第三十四話「バイオレンスではございません!」
ザクロの言葉に私は注目のテーブルを凝視していた。確かにそこでプレイしている客と傍観しているギャラリーは他の客達と違って、なにか違和感があった。んー、なんか品格がミスマッチなんだよね!
素の成金者達ではないんだよね、きっと。ザクロの言う通り、彼等がもし例の商人や漁師だというのであれば、そりゃ風格が違うわ!私が観察をしている間に、ザクロはそそくさ彼等達がいるテーブルへと向かって行った。
―――はい?早速行動ですか!
私はソワソワとしながら、ヤツの後に続いた。テーブル前まで来ると、次々とギャラリーが集まり始め、ゲームのプレイに注目していた。私とザクロも間に入り込み、様子を伺ってみた。さっきは遠目でわからなかったけど、どうやらこのテーブルではルーレットのゲームが行われているようだ。
回転盤があって、外側に赤または黒の色に数字が記されたポケットがある。何番のポケットに玉が入るのかを当てるのが、このゲームの基本だよね?でも目の前のゲームはなんだか…違う?
銀色の玉は一つではなく、同時に五つ投げられていた。その後に真っ赤な玉が投げられる。勝ったと喜んでいた左側のプレイヤーは赤の玉が投げられた後、落ちた数字を見て真っ青になっていた!なんだろう?このゲーム、さっぱルールがわからない!
「ねぇ、このルーレットってなんなの?」
私は隣でゲームを傍観するザクロに問いた!
「…………………………」
シカトかよ!最後の最後までどんな賭け事があるのか教えてくれないケチンボだったもんね!しかもヤツはちゃっかりとお酒のグラスを持って飲んでやがった!なんか、その成金姿が様になっていると思った自分に嫌気が差した!私の不満ありありの視線に気付いたザクロが、ふとこちらに視線を向ける!
「なんだ?」
「なに自分だけお酒飲んでんのよ!」
私は透かさず文句を垂らした!すると…、
「は?」
いきなりヤツが持っていたグラスを私に差し出してきた!
「なにこれ?」
「酒が飲みたいんだろう?ヤルよ」
と、言われ?思わず私はそのグラスを受け取ってしまったが…なに?私にアンタの飲みかけの残飯処理をしろと?私には好きなお酒は飲ませてはくれないのか?
―――しかもニオイきっつい!!
なんとなくグラスの中を覗いてみたら、強いアルコールのにおいが鼻についた!
「ほぇ?」
急に持っていたグラスが離れた。どうやら誰かに持ってかれた!?
「?」
いつの間にか私の目の前には、グラスを乗せたトレイを持ったボーイさんが立っていて、彼は私に新しいグラスを差し出してきた。
「え?」
私はわけがわからずポカンとしていると、ボーイさんは私の手の中にグラスを落とす。
「甘いカクテルだよ。どうぞ」
「あ、有難うございます」
ほのかににおう甘い香り。さっきのお酒と違って確かに好ましい味だ。それに果実が浮かび、色も淡いピンクで、いかにも女性が気に入りそうなお酒だ。でもなんで私に?ボーイさんは少し癖のあるフワフワのブラウンの髪に眼鏡をかけていて、柔和で優しい雰囲気をもった男性だった。年齢は20代半ばかな?
「君にはさっきのお酒より、その手に持っているカクテルの方が似合っているよ」
「そ、そうですか?」
私ってこんな可愛いピンク色のイメージがあったんだ!女のコらしいイメージをもたれたと私は素直に喜んだ!が!!
「そのお酒の名前はバイオレンス・ビューティって言うんだ」
「へ!?」
私は突拍子もない変な声を上げてしまった!だって…だってだよ?バイオレンスって……あの「激しい」とか「強烈」とかはたまた「暴力」「暴行」っていう意味ですよね?ゾワゾワゾワ!っと、私は一瞬で背筋が凍りついた!
いくらビューティーって付いていても、この可愛らしい見た目からしてイメージ違くない!?それになにより私って、そんな「バイオレンス」的なイメージなの!?
勝手にシャークスから、そんなイメージもたれて不快で仕方なかったけど、また別の第三者からも、そんな風に見られるなんて…ガチショック!!本気で落ち込みモードに入っていたら、
「君もあのゲームに参加するのかい?」
眼鏡のボーイさんに、またもや声をかけられた。
「え?」
「ジッと見ていたから興味があるのかなって」
「あ…」
興味があるのはゲームよりも、そのプレイヤーとそれを傍観する仲間なんだけどね…。
「自分が知っている内容と異なっていたので、なんとなく…」
私は適当に話を合わせてみた。
「アレは“運命線上のルーレット”だよ」
「?」
―――運命線上?
私がキョトンとした表情をしていると、
「銀色の玉を同時に5つ投げるだろう?アレはどの数字のポケットに入るのか予測するんじゃないんだ」