STEP84「決戦の始まり」




「アンタ!王太子に向かってなんて事をしたのよ!!」

 私はグリーシァンに向かって怒号を上げる。王太子の命は大事に至らなかったから良かったものの、次代の王に向かって炎で燃やす攻撃をかけるだなんてヤッバイだろ!

「なんて事だって?王族の成れの果ては燃えカスになるんだよ?あんなものは序の口に過ぎないんだけど?」
「このイカレポンチ!これ以上、夢物語を吐き出す事は許さないわよ!」
「黙れ、醜い雌パグ。醜いものにぎゃぁぎゃぁと言われるほど、不快な気分はない」
「ガー!しばくぞ、この狂人!」

 誰が醜いパグだ!自分が人よりちょっとばっかし綺麗だからって調子づきやがって!私はその場でドスドスと地団太を踏んで怒りを露わにした。

「さぁ、お遊びは終わりだ。これから世界を一変させる」
「!」

 冷めた表情をしたグリーシァンの躯から、異質な気が放たれるのを私は感じ取った。空気がガラリと一変し、ゾクリと背筋が戦慄いた。

―――ヤ・バ・イ・ゾ・ニ・ゲ・ロ!

 そう私の第六感が警告する。ブワッと髪が荒々しく舞い上がり、躯が風に酷くされる。急に嵐が吹き荒れるような強風に躯が刃(やいば)の如く刺されていく。

―――なにこれは!?

 私は腕で顔を覆い、状況を把握しようとする。グリーシァンに目を向けると息を切った。ヤツの躯からギラギラとした黄金色のオーラが放たれていて、今のヤツの感情を露わにしたように見える。

―――ハッ!

 自分の右手から光が放たれている事に気付く。手の平へ視線を落とすと、煌々と輝く黄金色の花の刻印が浮かび上がっていた!

―――ゴールドの巨大な花!

 手の平いっぱいに咲き誇る黄金色の花はグリーシァンの魔力に反応していた。私は驚きのあまり、その場で固まってしまう。グリーシァンは本気だ。本気で私達を亡き者にしようとしている。それから周りから次々に悲鳴が飛び交う!

 黄金色の光に包まれる異様な姿のグリーシァンは明らかに禍々しい。誰もが本能的に危険だと察し、その場から身を隠すようにして姿を消していく。そんな王族達の姿をグリーシァンは実に楽し気な表情をして眺めていた。

「所詮は無力な王族だ。いざという時になにも出来ない人間はこの先不要だ。はははっ」

―――かなりヤバイ事態だ!

 私は隣に立つネープルスを一瞥する。当初の予定ではネープルスにグリーシァンをとっ捕まえて貰って、無事に事を終えている筈だったのに、なんでこんな事になっているのだ!

「さすがグリーシァンだね。一筋縄ではいかないみたい」

―――感心している場合じゃないっての!

 私はネープルスの呟きに酷く苛立って、心の中で鋭く突っ込む!

「ネープルスさん!あれをどうするって言うんですか!?」

 グリーシァンは完全に暴走している。今更あれを捕まえられないだなんて冗談言わないよね!

「決まってる、捕縛するよ」
「どうやってですか!?」

 どう見ても今のあのグリーシァンは尋常じゃない。ネープルスよりも魔力の高いヤツをどうやって捕まえると言うのだ。ネープルスなりになにか策戦があるって言うの!

「一気に片を付けるよ?その為に……オレは飛竜ドラゴンを利用する」
「なんですって!」

 ネープルスから答えを聞く前よりも、先にグリーシァンが不敵な笑みを浮かべ、とんでもない事を言い出した。

―――飛竜ドラゴンって言った?……ハッ!

 急に視界が翳りを帯びる。澄み渡る青空に雷雲が覆ってきたのかと思ったが、それはとんだ思い違いであった。風を引き裂くようなバサバサッとした音が空一面へと響き渡る。耳が劈かれそうなほどのとんでもない轟音であり、それからまた一段と強い風が吹き荒れる。

 私は空を映した途端、呼吸が止まった。瞳が零れ落ちるのではないかというほどに、目を大きく見開く!ちょ、ちょっと待って……今、空を覆っているものは雲じゃない!あ、あ、あれは……!?

―――ドラゴンだ!

 私は腰が抜けそうになった。硬質な鱗、太く鋭い爪と牙、厚みと質量を加えた有翼、弾力のあるたてがみと、巨大な体躯を難なく飛躍させている真っ黒なドラゴンの姿があったのだ!

 以前、チェルシー様の見送りをした時に、一度目にした事があるけれど、あの時のドラゴンとは比べ物にならないほど、巨大で禍々しい姿をしている。チェルシー様のドラゴンは何処か愛嬌があったけれど、目の前のドラゴンはとても凶悪で愛らしさがない。

 如何にも戦闘用の生き物に見える。もしやあれはグリーシァンのドラゴンなのか。ドラゴンは空を泳ぐようにして軽やかに飛躍している。あんなとんでもない生き物を相手に戦うって言うの?予想を遥かに超える展開に、私は錯乱状態へと陥る。

「来た来た。オレが一番に手懐づけたドラゴンだ。あれほど能力の高いドラゴンはこのグレージュクォルツ国にはいないよ。あ、そうそう他のドラゴンを利用しようとしても無駄だよ。すべてオレが手懐づけたドラゴンだからね。今は他者の言う事を聞かないようにしているよ」
「なんですって?」

 今いるドラゴンすべてがグリーシァンの見方だというの?あんな巨大な生き物、同じドラゴンを利用しなきゃ勝てないんじゃ?

「この国のドラゴンを手懐づける熟練者はグリーシァンだ。ドラゴン達から一番の信頼を得ている」
「は?」

 ちょっと待て!今のネープルスの言葉はこちらの敗者をチラつかせたんですけど!もうなにをどう考えてもこちらが破滅的じゃない!

「それじゃ勝ち目がないじゃないですか!どうするんですか!」
「ボクがドラゴンに変化へんげする」
「はい?」

 えっと…今の私の聞き間違いか?

―――ネープルスはドラゴンに変化へんげするって言わなかった?

 あ~もう私の頭の中は相当ヤラれているんだ!これ以上の展開にはついていけない!

「だからグリーシァンと戦うのはボクじゃない。ルクソール、君に頼んだよ」
「え?」

 ネープルスの口から殿下の名前が出ると、私は一瞬冷静さを取り戻す。いつの間にか私達のすぐ近くに殿下が来ていた。

―――ルクソール殿下?

 彼はとても厳しい表情をしているけれど、こんな状況を目の前にしても取り乱してはいなかった。そんな殿下の横にネープルスが並ぶ。

「ここまできたら秘術を放つ解く時が来たよ。じゃなきゃ、とてもグリーシァンには敵わない」
「あぁ、わかっている」

―――どういう事?

 殿下とネープルスの二人の会話の意図がわからない。「秘術を解く」ってどういう意味なの?

「さすがルクソール殿下。どっかの王太子腰抜けとは違って、この現実と向き合わられる。唯一、貴方が王族の中の誇りですね」

 グリーシァンは殿下を褒めつつも、王太子に対しとんだ皮肉を飛ばしていた。確かに王太子の姿はない。という事はこの異常事態から避難したのだろう。

「グリーシァン、オマエは根本的に王族たる者の心構えをわかっていない。王族の権力は誇示する為にあるのではない。国を、民衆を守る為にある」

 殿下は諭すようにグリーシァンに向かって伝える。

「殿下、なにをおっしゃるのです?この状況を守れない人間が次期王とは笑わせますね」
「兄上は次期王になられる方だ。ここで命を落とされるような事があってはならない。それに兄上の手を煩わせるほどでもない。補佐するオレの役目だ」
「ご立派な事ですね。……なんて綺麗ごとを言うな!」

 突然、グリーシァンが感情を露わにする。

「なにが国を、民衆を守る為にあるだ!弱き者は権力者に支配される、そう教えたのは王族たる為政者だ。今更いくら綺麗ごとを並べたところでも、なにも心に響かない。オレが為政者となった時、本当の意味での力を見せつけてやる!」
「グリーシァン!」

 殿下がグリーシァンに耳を傾けさせようと名を呼んだが、もうヤツは聞く耳を持たず、口笛を吹いてドラゴンへ合図を送る。口笛の甲高い音が響くと、ドラゴンは地上へと向かって降りて来た!

 あまりに異様な光景に、私は躯全体が竦んで自我を忘れそうになる。これは現実なのか!あんな巨大な生き物を相手にするなんて無茶だ!ドクンドクンドクンドクンと心臓が強打し、耳鳴りが奥を圧迫するほど鳴り響く。

 なにをどうしたらいいのか躊躇っている間にも、ドラゴンの降下によって凄絶な強風に躯が打ち叩かれる。吹き飛ばされる!と、目を閉じて諦めた時、躯をグイッと引き寄せられて目を剥く!

「殿下!」

 殿下が私の躯を守るように包んでくれている。どうやら目に見えない結界バリアによって守られているようだ。気が付けばグリーシァンの姿がない事に驚いたが、ヤツはいつの間にかドラゴンの背に乗っていた。

―――なんなの、あれは!

 凄まじい存在のドラゴンに私は気圧され、目が眩みかける。そこにだ。

「ルクソール!」
「わかっている!」

 ネープルスが殿下の名前を叫んだ。それに殿下は応えると、私から躯を離す。

「殿下?」

 彼は至極真剣な面差し瞼を閉じた。

―――なにをするの?

 私は食い入るように殿下を見つめる。次の瞬間、彼の躯が黄金色の光に包まれる。

―――この光、グリーシァンと同じ!…ハッ!嘘!?

 私の右手から黄金色の光が滲み出ている。そしてゴールド色の花の刻印が浮かび上がっていた。花の形も色も凄い、はち切れんばかりに光り輝いている。

―――嘘、なんで!?もしかしてこの魔力は殿下なの!?

 殿下の姿から目が離せなくなる!ど、どういう事なの!?

「王族が隠し持っている秘術があるというのは本当だったのか!」

 頭上からグリーシァンの荒々しい怒号が響く。

「王族は国を、民を守る為に存在する。その為の力だ!ネープルス、行くぞ!」
「わかった!」

 話が勝手に進められて、なにがなんだかもうわけが分からない内に、今度はネープルスの躯が青白い光に包まれる。

「うわっ!眩しっ!」

 視界が光に埋め尽くされ、私は両手で目を覆う。それでも光に灼き尽くされるほど眩しかった。その眩しさに意識が奪われていたが、そこに躯がグラッと浮遊し……次の瞬間!眩しさが吹き飛ぶほどのとんでもない風に圧迫される!重圧感が半端ない!

―――ぎゃぁああ~~~~!!頭の中がグルグルしている!!な、なにが起こってんのぉおお!!

 例えて言うならば、狂い出したジェットコースターに乗っているような感覚だ。それも束の間、数秒後には圧迫感が止まった。ようやく視界が開けた時、世界が変わったように見えた。私はビックリぶったまげた!

「ぎゃぁああ!!な、な、な、な、なんなのよ!!これは!?」

 視界が高い、高すぎる!王宮の屋根が視界の下に見えるのなんで!ってか私が今いるここはなに!?異質な肌触りの物体の上に私は乗っかっている……ま、まさか?

―――ドラゴンの上だ!

 グリーシァンが乗るドラゴンに匹敵するほどの巨大な緑色のドラゴンだ!なにがどうなって私はドラゴンの背中に乗っているってのよ!

「ネープルス!ヒナも乗ってしまっている!」

 背後から温もりを感じる!すぐ後ろに殿下が私の躯を包んで立っていた。普段なら嬉しいシチュだけど、今はすべてが困惑にしか思えない!

「ヒナちゃんがいるの?」

―――ぎゃぁああ!ドラゴンが喋った!って、この声はまさかネープルス!?

「ヒナが危ない。降ろしてや…「ルクソール!グリーシァンから攻撃が来た!」」
「え!?……ぎゃぁああ!!」

―――ブォオオ――――――!!

 視界に映る、轟々と燃える炎が嵐の如く私達の方へと牙を剥けてきた!!





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