STEP75「領土の実態は…」




「ここは孤児院だったんですか?」
「あら?ご存じなくて、お人形を届けに来て下さったの?」
「え、あ、そ、そうですね」

 チャーミーさんから不思議そうな顔で問われてしまい、私は曖昧に返答をした。話がちぐはぐになってきたから、気をつけなきゃ。

『ウルルさん、ここは孤児院のようですよ』
『ええ、そのようね。気付いてたけど』
『はい?もしかして初めから孤児院だと知っていたのに、わざわざ私に調べさせようとしていたんですか!』

 それが本当なら、とんでもない話だ!私はカッと頭に血が上ってウルルを問い詰める。

『人聞きの悪い言い方をしないで頂戴。さっきの貴女と女の子の会話を聞いていて、気付いたのよ。それに、そこの女性がチャーミーの服装をしているし』
『え?女性がチャーミーの服装?』

―――チャーミーさんって人の名前だよね?

 そうではないのか?私は意味がわからずにポカンとなっていた。

『チャーミーはチャーミーよ。聖職者の服装でしょ?』
『あ』

 やっと理解出来た。チャーミーというのは人の名ではなくて、聖職者の名称だったんだ。私の世界で言えば、シスターという名前のようなものだ。やっぱりこの女性はシスターのような人だったのか。

「せっかくいらして下さったのですから、どうぞ中へとお入りになって。お茶をお出ししますよ」
「あ、有難うございます」

 チャーミーさんがご丁寧に私を招いてくれる。おぉ~、上手い具合に中へと入れる事になった!普通は悪いと思って遠慮するところではあるんだけど、今回はお言葉に甘えて…。

『中に入らなくていいわよ。もうここがなにかわかったし』
『え?』

 思いがけない機会チャンスだというのに、ウルルは乗り気ではないみたいだ。急にどうしたよ?

『最初は中へ入ろうとしていたじゃないですか?急にどうして?』
『あくまでもここがなんなのか知りたかっただけよ。それにお茶をしながら、根掘り葉掘り聞かれるのも面倒でしょ?まぁ宮廷の女中といえば、さほど疑われずには済むでしょうけど、これ以上深入りする必要もないと思うわ』
『え~』
『他の領土も調べに行くのよ。一ヵ所に時間を長くかけられる余裕もないでしょ?』
『う、そうですね』

 約束のタイムリミットは今日いっぱいなのだ。ここは素直にウルルに従って先へと急ごう。

「あの、スミマセン。せっかくのご厚意なんですが、急用を思い出しまして」

 私は恐々とした様子で、お断りを伝える。チャーミーさんは残念そうに眉根を下げた。

「あら残念だわ。また是非いらして下さいね」
「有難うございます」

 チャーミーさんは最後まで丁寧に頭を下げてくれて、私もペコリとお辞儀を返す。んで、このままおいとまする前にだ。

―――ウルルをどうすっかな。

 チラッと女の子へと目を向けると、彼女は私の言いたい事を察したようで、ウルルをムギュと抱き締める。うー、返してくれなさそうだな。困ったな、流れ的にウルルをあげたみたいになっているし、今更ハッキリと返してとは言いづらいよ。

「どうかなさいました?」
「あ、いえ」

 なかなかその場から去らない私をチャーミーさんが不思議に思って声をかける。

『なにやっているのよ!早く私を取り返すのよ!』
『いえ、話の流れ的にウルルさんを返してとは言いづらくてですね』
『貴女、私と離れたら死・ぬ・わ・よ』
『うっ』

 確かにここでウルルと離れたら、ジュエリア探しが出来なくなって、私はチーンとなる。仕方ない、ここは腹を括ってウルルを返してもらおう。

「あ、あの実はその人形なんですが」

 私は勇気を振り絞って口を開いた。するとだ。

「あ!」

 女の子がウルルを取られまいと、私に背を向けて走り出してしまった!

―――きょ、強行突破か!

 何事かと目を丸くしているチャーミーさんを後にして、私は急いで女の子の跡を追う。

「ま、待って!その人形を返して~!」

 私は叫びながら腕を伸ばす。足の速い私はすぐに女の子に追いついて、彼女の腕を引っ張り上げた。

「は、はなして!このおにんぎょうは、わたしのだもん!」

 女の子はジタバタして、私の手をパシンパシンッと払い退けようとしていた。

「それは私の大事なお人形なの。悪いんだけど、返してくれないかな?」
「このこはわたしのだもん!う、うぁああん」
「うっ」

 とうとう女の子が泣き出してしまった。こんな小さな子の泣き姿を見ても、ウルルを取り返さなくちゃならないなんて、ひ、非道だよね。

―――あ~もうどうしよう!

 のっぴきならないこの状況をどうしろと言うのだ!

『ウルルさん、もう私にはどうする事も出来ません』
『もう仕方ないわねっ』

 降参宣言を上げた私に、ウルルは鼻息を荒くして応える。

―――ど、どうする気だ!

 ウルルに目を向けると、彼女はいきなりクルッと躯の向きを変え、女の子と露骨に向き合う。いきなり動き出したウルルに、女の子も泣くのを忘れたかのようにキョトンとしていた。

―――な、なんか動くぬいぐるみになっているんですけど!

「私は森の精霊よ。人間に飼われたくないし、早く私から手を離して頂戴」

 ウルルは動いただけではなく、正体を明かして辛辣な言葉を女の子へと投げつけた。

―――あれはいいのか!?

 あまりにも素を出し過ぎているような!私はヒヤヒヤとしながら状況を見守っていた。

「うきゃっ!」
「ぎゃっ!」

 時間差で目が飛び出したかのように驚いた女の子は、思わずウルルを地面に落としてしまった(見ようには地面に叩き落としたような)。性急な出来事にウルルから品のない声が洩れた。

「痛いじゃないの!!」

 地面に叩きつけられたウルルは大層ご立腹していて、怒号を上げると、

「き…っきゃあ!」
「ぎゃぁあ!!」

 さらに女の子は驚いてしまって……なんと!足でウルルをボコボコに踏みつける!恐怖のあまり、感情に身を任せて踏んづけているのだろう!

「このおにんぎょう、おんなのこじゃない!きもちわるい!あっちいってよ!」
「ぎゃあっ、乱暴な子ね!それに気持ち悪いってなによ!」
「おっちゃんきもちわるい!」
「誰がおっちゃんよ!私は麗しき聖霊よ!だから痛いっての!!」

 なんなんだろう、この光景は…。ウルルは相変わらず女の子からエイエイと踏んづけられ、アイタタタ状態だ。やっぱりね。無垢な子供にはまだオネェは刺激が強いんだわ。

―――ウルルには悪いけど……プッ、ちょっと笑える。

 彼女を助けない私は非道だわ。そこにサッと助け舟が現れる。

「なにをやっているの?お人形さんにそんな事をやっては駄目でしょう?」

 チャーミーさんが女の子とウルルに間に入ってきた。女の子はチャーミーさんの姿を見ると、踏んづけ行為を止めた。そしてウルルはぬいぐるみに戻る(ノックアウトしているだけかも)。

「もうそのおにんぎょういらない!おうちにかえる!」
「あらあらどうしたの?」

 明らかに機嫌を損ねてしまっている女の子が建物の方へと踵を返す。その跡をチャーミーさんが追う。そして、そのまま二人は孤児院の中へと姿を消してしまった。

 …………………………。

 閑散とした空気がそよ風と共に通り過ぎていく。

「あのウルルさん、大丈夫ですか?」

 未だにうつ伏せで動かないウルルを私は本気で心配になってきた。まさか…?

「し、死んで「ないわよ!!」」

―――ぎゃぁあッ!!

 いきなりムクッとウルルが起き上がった!そして羽をパタパタとバタつかせ、私と同じ目線まで飛んで上がって来た。

「やっとあの悪魔が去って行ったようね!」

 ウルルはフン!と鼻息を荒くして言った。

「悪魔って…さっきの女の子の事ですか?」
「そうよ!あれは将来ろくな大人にはならないわね!」
「ウルルさんも悪いですって。喋って動くぬいぐるみだなんて、普通は怖がりますもの」

―――っていうのは建前で。

 本当はオネェってとこに、女の子は恐怖を感じていたんだよね!それを口にすると、またウルルが煩そうだから黙っているけどさ。

「一先ず、女の子からは解放されて良かったですね」
「全くよ」
「これからどうしますか?」
「とっとと他の領土へと行くわよ」
「わかりました」

 と、ここでウルルが例のハート型クルクルスティックをシュピッと取り出して、魔法を発動させた。

「いでよ!ワープゲート!」

 ウルルが呪文を唱えると、黒いモヤモヤのゲートが現れ、私達は次の領土へと急いだ。チャコール長官が広げているという領土を私達は全部で数十ヵ所と訪れて行った。既に建てられている建築物も、これから建設される予定のものも同じ共通点があって驚いた。

 その殆どが孤児院や介護施設といった「福祉施設」であったのだ。勿論、経営者はあのチャコール長官だ。長官はここ最近、なんの為に領土を拡大しているのか、司直達の前では頑なに話したがらなかったから、よっぽど如何わしいなにかがあるのかと疑っていたけど…。

 実際は福祉施設の建設で社会に貢献している。それに施設に関わる人達から話を聞いてみると、誰もがチャコール長官への厚意に感謝をしていた。私が見た長官のイメージとは全くの真逆だ。

 長官がおこなっている事はとても好意的である。だが、深く考えを掘り下げていけば、それは表上の出来事であって、裏に何かが隠れている可能性もある……私はそう睨んでいる。そう悪く考えたくはないんだけどね。

 それに関してウルルはなにも考えをよこしてこないんだよね。あくまでも彼女は事実がわかれば良いみたいで、彼女の考える意図が全くといってわからない。そんな彼女にわたしはついていくだけだった。

 そしてある程度領土を調べた後、私達は宮廷へと戻る。今度はなにを調べるのかと思いきや、これまとんだ事に首を突っ込む。タイムリミットは残り半日を切った。もうなんでも来い!という気持ちで私は調査へと挑む。





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