上体を起こして、自分を優雅に見下ろすオラージュの姿は獣の王者のように堂々としており、彼女の抗う気力を失わせる。ラズリが諦めた時、再び強い痙攣が起き、刹那、頭の上に強烈な快感がパァンっと弾かれた!

「あぁああ――――」

 ラズリは昇り詰め、声から快感を吐き出した。ガクンガクンと跳ね上がった躯は派手に寝台へと落とされた。

「はぁはぁはぁ」

 そして酸素不足で息が苦しかった。胸の蕾で達した時とは比べものにならないほど、強烈な快楽であった。これ以上は身が持ちそうもない。だが……。

「ラズリ、もういいか?」

 オラージュの気持ちは彼女とは真逆だったようだ。彼の声音からして、ずっと待ち望んでいたのが分かる。ラズリはこの先にもっと大きな快楽があるのかと身を引きそうになったが、まだオラージュは達せられていない。

 彼はラズリと繋がる為に時間をかけ、彼女に受け入れて貰う為の躯づくりをしていたのだ。彼も満たさなければ、本当の意味での快楽とは言えないのであろうと、彼女は覚悟を決める。

「はい」

 灰暗い室内ではあったが、ラズリには宛がわれているオラージュの雄芯が大きい事に気付いていた。自分からは何も手を加えていない筈なのに、彼の分身は硬く屹立しており、ラズリは緊張で躯が震える。でもそれは期待の意味を込めた甘い震えだった。

 そしてゆっくりと雄芯が内部へと沈んで行く。ラズリは異様な質量感に息を詰めていたが、出来るだけ力が入らぬよう意識していた。オラージュにとっては、まるで吸い込まれていくような心地好い圧迫感であり、内部がしっとりと潤っていたおかげで難なく奥まで埋められた。

「ふっあ、はぁはぁ」

 ラズリは懸命に肩で息遣いをしているのが分かる。

「ラズリ、全部入ったぞ。動いてもいいか?」
「はい」

 正直ラズリには圧迫による重苦しさがあったのだが、全部受け入れられたのかと思えば、繋がった達成感の嬉しさの方が勝っていた。その気持ちは勿論オラージュも共感していた。

「はぅ、あ……あっ」

 オラージュは分身を律動的に沈めては引き上げるを繰り返し、ラズリの反応を確かめていた。彼女の声は何処か堪えているような感じではあったが、これまでとは違った恍惚感のある声となっていた。間違いなく彼女は感じてくれている。

 オラージュは逸る気持ちをグッと抑え、時間をかけて水気を増やしていく。すると、徐々に膣内に二人の情液が溢れ出し、雄芯が滑り易くなっていた。それでもオラージュはまだ動きをセーブしていた。これは敢えて焦らしていたのだ。

 出来ればラズリから強請って欲しいと願っていた。愛する女性からの強請るという極上の言葉。どれだけ愉悦感に浸れるのかと、オラージュは自分の性欲と要望の間で闘っていた。一方、ラズリはオラージュから穿たれる度に、快美が膣内から脳天へと走り抜けていく。

 指や舌とは違う質量に驚きつつも、与えられる快楽に溺れ、オラージュとの繋がりを体感していく。そして彼の雄芯に馴染んだ頃、ようやくオラージュの狙うラズリにとっての物足りなさが生じてきた。

(気持ちいいのだけれど、もう少し……)

 ラズリは要望を口にしたかったのだが、女性から強請るなど、恥かしい行為ではないかと、口に出来ずにいた。オラージュもこれ以上は待てないと痺れを切らした時だ。ラズリに変化が訪れていた事に気付く。

 彼女の腰が浮いて自然に踊っている。彼女は口にこそしていないが、物足りなさを感じ、勝手に腰が動いているのだと。オラージュはしめたとニヤリと口角を上げる。これはラズリを煽り出せばいいと目論む。

「ラズリ。腰が勝手に動いているが、どうした?」
「あんっ、え? あっ、そ……んな事は……ふぁあんっ」

 分かってはいたが、ラズリは否定しようとした。そこに故意にオラージュは腰の動きを速めた。性急な動きにラズリは躯が仰け反る。そしてオラージュはラズリの片手を掴み、引っ張るように腰を打ち突けていく。

「あっあんっ、あぁんっ、はぁあんっ」

 待ち望んでいた快楽の波が押し寄せ、ラズリは蕩け切った喘ぎ声を上げる。このまま快楽の極致へと溺れていけるのだと、そう思っていたのだが……。

「へ、あの?」

 突然にオラージュの腰の動きが止まり、ラズリは熱から冷めたように茫然とする。

「どうした、ラズリ?」
「どうしたでは……ありません。オラージュ様……こそ、どうして……ですか?」

 今にも泣きそうな声で問うラズリを今すぐにも蹂躙したいとオラージュの理性は限界に近かったが、それでも彼女からの強請る言葉を待った。

「ラズリ、言いたい事があるなら素直に言え。そしたら望み通り、イカせてやる」
「……っ」

 数秒の間が流れる。どうかラズリが強請ってくれるよう、オラージュは心臓の音を早鐘にして待った。

「お、お願いします。オラージュ様ので、私の中をいっぱいに、き、気持ち良くして下さい」

 ラズリは恥ずかしさのあまりその場から逃げ出したくなった……という羞恥心は理性が砕け散ったオラージュの暴走によって打ち消された。思っていた以上の可愛い強請りに、オラージュは完全に獣化となってしまったのだ。

 彼はラズリの片足を押し上げて、己の欲望をぶつける。さっきまでとは打って変わって、奥にまで雄芯が入り込み、ラズリは息をつかえそうになったが、より強く深い快楽に見舞われ、抗う事は叶わない。

「はぁあんっ、は、はげし……ら、らめっ」

 舌が回らないほど、激しく蹂躙される。それでも彼女にとっては快美感でしかなかった。穿たれる度に、情熱的な快感が注ぎ込まれていたからだ。それは紛れもないオラージュからの情愛。

 愛する人から送られる最高のプレゼントであった。今日、新たな年を迎えられる日に、彼と結ばれる事が出来て、なんて幸福なのだろうと、ラズリは目頭を熱くする。恨んでいた彼の筈なのに、今は繋がる事に至高の喜びを感じていた。

 それはオラージュも同じ想いであった。今まで快楽だけで女性を抱いてきたのだが、心の底から愛する女性ひとと結ばれる事が、ここまで幸福なのかと、それを教えてくれたのは今一つに繋がっているラズリであるのだ。

 結合部分から生まれる快感が二人の心の奥まで浸透して幸福へと変えて行く。互いが、穢れなき真の心で愛し合っているからこそ、感じられる真の愛である。魂に刻み込むように情熱をぶつけ合い、オラージュとラズリは共に快楽の極致へと昇り詰めた。

「くっ、イク!」
「あぁああ――――」

✻ ✻ ✻ ✻ ✻ ✻

 心地好い陽光が窓辺から差し込み、まるで木漏れ日のような光彩を放ち美しく見える。日が昇っていた時間となっていたようだ。眩い光に包まれ、オラージュとラズリは一緒に目が覚めた。

「お目覚めですか?」
「あぁ、いつから起きていた?」
「私もたった今、目覚めました」

 オラージュの腕の中で喜色の笑みを広げるラズリは本当に幸せそうである。昨夜は散々にオラージュに求められ、彼女の極限を超えて意識が飛んでしまったのだが、さほど、その事については気にしていない様子で、オラージュもホッとした。

 彼にとっては久々の色事で、しかも心底に愛する女性と繋がった事に、歯止めというものが利かなくなってしまったのだ。彼なりにきちんと反省はしているつもりであった。結ばれて早々嫌われては自殺ものだ。

「今日はこれからお仕事に行かれるのですか?」
「オレが離れるのは名残惜しいか?」

 身が結ばれた後のオラージュの発言は強気だった。

「淋しいですよ。でも大事なお仕事ですから、我儘は言いません」

 ラズリはこれほど純粋ピュアな心をもっていて、立派な大人の女性なのだから驚く。

(そういえば……)

 ふとオラージュの心にある疑問が生まれる。ラズリは確か成人していると言っていたな。とはいえ、彼女の外面からして自分とは十以上は離れているだろう。彼女はそんな年上でも構わないのだろうか。

「ラズリ。その、これからもオレと一緒に居てくれるんだよな?」
「はい、そう誓いましたよね」
「あぁ。その言葉を疑ってはいない。ただオレと年が離れているが構わないのか?」
「そのような事を心配なさっていたのですか? それなら大丈夫ですよ」

(え?)

 上体を起こしたラズリから純白の肌が露わになり、彼女から妖艶な笑みを向けられ、見下ろされる。そんな彼女にオラージュは一瞬、目を見張った。

「私はオラージュ様と同じ年になりましたから」
「…………は?」

(聞き間違えたのだろうか。今、彼女はオレと同じ年だと言ったように聞こえた)

 オラージュは耳を疑っていた。自分は今年で三十一を迎えた。……という事は彼女もその年という事に……? 理解出来ず、オラージュは数回瞬きを繰り返す。彼女の見た目は、どう見ても三十路過ぎには見えない。なんの冗談を言っているのだ?

 と、問いたいところだが、あまりの驚きにオラージュは絶句していた。二十五を過ぎた女性を世では「行き遅れの」烙印を押される。もし彼女の言っている事が本当なら、どれだけ彼女は「いわくつき」なのだ?

「ラズリ、その年まで何故? オマエほどの美しくて純粋な女子おなごが」
「まぁ、そんな勿体ないお言葉ですよ、オラージュ様。おっしゃって頂くほど、私は出来た女ではありませんから」

 かつて見せた事のない美しい笑顔がオラージュの心に焼き付き、そして完全にラズリには何かがあると確信した。だが、見事に彼女に陥落してしまった今、オラージュは誓った通り、彼女と共に生涯を歩んでいくのであった……。





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