第ニ章

「妖魔の根源」




「ようは霊障れいしょうに支配された廃墟というわけね」
「その通りでございます」

(どういう事なの?)

「根源はなんなの?」

 会話は進んでいるけど、さすがにここまでこられると私にはギブな内容だ。
 そしてとても意味を訊ける雰囲気ではない。

「間に口を挟んで申し訳ございませんが、まずは妖魔の説明からされた方が良いのではないでしょうか。我々は当たり前ように知り得ている事でもガーデスには不可解な部分がおありかと思います」

 私の思いを感じ取ってくれたのはアールさんだ。
 なんか意外な人からのフォローだ。

「彼の言う通りでしたね。配慮が至らずに申し訳ございません」

 いつものアーグレイヴさんの腰の低さを出させてしまった。

「い、いえ。こちらの方こそお気遣い頂き……」
「畏まる必要はないわ」

 アーグレイヴさんのご丁寧な詫びに美奈萌ちゃんは容赦ない。
 なんだかアーグレイヴさんに悪い事をしてしまった気分。

「勝手に進めていて悪かったわ。聖羅にも理解してもらえるように話さなきゃ駄目だったわね」
「あ、有難う」

 ここからまた空気がピりッと張り詰め、私は息を呑んだ。

「私達の言う妖魔とは“悪霊”が姿形となったものなの」
「悪霊?」

 ――ドクンッ。

 胸が騒めく。
 妖魔よりも現実味を感じる言葉に冷や汗が出た。
 ホラーやオカルトといったものが苦手な私からすれば避けたい話題。
 映画や小説で目にするどころか怪談でも耳にはしたくないほど大の苦手だ。
 とはいえ妖魔という存在が出てきてしまった以上、受け入れざるを得ないのだろう。

「魂の浄化が出来ない死霊はこの世に彷徨う、という話は聞いたりするわよね? 死に至る前に何かをやり残した未練等で成仏が出来ずにいる霊魂。その中で最も厄介なのが“怨霊”というもの達」
「怨霊?」
「そう。怨み、憎しみをもった人の生霊や非業ひごうの死を遂げた人の霊。これは生きている人間に災いを与える。そして強大な力をもつ怨霊は形を作り、妖魔となる」

 そんな事って……。
 まさに非現実的だと否定したくても叶わない状況だ。
 私は返す言葉が浮かばず、美奈萌ちゃんの次の言葉を待った。

「世界には日本ではとても考えられない、えげつない出来事で命を落としている人が沢山いる。それは彷徨う怨霊が多いとも言えるの。妖魔は彷徨う怨霊から“新たな妖魔”を生み出す。その為、世界各地に妖魔が蔓延るようになってしまった。妖魔となった怨霊を退散させる事が出来るのはガーデスかガーディアンのみ。いくら有能な祈祷師でも太刀打ちは出来ないの」

 美奈萌ちゃんから強いオーラを感じ取った。
 それはガーディアンの使命感なのだろうか。

「そんな大役を行っているのに極秘じゃなければならないの?」

 得体の知れぬ禍々しいものであり、しかも人の命まで脅かすものと戦っているのに世界連合軍の協力を得る事は出来ないのだろうか。

「私達の能力は明らかに人の手を超えてしまっているの。化学では説明がつかない。ノーマルな人間からしてみれば不安を煽る存在となる恐れがある為、敢えて表に出す事を隠しているの。正確には恐れていると言った方が良いかしら」
「不安を煽るというのは?」
「人には無い能力を持っている、一般市民からしてみれば、その能力を悪用するのではないかと恐れるでしょう。万が一、私達が囚われるような事があったものならば、さっきも伝えたけれど妖魔を退治する者がいなくなってしまうのよ。そういった事を踏まえ、私達の存在は秘めているの」

 それは尤もな考えだ。
 実際に私も自分の能力を隠して生きてきた。
 人と少しでも違うだけでも過敏に反応され拒絶されてしまう。
 それは人間の本能であり、決して誤った事ではない。

「本題に戻るわ。今回日本で徘徊している妖魔はまさに新たに“生み出された妖魔”と考えているわ。私達はそれを“叢生”と呼んでいる。叢生とは本来植物が群がって生える事を意味するけれど、妖魔を人とはみさない為、その言葉を使用しているの」
「そういう意味だったんだね」

 少しだけ話が繋がってきたような。

「あ、今回の妖魔とさっきのアンシュイの村の話はなんの繋がりがあるの?」
「そちらは……」

 アーグレイヴさんが説明を始める。

「今回の妖魔は鞍水アンシュイの村で叢生されたものでございます。そこに至るまでの経緯を略式ながらですが、申し上げようとしていたところでした」
「そ、そうでしたか。済みません、遠回りをさせてしまったようで」
「滅相もございません。話の内容が分からなければ先に進んだところでも意味を成しません。意味のある話として受け取って頂かなければなりませんので不明な点はなんなりとお申し付け下さいませ」
「は、はい」

 ここまで丁寧に言われたら畏まってしまうよ。
 また美奈萌ちゃんに怒られちゃうかなと思って彼女を一瞥してみれば、特に勘に障る様子には見えなく内心ホッとした。

「では鞍水アンシュイの話へ戻らせて頂きます」





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