第二十八話「ヤツの方が上手でした」




 ………………………………。

 私とシャークスとの間に張り詰めた重い空気が流れていた。それもそうだ。何故なら、私がほんの少しのバランスでも崩したら、数十メートル下へと落下するような状態でいたからだ。

「…スターリー」

 シャークスはかつて見せた事のない困惑した表情を見せながら、私の名を呼んだ。

「シャークス、私は本気よ!もう二度と私への変態行為をやめると誓って!」

 もちろん脅しのつもりだったけど、私はこれ以上のシャークスの行為を終止させる為に、ガチの姿を見せて叫んだ!その本気は今のシャークスの表情を見てれば、彼には十分伝わっているだろう。少しばかり良心が痛んでいたけれど、私はもう一度ハッキリと伝える!

「誓えないの!?なら、私はここから飛び降りるから!!」

 私は片足を宙に浮かせ、いかにも飛び降りる姿勢を見せた!かなり危険な体勢だ!でもこれぐらいの本気を見せなければ、あの究極のシャークスの変態行為は止めてもらえないだろう!

「スターリー!!」

 シャークスは身を乗り出し、私の名を力強く呼ぶ!そして観念したように「わかった」と呟いた。その言葉に、私は「やったぁ――――!!♪❤♪❤♪」と、高鳴る鼓動と今すぐにでもニヤつきそうな表情を抑え、宙に浮かせた足をバルコニーへと着かせた!と、同時に……!!

「え!?!?!?!?」

 目の前の光景に目を疑う!だってだってだって、シャークスが突然に所有している自分の長剣を抜き出し…なんと!!その剣を自分の喉元に突き付けているんですけどぉぉおお!!!!鋭利な刃は当たったら、容赦なくスパッと切れるだろう!陽射しによって、刃は異様に光っていた!!

「なっ、なっ、なっ、なにやってんのよ!アンタは!?!?」
「見ての通りだよ?剣を自分の首に突き付けている」

 冷めた表情をしながら、淡々と答えるシャークスに、私の動きが完全に止まる!

「君を失う事はオレの生きている意味を失う。なら、君の飛び降りと同時に、オレもこの剣で命を絶つよ」
「は!?!?冗談よしてよね!!」

 シャークスのキツイ冗談に、私はギッと彼を睨み上げる!

「冗談?」
「…え?」

 私の言葉をまるで鼻で笑うかのようにシャークスはクスリと笑い、……気が付くと、彼の喉元から血が流れ出ていた!!

「ちょっ、ちょっ、ちょっと!!なにしてんのよ!血が出ているじゃない!!」

 シャークスは剣で喉に切り傷を入れたのだ!私は信じられない光景に大きく動揺し、思わずバルコニーから下りた!!彼は私の叫び声にも顔色一つ変えず、喉元には剣を突き付けたままでいた!

「君がオレの本気を認めてくれないからだよ。オレは君の為なら、死ぬ覚悟だってある。死ねと言われれば、今すぐにでも、この剣で首元をザクリといくよ」

 シャークスの本気を目まの当たりにして、私の心臓はバクバクと速まり、今にも破裂寸前だった!頭の中も混乱し、グラグラして足も震える!

―――ど、どうしよう!ほんの少し脅かすつもりだったのに、なんでこんな事に!!

………………………………。

 さっきとは逆転した立場に、今度は私が立ち往生していた。シャークスは一向に剣をしまう気配がない!私は自分のしでかした軽率な行為に、後悔の涙が込み上げてきた。今のシャークスは異様に怖かった!このまま本当に剣で自害してしまいそうな、そんな恐ろしい雰囲気を漂わせていたのだ!

 ………………………………。

 無言のまま見つめ合う。私は震える躯に拳を作って抑え、そして、やっとの思いで口を開いた!

「シャークス!私が悪かったわ!もうむやみに飛び降りるなんて言わないから、その剣を早くしまって!!傷の手当ても早くしないと!!」

 流れ出る血が生々しく、私は目を瞑りたくて仕方なかった!それもあって、ここは私が観念してシャークスを宥めた!私の切実なお願いに彼は……。

「わかったよ、しまうよ」
「は??」

 あまりにもアッサリとして私の言葉を呑むシャークスは、私が固まっている間に、機敏な動きで剣をクルリと回し、腰へと戻した。

―――な、なにこの無駄な順々さは!?

 私は未だ状況に把握が出来ず、口がポカンとして開いたままだった!その間にシャークスは私の方へと向かって来た!そして腕を掴まれ、フワッと彼の懐に包まれる。

「シャークス?」

 いつもなら罵声を上げて拒むけど、この時ばかりはそんな気分にならなかった。むしろ、シャークスの体温を感じる事に、とても安堵感を抱いた。私は彼の心臓の音を確認するかのように、より躯を密着させた。

「スターリー、本当に良かったよ。君が落ちて、もしもの事があったら、オレは……」
「シャークス…」

 シャークスの声が心なしか震えていた。私は彼が本気で心配をしてくれていたんだと感じ、おのずと涙が出てきた。

「シャークス、ごめんなんさい。私、カッとなってあんな事して……それと首は大丈…「生きていけなかった!罵ってくれる愛しの人がいなければ、オレは死人も同然だったよ!!」」

 ……………………………………。

 喉元を心配する言葉をかけようとした私を遮り、シャークスは自分の心の内の熱い想いを爆発させてきた!まさに「いらぬ想い」だ!!

「だから、オレも死のうとしたんだ!!」
「はいはい、もうわかったから、首の血をなんとかしなさいよ!」

 人の心底心配する気持ちをコイツは!ガチ死んで来い!と、言いそうになったけど、そこはなんとか抑え、私はシャークスの言葉を流した!

「うん、正直痛い」
「そりゃ!あんな剣で切ったら痛いでしょうね!」

 本当にバカな行為としか言いようがない!私は奮起してシャークスに叱咤の目を向ける!が!!

「スーターリー、消毒して」
「わかったわよ!じゃぁ、早く部屋に行くわよ!」

 私はシャークスから離れようとした!しかし!ヤツはまたもや私を引き寄せ、恍惚とした表情を浮かべ…。

「今すぐここで君の舌で舐めて❤」
「死ねぇええええ―――――――――――――!!!!!!」

 と、不道徳的な言葉が美しい中庭へと響いていったのであった…。





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