STEP60「初愛の告白を受ける!」




 私が起こした王太子への不祥事は無罪となり、処刑から免れた。私は心の底から安堵を感じた。そしてサロメさんはジュエリアではないと疑いが晴れ、正式に王太子の婚約者フィアンセとして公に発表された。それは国中を震撼させたというのは言うまでもない。

 サロメさんは私を貶めようとしていたジュエリアではなく、むしろ私を助け出そうとしていた。彼女が自主的に牢獄へ足を運んで私を出したのは、私を救いたかった事と、自分はジュエリアではないと私にわかってもらう為だそうだ。

 彼女には本当に感謝するべきだ。そう思いたいところなのだが、私の中ではまだ消化不良な部分があった。もしかしたらサロメさんは私を助ける事によって、自分への注意を逸らしたのかもしれない。

 私を牢獄から出したとしても、残り4日で私が本物のジュエリアを見つけられなければ、おのずと私は処刑される。それに彼女はもう正式に王太子の婚約者となり、王太子妃の地位が約束されている。

 本来は身分の違いにより、二人の結婚は認められない筈なのだが、ヴェニット家(サロメさんの家系)が長年に渡って厚い信頼を受けているのと、なにより王太子の熱い想いに周囲は押され認めた。

 あの大仏様をあくどくしたような容姿の王太子と血の気が引いた幽霊のようなサロメさんが未来の王と妃……………王と王妃といえば、美男美女の組み合わせがお決まりなのに。ここの世界に普通を求めてはいけないよね!って話が逸れた、戻そう。

 ジュエリアの事でおかしくなっていた王太子がまた威厳を取り戻したのだ。周りの人達もプラスとなる縁談をわざわざ断ろうとは思わなかったようだ。もしサロメさんジュエリアであれば、とんでもない事態となったわけだが…。

 はぁー、さすがにそれは考え過ぎなのか。サロメさんへの懐疑心はあるものの、信じたいという気持ちもある。彼女が純粋に私を助けたのであれば、この疑いは罰当たりのなにものでもない。

 実は彼女は私を助ける為に王太子の求婚を受け入れたのではないかと心配だったりする。いや、自分の人生を犠牲にしてまで救ったりはしないか。なにかよっぽどのメリットがなければ…。う~ん、そうなると、また懐疑心の方が浮上しちゃうんだよね。

 そして今回の処刑は逃れられたものの、4日後には殿下と約束をしたタイムリミットの日を迎える。それまでにジュエリアを捕まえなければ私は…。ブルッと戦慄が走る。結局、死と向かい合わせの状態は変わらないのだ…。

―――どうしたらいいのか…。ただ今はゆっくりと休みたい。

 ここ一週間まともに睡眠がとれていない。先の事を考えれば、悠長に寝ている場合ではないのだが、とにかく躯が疲労感に見舞われ、ジュエリアを探す気力も体力もない。殿下達も今日はゆっくりと休んでいいと言ってくれた。

―――寝よう。一先ず躯を休ませてから、また対策を考えよう。

 自室の扉の前まで来てホッと安心の溜め息を吐く。その時…。

「ヒナ」

 愛称で名を呼ばれてドキッと胸の鼓動が高鳴った。ただこの硬質な低音ヴォイスは…。

「アッシズさん」

 振り返って相手の顔を目にすると、やっぱり彼であったかと、ちょっぴし残念がってしまう自分がいる。

「どうしたんですか?」
「大丈夫か?」
「え…」

 アッシズの硬派な表情に微かな憂いが含まれていた。

「いや、ヒナは大丈夫だと言っていたが、やはりさっきまでの出来事があったからな」

 あぁ、アッシズは心配してくれているのか。さっきも私を部屋まで送ってくれようとしたんだよね。悪いと思って「大丈夫です」と言って断ったんだけどさ。それでもわざわざ気に掛けてくれて、ここまで来てくれたのか。何気にアッシズは優しかったりするんだな。

「大丈夫ですよ。今日は休んでいいと言われましたので、この後はゆっくり眠ります。起きてから、またジュエリア探しの策を考えたいと思います」
「ヒナ、それなんだが…」

 急にアッシズが強張った顔つきに変わり、私は神妙さを感じ取る。良い雰囲気とは言い難い。

「なんですか?」
「約束の日まで残り4日となった。正直このままではジュエリアを捕まえる事は難しいだろう」

 いきなり無遠慮に現実を叩きつけられて、口頭部をガツンッと殴られた気分だ。こうもストレートに難しいと言われたら、死を決定されたようなものだ。残り4日とはいえ、私は最後まで生きる望みを捨てたくない。

 その気持ちはアッシズも同じだと思っていたが、そうではなかったのか。それとも所詮は他人事だと考えていたのか。なんかもう見事に希望が打ち砕かれて、むちゃくちゃ気分が悪い!

「それは嫌というほどわかっています。だから策を考えようとしているんじゃないですか!」

 私は深く眉根に皺を刻んで苛立った口調で突き返した。ところがアッシズから思いも寄らぬ言葉が返ってくる。  
「ヒナ、殿下に処刑を取り下げて頂くよう、懇願しないか?」
「え?……それは命乞いをしろという意味ですか?」
「そうだ」
「それは簡単な事ではありませんよね?今の時点で完全に私の疑いは晴れていませんから」

 殿下の優しさが時折、私を信じてくれているような錯覚を見せるが、実際の処、刑の取り下げという話はない。殿下は確かに優しいが同じぐらい厳酷な面も持っている。今の段階で命乞いをしたところでも、刑が取り下げをされるとは思えない。

「オレはヒナがジュエリアではないと信じている」
「アッシズさん?」
「この一ヵ月近くヒナの行動を見てきたが、オマエがジュエリアとは思えない。ジュエリアを見つけ出す為に、力の限り頑張っているヒナの姿が偽りには見えない」

 アッシズの表情の中に強い意思を感じる。彼の思いが真摯に伝わってくる。最初は私をジュエリアとして敵視していたのに、いつの間に彼は私を信じてくれるようになったのだろう。

 思い返ればアッシズは私の味方でいてくれたよね。特に一番私を敵視しているグリーシァンから、ズバズバと酷い事を言われた時も、何気なく庇ってくれていたし。

「オレはヒナを死なせたくない。生きていて欲しいんだ」
「アッシズさん…」

 アッシズの優しさが身に染みる。

「ヒナ。これは提案に過ぎないのだが、オレは本当の事で行きたいと思っている」
「?」

 提案?本当の事で行きたい?なんの話だろう?殿下に懇願するに当たってなにか案があるのだろうか。

「ヒナ、オレの恋人になってくれないか?」
「え?」
「オレの大切な女性ひとという事であれば、殿下も耳を傾けて下さる筈だ」
「…………………………」

 私の思考が硬直する。

「えっと、あの勿論それは提案に過ぎないんですよね?」
「出来ればオレは事実で行きたいがな」
「え?…あ、あの事実と言いますと?」
「ヒナとは本当の恋人同士になりたいと思っている」
「へ?」

 この上なく間抜けな顔をしている私とは反対に、アッシズは美しく凛然としている。

「そ、そ、それってアッシズさんは私の事を!?」

―――ま、まさかとは思うけど、す、す、す、す…。

「オレはヒナが好きだ」

 想いを告げたアッシズの頬が強張り、そしてほのかに朱色へと染まる。

「え?」

―――え?……え…………えぇええええええ~~~~~~!?!?⊂⌒~⊃。Д。)⊃

「い、いつからですか!?」
「自分でもわからないんだ。ただ今日、王太子がハッキリとサロメ侍女長に“愛している”と、おっしゃる言葉を聞いて、オレもヒナへ対する自分の気持ちに気付いた」

―――そ、そ、そ、そ、そんな事があるだなんて!

「わ、わ、私のど、ど、ど、何処を、す、す、す……」

 もはや、どもりまくって言葉が上手く紡げないわ!アッシズ以上に私は機関車の煙のように頬を上気させ、心臓の音は爆走していた!私はこの方一度も男性から愛の告白を受けた事がない。人生初の告白をしてくれる人がまさかこんな美形とは!

 しかも地位のある硬派な騎士だよ!青天の霹靂か!!女の子であれば一度ぐらいは騎士との恋に妄想を抱くだろう(*ノωノ)私だってその一人だ。今、自分がとてもオイシイ状況にいるっていうのが信じられない!

―――でも……私は……。

 無意識の内に私は顔を伏せていた。やっぱり私の心を占めるのは「ルクソール殿下」なのだ。殿下は刑を取り下げにはしない。少しでも私に気持ちがあれば、処刑という形はなくなっているのではないだろうか。

 すなわちそれは殿下が私の事をどうも思っていないという事だ。そんな事はわかり切っている。このまま殿下を想っていても、4日後には私はこの世から消えている。アッシズの気持ちに応えれば、私は生きられるかもしれないのだ。

 それに無理にアッシズもリアルを装おうとしてはない。フリでも構わないと言ってくれるだろう。だが、殿下には私の気持ちを誤解される事になり、そして私は殿下に気持ちを伝えられなくなる。

「迷っているようだな。そうなって当然だ。ヒナのルクソール殿下に対する気持ちは知っている。だが、オレはオマエが生きられるよう全力で守るし、勿論その後もずっと傍で守ってやりたいと思っている」
「アッシズさん…」

 アッシズは優しい。本当の恋人同士になったら、彼の言葉の通りに守ってもらえるだろう。命も落とさずに済むのかもしれない。

―――生き残る為にアッシズの気持ちに応えるべきなのか。それとも殿下に想いを伝えて潔く命を落とすのか、私は……。





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