第ニ章
「ガーデスとガーディアンの関係」
「つまりそれは?」
うー分からない。
「それこそ超能力者またはサイキックと呼ばれる者です」
「神力とは異なるという事でしょうか」
「さようでございます」
「もしガーデスが出産した場合、子にも神力が受け継がれる事はないのでしょうか?」
「その概念はございません」
決然と言い放つアーグレイヴさんに私は面食らってしまう。
「聖羅様がおっしゃったように神力は遺伝されるのではないかと考えられておりました。しかし実際はそのような結果は得られておりません。また研究者達は生存しているガーデスから他者へと輸血や臓器移植などを行い、神力伝いの確認を致しましたが、望む結果は得られませんでした。よって神力は魂に宿っているものと確証づけられたのです」
(す、凄い本格的な研究をされていたんだ。というか生存中に臓器移植って!)
深入りはしてはならない部分だよね。
少なからず自分にも関わりがあるのかもしれないけれど、実感が湧かなくて他人事のように考えがちだった。
「あ、あのガーデスとアーグレイヴさん達、ガーディアンの方々との関係というのは?」
「私達はガーデスの守護者です」
「守護者?」
「ガーデスは対となる妖魔から狙われる存在でもあります。その為、私共はガーデス様をお守りすると共に妖魔の討伐を致しております」
(ガーデスは妖魔から狙われる存在?)
ゾクッと背筋が凍る。
という事は「自分」も対象になり得る?
「まさか今起きている羅刹事件の被害者というのはもしかして?」
「お気付きになりましたでしょうか。さようでございます、まさにガーデス達でございます」
サァーと血の気が引き、あまりの恐怖に大きく震え上がる。
心拍数も上がり心臓がバクバクと鳴り始める。
冷静に答えるアーグレイヴさんだけど、私にはとても平静心を保って聞ける話ではない。
「とはいえ日本人の被害者に関しましてはガーデスではございません」
「え?」
(どういう事?)
「でも今被害者達はガーデスだとおっしゃって」
「羅刹事件は日本だけに起きている事ではございません。日本以外でも既に55件起きています」
「あ……」
そうだ、確かにこの恐ろしい事件は世界各地で巻き起こっている。
「妖魔達はガーデスを狙い世界各地に蔓延っております。そして現在、確認が取れている日本人のガーデスは聖羅様のみですが、日本国内の被害者は一般市民であり、その事から妖魔達が新たな目的をもって事件を起こしていると考えられております」
新たな目的? 原因不明ほど怖いものはない。
「100%とは言い難いけど、妖魔共にはまだ聖羅がガーデスだと知れていない筈なの」
暫く黙然としていた美奈萌ちゃんが口を開いた。
重要な事なのだろう。
「妖魔がガーデスだと認識するには神力の気を感じ取るのだけれど、それを感じ取れるほどの力が聖羅から発動されていない。となると今回の目的と考えられるのはガーデスを誘き出す為ではないかと思っているわ」
「誘き出す?」
「他者に被害を与える事によってガーデスの精神を揺るがして力を発動させ、居場所を突き止めようとしているのではないかという事よ」
「そんな。じゃぁ私を見つけ出すまで妖魔は殺戮を繰り返すの?」
「そんな事はさせないわ」
より鋭い表情に豹変した美奈萌ちゃんに私は驚く。
「これ以上被害者を出さない内に……とっとと片付けなさいよね!」
(ひょぇ!)
美奈萌ちゃんが鬼の形相をして怒号を放つから、私は身が縮こまりそうになった。
マーキスさんとアーグレイヴさんは無表情で受け止めたけど、アールさんはポッカ~ンとしている。
「事件3件目まで勃発させてなにやっているのよ! しかも私の事、妖魔扱いしてくれるしさ!」
「申し訳ございません」
「ほんっとだよ!」
美奈萌ちゃんがまた女王様になっている。
でも彼女の怒号にマーキスさんが謝ったのはなんでだろう?
「美奈萌ちゃん、妖魔扱いって?」
「聖羅とコイツ等を呼び出そうとしたでしょ? 聖羅の今の力で呼び出せるとは思わなかったから私の力でヤツ等に居場所を知らせたのよ。そしたら人の気の事を“妖魔”だって言ってたじゃん! 失礼にもほどがあるっての!」
確かにマーキスさんは妖魔の気だったと言い切っていたもんね。
緊迫した空気からなにかが変わってしまっている。
美奈萌ちゃんのギャンギャンが続く中、私はしまい込んでいたある事柄を思い出した。
「美奈萌ちゃんは私をずっと護衛してくれてたんだよね? 入学した時から」
私の言葉に騒いでいた美奈萌ちゃんが冷静さを取り戻す。
「えぇ」
そして躊躇う様子もなくキッパリと答えた。
(やっぱり)
「さっきも言ったけど、聖羅は元々神力を使用するにも微動程度で妖魔達には気付かれていなかったの。だから聖羅にはガーディアンの護衛をつける必要がなかった。だからといってふとした事で力が覚醒する恐れもある。その為、私は任命を受けて聖羅と同じ大学に入り、貴女の護衛をする事になったの」
私にとって不本意な答えだった。
何故なら美奈萌ちゃんは自分の意思で私の友達になってくれたわけではないからだ。