STEP24「ビッチ過ぎるでしょう!」




 私だけ時が止まったように躯が石化した。

―――今、なんと言いました?サロメさんは…。

 私は頭の中を整理しようと、まず例の令嬢へと目を向ける。彼女は相変わらず私を蔑んで見下ろしていた。鼻につく態度だ!それは置いておき、私とさほど年の変わらない「ザ・令嬢」はだ。

 女の子が好きなリリカちゃん人形やバーディー人形のような艶やかな亜麻色の髪をハーフアップにし、甘い蜜のような琥珀色の双眼をもった誰が見ても容色に恵まれていると賛美する華やかな外見をしている。

 ピンク色のサテン生地の上に、アンティーク風の花柄で彩られた生地を重ねた上質感のあるドレスを着飾れる事なく完璧に着こなしている。王道なお姫様と言っても過言ではない。

 …のだが!いささか性格が悪いのか、それが顔に滲み出ているように見えるのはわたくしの気のせいでしょうかね?って間違いない!さっき派手に私にぶつかっておいて目くじら立てて、文句を飛ばしてきた女だ!

―――こんな女性ひとが、あの麗しいルクソール殿下の婚約者だというのぉお!誰か嘘だと言ってプリーズ!

 私は獣のように咆哮ほうこうを上げる(心の中で)!殿下の婚約者といえば、もっと気品のある可憐な乙女を想像していたのに!オーノー!いくらなんでもコレはないないっ、有り得ないぃぃ!!そんなこんなんと叫んでいたら、

「なにをボーッと突っ立っているのです!早く頭を下げて詫びを入れなさい!」

 サロメさんから叱咤が飛んできた。そうだった、忘れてたよ。サロメさんにそう言われていたんだっけ。面倒だと思ったけど、相手は付き人をかしずかせている王族の人間だし、それにさっき私も気が沈んでいて、きちんと前を向いて歩いていなかったという非もある。

 ここで面倒な問題を起こしたら、殿下に迷惑が行くかもしれないし、それだけは絶対に避けたい!嫌われたくないもん。ここは穏便に従っておこう。私はサロメさんに言われた通り、頭を下げて非礼を詫びる。

「大変失礼を致しました。以後気を付けます」

 心の中ではアッカンベーと舌を出して詫びを入れた。

「謝るのが遅くてよ!こんな無礼者がこの宮殿で働いているの?ちょっと侍女長!ルクソール様の品性が疑われるかもしれないのよ!どうしてこんな女中を雇っているのよ!」

―――はっ?

 え?え?え?なになになにさ?私、めっちゃ素直に謝ったのに、なんでそんなに腹を立てて怒っているのさ、この殿下の婚約者さんは。しかも殿下の品性を疑うとか話がぶっ飛んでいるんですけど?私は顔を上げて目をパチパチとさせる。

「誠に申し訳ございません。この者は二日前に入ったばかりの新人です。まだ不慣れな点が多く大変なご迷惑をおかけ致しました。今後はきちんと指導をして参りますので、今回の件は大目にみては下さらないでしょうか」

 サロメさんはさっきよりも深々と頭を下げてお詫びを言う。なにもそこまでしなくてもと、私はポカンとなってしまった。

「そうなの?新人ねー。仕方ないわね!今回だけは特別に大目にみてあげてもいいわよ」

―――なんだその上から目線!

 婚約者から「許してあげる事に感謝しなさいよ」的なオーラが半端ない。さすがにムカッ腹が立つわ!これはなんでも酷い!とんだビッチだ!!

「有難うございます」

 サロメさんは三度目の深々とした頭を垂れさせた。見ているこちらの胸が痛くなる。だけど、反対に目の前の婚約者は大変満足げ。サロメさんの低姿勢が彼女の機嫌を良くしたようだ。さすが侍女長だと感心はするけどさ、腑に落ちないよね?

「チェルシー様、そろそろ参りませんと、ティータイムが始まってしまいますよ」

 少し場の空気が和んだところで、付き人の一人が殿下の婚約者へ声を掛けた。

「そうね。とっとと行くわよ。今日はルクソール様もいらっしゃるかもしれないのだから」
「はい」

 催促の声に応えたチェルシー様の頭の中はルクソール殿下でいっぱいになったのか、私とサロメさんの事はスッカリと抜け落ちたようで、颯爽とした足取りで去って行った。私からしたら突然の嵐が去ったような気分だ。

 それからサロメさんはチェルシー様達の姿が見えなくなるまで、しっかりと見届けた後、再び歩き出したもんだから慌てて後へ続いた。まだ午前中だというのに、どっぷりと疲れに浸かった私であった…。

❧    ❧    ❧

 さて今更だが、ここグレージュクォルツ国は五本の指折りに入る大国である。現国王を為政者トップとし、国は王政で成り立っている。ブリュトン国王にはキャメリア王妃、そして第一王子のヴァイナス王太子と第二王子のルクソール殿下、続いて五人の王女がいる。

 そしてこの国は最も歴史が深く、人類の起源もこの国から始まって文明を築いていったとか。地図上でこの国は南地帯を大きく占め、大陸地帯の華の都であるが、周りは緑豊かな森林によって囲まれている。

 豊潤とした緑の資源により、澄んだ空気が作り出され、常に安定した風と質の良い土が保たれている為、農作物が豊富に生産されるのは勿論、薬用となる貴重な花や植物も多種に存在し、医学と医療の発達へと繋がっている。

 また外交の盛んによって輸出が活発に行われており、経済は大きく潤っていた。そんな中で、この国と最も親密なのが地図上の中央にあるクリストローゼ国。そこはあのルクソール殿下の婚約者チェルシー様の国だ。

 クリストローゼ国の北部は有名なトリアノン川の下流地域に広がる景勝地であり、南部は広大な雪の山脈に抱かれた渓谷美となっている。渓谷の両岸には町が点在し、一方は近代都市、もう一方が古都となっている。

 近代都市に人々は集約していて、現王族の城があり、古都は主に畑地帯となっているが、修道院や古城といった町々が織り成す景観が広がっている。ただ資源の出所となっているのは意外にも南部にそびえ立つ雪の山脈だそうだ。

 山脈は通年雪期であり、外気が酷く冷え込むが、随所に点在する洞窟の中ではある現象が起きていた。それは外気で冷えた水滴が個体となり、美しい金剛石に変わるというものだ。見た目はダイヤモンドに似ているみたい。

 結晶構造がいくつかあり、見る角度によってはアメジストやアクア色にも見える非常に珍しいもので、それは宝石よりも高価で国の至宝となっていたる。当然他国でも人気の代物ではあるが、なんせ雪の積もった山脈で交通の利便が良くない。

 そこで利用されているのが、グレージュクォルツ国から送り出される飛竜ドラゴンだ!…え?って感じじゃない!?聞いた時、目ん玉が飛び出そうになったよ!さすが魔法が存在しているだけあって、飛竜までいたものだ!

 その話は一先ず置いておき、飛竜を手懐けられる魔術師が多いのが、このグレージュクォルツ国であり、クリストローゼ国の金剛石を運ぶ仕事を担っているとの事。交流の深い国同士という事もあって、チェルシー様はルクソール殿下の婚約者となっているそうだ。

 チェルシー様がねー、本物のお姫様だったもんだからビックリだわ!まぁ、殿下の婚約者になるぐらいだから、王族っていうのは納得だけど。それも男兄弟の中の唯一の女子おなご!それはもう大事に大事に育てられた絵に描いたような我が儘嬢だ!

 ここまでの情報はすべてサロメさんに叩き込まれたわけで。滅多にあのチェルシー様とは関わる事はないんだけど、また今日みたいな失礼な事にならないよう、きちんとした情報を与えられたってわけ。

 確かにいきなりの接触はビビったよね!出来れば、もう二度と関わりを持ちたくないのが正直な気持ち。殿下には大変申し訳ないけど、彼女にはあまり良い印象がない。というか、ガチショックだったな、あの人が未来の花嫁だなんて、殿下が気の毒でならないよぉ!

 今後、チェルシー様と関わる事はないと思っていたんだけど、まさか関わりをもつ事になろうとは。それもとんでもない関わりをもたれて…。あ~、私はジュエリア探しだけをしていたいのに、どうしてこう余計な事に巻き込まれるのか!そして今日もジュエリア探しは出来なかった…。(死にたくないよぉ!)





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