第六十七話「思いも寄らぬ出来事」




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 ピリピリとした重々しい空気が流れていた。シャークスの言葉に、さすがの大司教とパナシェさんも苛辣な表情へと変わっていた。そして暫しの沈黙を破ったのはパナシェさんだった。

「なに愚かな事を。今の状況は貴方達の方が不利ではありませんか?民衆は必ずや我々を信じる事でしょう」

 不敵な笑みを浮かべるパナシェさんとその隣で微笑する大司教。いかにも自分達の方が有利であると言わんばかりの余裕の笑みを見せていた。確かに今の私達の方が分は悪い。今の情勢は王には不利であり、しかも私とやシャークス、クローバーさんは大聖堂に無断で侵入した。

 大司教達は混乱している民衆達に、自分達が救い上げると悪魔の囁きをしているのだ!パナシェさんが言う通り、民衆は大司教側を信じてしまうかもしれない!私達に勝算があるのだろうか!?バクバクと心臓が速まり、懸念から額に汗が流れた時だった!!

「オレ達はエクストラ王を支持する!!」
「私もよ!!王の失脚なんてさせないんだから!!」

―――え?

 突如、大司教達の背後から叫び声が響いた!!いつの間にか大司教達の前に立ちはだかるように、何十いや何百という民衆が姿を現したのだ!!

―――え?え?なに?なに!?

「オマエ達はなんだ!?この場所は庶民の立ち入りを禁止している筈だ!」

 民衆達に向かって、司祭達から怒鳴り声が上げる。さらに大剣を持った兵士達数人が威嚇するかのように、民衆達の前に現れると、彼等を守るように、ザクロとクローバーさんが前へと出る!

―――どういう事!?

 現れた民衆達は一体!?彼等は口を揃えて、エクストラ王の味方になる発言をしていたよね!?

「これはどういう事だ?」

 ずっと黙然と傍観していた大司教がようやく口を開いた。その声はドスの利いた低い声であり、峭刻しょうこくたる表情へと豹変していた。これが大司教の本当の姿なのだろう。

「大司教、彼等は貴方がたの悪事を暴く為の大事な証人だ」
「なに戯けた事を」

 シャークスの言葉に、大司教はさらに睨みを深めた。

「我々は大司教様やパナシェ大司祭様からご支援を頂いていた。オレは数年前、天災によって農作物の土地に被害が及び、生きていくすべを失った。その時に、シルビア大聖堂へと救いの言葉をもらいに行ったんだ。有難き事に、パナシェ大司祭様から、新しい土地を恵んで下さる話を頂いた」

 民衆の一人が思い切ったように、打ち明けてきた!彼の勇気に大司教から周りの司祭達の空気が強張ったように思えた。

「しかし、それには大きな条件があった。それは“大司教様は神の使い者であり、女神の力をお持ちであるとの信仰者に広める事だった」

―――はい!?女神の力って、普通の人間にはない神業じゃん?いわば捏造しろと!?

「生活を助けて頂く以上、その条件に従ざるを得なかった。それさえ守っていれば、生活が安泰すると思ったからだ。だが、皮肉な事にも事は上手く運ばなかった。新しい地の土では今までの農作物の品質や味が出せず、その為、急速に売れ行きが低下してしまった。そして途方に暮れた。それでもなんとか生活を凌いでやっていたが、それも限界に来ていたんだ。そんな時だ。そちらの騎士殿が現れて、救いの手を差し伸べてくれた」

―――え?そこの騎士殿?救いの手って?

 男性の目の先には……シャークスの姿があった!はい?どういう事!?

「騎士殿のアドバイスによって、思い切って売り先の客層を変えてみたんだ。そしたら、飛ぶように売れ行きが上がり、生活に潤いが出てきた」

―――えぇ!?シャークスてば、いつの間に!?

 私が驚愕して目をパチクリとさせていた

「私は…」

 と、今度は別の女性が打ち明け始める!

「子供が生まれつき難病をもっていて、生きていくには病院と薬の膨大な費用が必要で、家計は火の車だった。その事を大司教様に、ご相談させて頂くと、恐れ多くも費用のご支援を下さったの。でも私もさっきの男性と同じで条件を出された。だけど、いくらお金を得ようとも難病は完治まで至らずだった。そんな中、そちらの騎士様が現れて、病が嘘のように立ち去ったの!」

―――はい?

 そちらの騎士様って、またしてもシャークス事だよね?さっきからどういう事ですか?

「正しい願いを込めれば、祈りは女神へと通じるとアドバイスを下さったの。それで気付いたの。条件は間違いだったって事に。王に使える騎士様に救われ、私はエクストラ王を信じると決めたわ!」

―――お主は神なのか?シャークスよ!

 開いた口が塞がらずにいると、次から次へと民衆が奮起し始め、救済の話が明かされていった!シャークスだけではなくて、ザクロやクローバーさんの名も上がっている!ヤツ等って一体!?

 そして、いつしか王を支持する声援へと変わっていた!それに気分を害した大司教の様子に気付いたパナシェさんから、

「聖地へと無断で足を踏み入れ、勝手な振る舞いをしよって!騎士達だけでもと大目に見ていたが、このような民衆まで連れて参るとはエクストラ王!この責任を取られる覚悟があっての事ですよね!?」

 初めて怒号の声が上がった!明らかに苛立っている様子だ!きっと、大司教から暗黙に責められているのだろう!恐ろしい威圧的な表情をするパナシェさんに対し、王はなにも答えず無表情で彼を見つめていた。

「王を相手に責任とは恐れ多い言葉を吐くものだ」
「責任を取るもなにも、これはオマエ等の悪事の話をしている。王にはなにも関係がない」

 クローバーさんとザクロが冷めた目をして、言葉を返した。

「さて…そろそろ本題へと入ろうか」

 その間にシャークスも入る。

「覚悟をされるのは王ではなく、ガルフ大司教、貴方の方ですよ?大聖堂正門へと集まる民衆の前で貴方達が犯した罪を公表致しましょう」





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