STEP35「どういう風の吹き回しですか」




「また随分と怖いもの知らずに現れたもんだね」

 くる朝のミーティング、真っ先に私は昨日のジュエリアとの出来事を話す。死亡フラグの宣言を受けたけっこう深刻な内容を話したつもりだが、グリーシァンは腕を組んで妙に落ち着いていた。他人事ってやつか?

「ヒナ……」

 ――え?

 名を呼んだのはアッシズだ。グリーシァンとは違って、何処か怒気を含んだ重々しい口調で、思わず私はヒヤリとした。

「何故、それを昨日の内に報告しなかった?」
「え?」

 突然に問われて思考が止まる。完全に咎められている。なんで? と、思わず言葉が出そうになったが、アッシズの妙に摯実な表情を真っ向にして、私は肩を竦めた。急に反省せざるを得ない気持ちにさせられる。

「それは仕事がありましたし、只でさえ今はチェルシー様からの妨害で怒られてばかりなのに、サボっていると誤解されたくなかったんです」

 これは言い訳ではなく事実だ。仕事が終わった後も、チェルシー様の虐めで疲れて報告する気力もなかったし。

「命に関わる事だ。仕事云々の前に報告が先だったろう? 今こうやって何事もなく、オレ達の前に居られるから良かったものの、なにかあってからでは対処しようがない」
「……そうですね」

 私はしょぼくれ、アッシズから視線を逸らす。考えてみれば、言われている事は最もだ。ジュエリアがあの後、私になにもしてこなかったから、今こうして居られるものの、もしかしたら手掛けられていたかもしれないのだ。

 …………………………。

 嫌な沈黙が降りる。すぐにでもこの場から逃げ出したい。

「へぇ~」
「え?」

 なに今のグリーシァンの「へぇ~」は。今のこの空気にそぐわない言葉だった。

「意外だねー。心配したんだ? アッシズってばさ」

 ――はい?

 なんだなんだ? 今のグリーシァンの言葉は? 意味あり気な口調で意味がわからん。

「なんだ? 当たり前だろ?」
「いつの間に懐柔されていたの? この子に?」

―――は?

 なんだ、その言い方? アッシズの素直な返答に対してのグリーシァンの返し。凄く不快に聞こえたんだけど。

「オレはまだこの子がジュエリアじゃないと疑っていないわけじゃないよ。この子の自演の可能性もある」
「は?」

 グリーシァンの続いた言葉に、さすがに私もカチンときてガンを飛ばす。こっちは命が懸かって真剣に話をしているってのに、なんだその言い方は! しかも未だにきちんと人を名前で呼ばないし。失礼にもほどがあるっての!

 言葉が過ぎたグリーシァンに、私も露骨に嫌な表情をぶつけた。とはいえ、ヤツは私には目もくれずに涼しい顔をしている。自分にはなにも間違いがないとでもいうような態度で何様なんだ、コイツは!

「グリーシァンッ、今はヒナを疑うよりも対策を練る方が先だろう」

 どうやらグリーシァンの態度に、アッシズも頭に来ているのだろう。彼は酷く厳しい表情をしてヤツを見つめる。

「勿論、対策は練るつもりだよ」

 グリーシァンは表情を崩さず、シレッと答える。もうヤツのなにからなにまで腹が立って仕方がない。と、ここでヤツに時間を食う事は愚かだ。私は怒りを奥底へと沈め、寛容な心で本題を持ち出す。

「ジュエリアは近日中になにかを仕掛けるつもりのようです。私がジュエリアを捕まえるよりも前に、早く私を始末したいように思えました」
「近日中といえば、二日後に建国パーティが開催されるな」

 アッシズの返しで思い出す。私には一大事なことが起きようとしているのに、グレージュクォルツ国はお祭りモードへと入り、宮殿でも大きなパーティが行われる。私からしたら凄い複雑だけど。

「その線で狙っている可能性高いかもね。派手好きな姫様には持ってこいの場所じゃない?」

 目を細めて淡々と答えるグリーシァンの意見に私も賛同する。それにパーティなら人がわんさかと集まる。身を紛らわせるのには持ってこいの場だろう。

「最初にしなければならないのは、より厳重にチェルシー様を見張る事だね。頼んだよ、アッシズ」

 グリーシァンは顎を上げ、アッシズに依頼を託す。騎士を務めるアッシズは部下を率いて、チェルシー様の近衛をおこなっている。そこに……。

「それなんだが……」

 アッシズはすぐに返事をせずに、なにかを言いかける。

「実は前から思っていたのだが、男の護衛ではすべてを共に行動する事が出来ない。出来れば女の侍女を付けた方がよりチェルシー様の行動を見張る事が出来るかと思うのだが」

 それはナイスなアイディアだ。万事付き添えているわけじゃないのは彼女がジュエリアとして私の現れた時点で立証されているもんね。すぐにそれを実行するべし……と、思うのだが、グリーシァンは口を噤み、深く思案に身を置いている様子であった。

 ――考える間もないと思うけど?

 私としてもすぐにそうして欲しいわ。

「わかったよ。そしたら適任にサロメ侍女長をつけよう。彼女であれば、妙な政策をしないで従順にあの我が儘姫に付いていてくれるだろうしね」

 ――気の毒に。

 グリーシァンの提案で真っ先に私が思った事。あのとんでもない我が儘姫に四六時中付き添うなんて寿命が縮まりそうだもん。でもサロメさんなら仕事が出来るし、信頼もされているから他の人よりは仕事がスムーズにいくのかな。

 それにサロメさんがチェルシー様に付いてくれているのなら、私もなにかあった時に彼女から呼び出しもされないだろうし、私にとっては好都合かもしれない。ちゃっかりそうと思ってしまう自分は卑しいのだろうか。

「そうだな。早速サロメ侍女長に話をつけてこよう」
「宜しくお願いしますっ」

 アッシズの言葉に、私は力強くお願いの言葉を伝えた……。

❧    ❧    ❧

 ――オカシイ……。

 いや、返って私には喜悦この上なく感じるところなのだが。午後のお茶会を終え、次の仕事場へと向かう途中、私は思案に暮れていた。というのもこれが……チェルシー様からの嫌がらせが全くないのだ。これって凄い事じゃない?

 彼女、今日のお茶会にも参加していなかったし。まさかとは思うけど、サロメさんをつけた事でチェルシー様の行動に規制が入ったのだろうか。サロメさんって隙がないし、監視力抜群そうなのは確かだもんね。ただアッサリ過ぎるのが違和感がないわけではないけど。

 急遽、サロメさんを傍につけた事が彼女を勘ぐらせ、なにか新たな事を考えているかもしれない。あれだけ私に嫌がらせをしに来ていたのに、妙にアッサリと来なくなったもんね。うーん、只の考え過ぎかなぁ。

 とはいえ、おかげでこっちの仕事は捗った捗った。アッシズとグリーシァンの提案に感謝だ。が、今日も新たなジュエリア候補を見つけられなかったけどね。お茶会ではけっこうな数の貴婦人達を調べているんだけど……あーもう! って感じ。

 いや諦めるな! まだ仕事は残っているし、この後、有力な人物に当たるかもしれない。仕事も早めに終えられそうだし、終わったらすぐにジュエリア探しをおこなおう。特にパーティの身支度で貴婦人達がソワソワとしていて、出会う確率も高い。

 使用人さんや侍女さん達も準備でかなりの人達が動いて働いている。何気なく会場に紛れて候補者を探してみよう。会場の様子もみておきたい。そこでジュエリアがなにかを仕掛けてくるかもしれなし。私ははやる気持ちを抑え、仕事場へと急いで向かったのだった……。





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