STEP5「この世界が現実? なわけない」




 ジュエリアの顔は相変わらず深く被ったフードでかげっていたけど、それでも私は目をパチクリとさせながら、ヤツを見つめていた。

 ――この世界が現実リアルって……。

 そっか。私の夢の中ではあるとはいえ、この人からしたら現実だって思い込んでいるんだよね。夢が醒めたら消えて無くなるのにさ。そう思えば、なんだがヤツが気の毒に思えてきた。ここはせめて話を合わせてあげるべきだろうか、こんな悪党だけどね。

「はいはい、わかったわよ。現実なんでしょ。ちゃんとわかってるわよ」
「わかっていないようね。そうねー、そうしたら貴女、そろそろ近いんじゃない? 生理的現象のものが」
「!」

 ひぃ、言われて忘れていたリアルを思い出した。そうだそうだ、意識したらお手洗いが近くなったよ。余計な事を思い出させやがって……ってそうじゃない.

 ――た、確かにこの焦燥感、妙にリアリティじゃない……?

 い、いや、お手洗いが近い時にはそれが夢に反映する場合があるし……でもなんかもうけっこう限界で、あ、汗まで出てきたよぉ~。

 ――うぅ、牢獄の中を見渡す限り、お手洗いの場なんてないし、目の前にはジュエリアがいるし、ど、どうしよう。

 徐々に私は青ざめてきた。ヤ、ヤバイ。このままでは膀胱が破裂してしまう! こんな我慢良くない! 私が急に切実な表情に変わった事に、ジュエリアは気付く。

「その様子だと、そろそろ現実だと意識してきたみたいね?」
「話より先にこの生理現象を鎮めたいわ!」

 もう話どころではない、私は足をモジモジと動かし、限界を訴えていた。うぅ~、こんな女の前で情けない。……でもこればかりは仕方ないよー。そんな焦っている私を目前にしてジュエリアは平然として言う。

「どうせ明日で無くなる命なんだし、ここで醜態晒したってどって事「あるわよ!!」」

 なに言いやがる、この女は! いくらなんでも私女のコなんだし、醜態なんか晒されるか、このバカたれが!

「わぁわぁと煩い女子おなごね。これでわかったでしょ? 今、この世界が現実って事が?」

 ここが現実だとぉ~、んな事があって……と言い返したいけど、この汗、本当にヤバイ。肌から滲み出た汗に触れてみると、妙に冷たい感触が伝わる。バクバクと心臓の音が耳の奥から脈打つ。これが夢だと言えるのだろうか。

「認めないの? 素直に認めたら教えてあげてもよくてよ? 最後ぐらい綺麗に終わらせてあげたいものね」

 いっちいち死をにおわす言い方しよって! って今はそこに着眼している場合ではない。これをなんとか抑えないと、これ以上は何も先に進めない、…くっ、すんごぉい釈然としないけど、ここは折れるしかない。

「わかったわよ、認めるわよ。だから早くお手洗いの場所を教えなさいよ」
「どうしっよかな~?」
「アンタ、この場に及んで! さっき教える言うてたじゃない!」
「でも貴女、すんごぉい失礼な事ばっか言うし、親切に教える事もないかと思い始めちゃった」
「アンタ、初めから教えるつもりなかったんじゃ! この性悪、それに失礼なのはアンタの方でしょ」
「本当にうっさいコね。これ以上、喚かれても私の気分を害するだけだから、教えてあげるわよ」

❧    ❧    ❧

――なかなか刺激的なやり方だったな、こっちのお手洗いの方法は。

 事を無事に終えた私はあのさっきまでの焦燥感からは打って変わって爽快な気分に満たされていた。まさかお手洗いでこんな清々しい思いをするなんてさ。という良い気分に浸っていたかったけど、そうはいかない。

 何故ならこのリアルな感情こそが、ここが現実であると決定づけていたからだ。これが現実だなんて有り得ない。だってだよ? 私はジュエリアの代わりに本当に処刑されてしまうって事でしょ!? ゾクッと躯が戦慄わななき、頭の中がグルグルと渦巻く。

 ――冗談じゃない、冗談じゃないわよ!

 一体、本当にどういう事! なんで私ゲームの世界に入ったの!? 未だ半信半疑が抜け切れていないけれど、抱く感情が生々しく、そうもいかなかった。私は眉根に皺を寄せ、頭を抱えていた。

「自己嫌悪に浸っているところに悪いけど、私も忙しいから、とっとと話を終わらせるわよ」

 ――なにそれ?

 かけられた言葉に、私は殺意的な感情が芽生える。人が処刑されるかもしれないというのに、まるで他人事に考えている。人の死をなんだと思っているの? この人、人間じゃない。魔女、いや悪魔だ!

「BURN UP NIGHTの世界はゲームの“意識”から作り出されたもの。このゲームは人と同じように意識を持っている、いわば人と同じようにせいを持っているわ」
「全く意味不明」

 悠長に話なんて聞いていたくもないわ。こっちは命がかかってんだから。それに本当にコイツの言う事は理解出来ないし!

「そうね、貴女のおつむでは理解出来ないでしょうね」
「ちょっと!」

 んでもって間にちょいちょい爆弾をバラ撒いてくる。それにいちいち反応してしまう自分も嫌んなってくるけどさ。あーもう、気持ちが混乱してわけわかんない! そんなんでもジュエリアの説明は続いていく。

「簡単にいえば、私達はゲームの意識の中にいるって事よ」
「はい、そうですかなんて理解出来る話じゃないっつぅの。ゲームに意識があるとか、仮にあったとしても、どうやって私はその意識の中に入れたのかもわからないし」
「あら、光栄な事よ。だって貴女は選ばれて招待されたわけだし」
「あーそうですか」

 まともに考えられるような話しではない。そもそもこの目の前の女が正気とも言えないんだから。私は適当に流す事に決めた。

「もう投げやりね。仕方ないか、頭の弱いコだからね」
「この世界の話なんてどうでもいいわ! それよりも肝心な話はどうなのよ!? アンタが王太子をそそのかしたという話よ!」
「何を想像したのかわからないけど、私は王太子を唆してなんかないわよ」
「こんな牢獄にぶち込まれたなら、その類だと思われても仕方ないじゃない!」
「勝手な妄想だわ」

 口調からしてジュエリアが呆れているのがわかった。確かに勝手な思い込みかもしれないけど、そう思わせるアンタの底意地の悪さが原因じゃないの。少しは自分の悪ぶりを自覚しなさいっての。

「私と王太子はある場所で出会ったの。そして出会ってすぐに彼は私に恋をしたわ」
「はぁ?」

 なになに急に。馴れ初めを話し始めてきた? それになんか王太子に対しても上から目線の言い方じゃない? それ本当の話なのか胡散臭いわ。

「まぁ、相手は時期王の座につく王太子という事もあって、本来、私は釣り合いの取れる身分ではなくてね。堂々とはオープンに会う事は出来ずにいたの。それでも王太子は私を一途に愛してくれていたわ。彼はね、随分と私に陶酔していたの」

 はぁ~? アンタが自分自身に陶酔してるじゃん? 聞いててゾワゾワしてくる話だわ。

「ふふふっ、随分と訝しい表情をしているのね。でも本当の話よ。その証拠に王太子は私を婚約者にまでと考えていらしたのだから」
「はぁ? 随分、悪趣味をお持ちの王太子様のようで」
「負け惜しみのような言い方ね」
「別に私、アンタと張り合ってないし!」

 すぐに人を蔑む言い方して、そんな女に惚れた男なんて悪趣味の何者でもないっての! あー、でもこういうタイプ、男の前でも猫かぶりなのかもしれない。ゾワワッ(ガクブル)。

「私達の密やかな関係は暫く続いていたのだけれど、ある日突然、あの人が邪魔をしてきたのよ」

 え? 今のジュエリアの最後のセリフ、ドスの利いた低い声できょわかったんですけど?

「あの人って誰よ?」
「第二王子のルクソール殿下の事よ」
「ルクソ―ル殿下?」

 ――なんで殿下が? 何があったの?





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