STEP4「本物の悪役令嬢、現れる」




「アンタが例のジュエリアなのね!」

 声が辺り一面へ木霊するように響く。自分の声高な声を耳にして怒りが込み上がっているのがわかった。居ても立ってもいられない感情を抑え切れず、相手が何者かもよくわからない内に、食い付くように相手との距離を縮める。

 ジャリンジャリンという鎖の重々しく煩わしい音までも響く。鉄格子の前で立つ私をジッと見つめるジュエリア。灰暗さもある上に深くフードを被っている相手の顔を確認する事が出来ない。

 相手の所まで手を伸ばす事が出来れば、間違いなく顔を引っ掻いてやるのに。そんな勢いで私はジュエリアを威嚇するように睨みつけていた。反対にヤツは雰囲気からして、平然としているように見える。なんて腹立たしい!

 ――この悪役令嬢のおかげで、今私はこんな牢獄で鎖に繋がられているんだ。絶対に許せない!

「ちょっと、なんだか知らないけど、アンタのしでかした罪のおかげで、今私はこんな所にいるんだからね! なんで私がアンタの罪を被らなきゃならないのよ! 人に罪を擦り付けておいて、悠々としていんな! 一体どういうつもりよ!」
「ふふふっ、そんな悪態ついた顔を見せて、ブスな顔がますます崩れてブスね」
「ガー、なんですってー!」

 人の言葉シカトした挙句、媚びるような甘い声をしてブス呼ばわり! 心底の性悪だわ、アンタの方が性格ブスブスだっての!

「そんなに怒らなくても。素直にブスだと認めたら怒気がしぼむわよ」
「超意味不明!!」

 人の顔目がけて溜め息吐きやがったよ、この女! しかも言っている内容が明らかに人の事を馬鹿にしている。何処までも腐った心をもっているんだ。

「それと貴女、よくその顔でこの世界へ入れたわね。本当に女性には甘い世界だこと」
「さっきからなんなのよ、人の顔を非難する発言ばっかし……て……、って、え?」

 今のジュエリアの言葉に違和感を覚える。ヤツなんて言った? 「よくこの世界へ入れたわね」って?

「さっきの言葉どういう意味よ! この世界へ入れたって!」
「あら? 気付いてなかったの? 自分から入って来たんでしょ、このBURN UP NIGHTの世界に」
「そ、そうだけど」

 とはいってもゲームの世界に入ったっていう夢の中にだけどね。一瞬、現実的にゲームの世界に入ってしまったのかと錯覚しそうになったよ。にしても夢にしてはちゃんとつじつまが合っているよね?

「夢とわかっているけど、アンタに対して現実でも味わった事のないほどの怒りを覚えているんだけど」

 私はこの溢れんばかりの怒りを言葉にして、ジュエリアにぶつけた。

「貴女、顔もイケてないけど、頭の中も駄目なのね」
「はぁ~!?」

 さっきよりもさらに深い溜め息をかけられたよ! もうさっきから癪に障るのなんのって! なにより口の減らない女だ。次から次へと不快な言葉を飛ばしてくるんだもん。

「私はまともな事しか言っていないじゃない! アンタ方こそヤバヤバじゃない! 人に罪を擦り付けてきたこの極悪非道人!」
「貴女、この現実を夢だと思っているの? そんな訳ないでしょ? ここはちゃんと現実で生きている世界なんだから」
「は?」

 え、え? なになに? なに言っちゃってんの、この人? この世界が現実? ……んっなわけないない、あってたまるか!

「ここまでくると救いようのない人で憐れに思えてくる。ご愁傷様!」

 どうせ夢なんだから、なに言っても罪にはならない。だったら私だって言わせてもらうんだから。私はジュエリアへ遠回しに頭オカシイですよね? 的な言葉を投げてやった。

「ご愁傷様なのは貴女でしょ? 今の自分の立場わかっているの? このままじゃ貴女、明朝にはお陀仏になるんだから」
「は?」

 ジュエリアは蔑むというよりは呆れた口調でとんでもない事を口走った。また処刑の話? さっきの魔術師からも言われたけど、なんなんだ、その悪趣味な内容は! つぅか、そもそも私は処刑に当たる事はなに一つしてないじゃない。

「処刑は私じゃなくてアンタの筈でしょ!? なんだか知らないけど、王太子に取り入ってもらったのなんだので、相当な悪事を行ったみたいじゃないっ」
「悪事だなんて人聞きの悪い」

 ジュエリアは私から顔を背けた。

「何が人聞きの悪いだ! だからこうやって牢獄にぶち込まれたんじゃない! 本来ここにはアンタが入る筈だったんでしょ!」
「ふふふっ」
「!」

 ――な、なにまたいきなり笑い出して。本当に気味悪い。

「なに笑っているのよ」
「だって代わりに入ってくれる人がいるなんて、笑わずにはいられないでしょ?」
「私の承諾なしじゃない!」
「私って本当に運がいいわー」
「ちょっと!」

 この女は都合の悪い話になると、ムカつく言葉を投げるかシカトするかのどちらかだ。こんな女の為に処刑されるなんて死んでも死にきれない! って私は処刑なんてされてやらないんだから!

 ――はっ、そういえばこの人どうやってここまで入って来たわけ?

 そうだよ、近くには見張りの兵が数人待機している筈。どうしてそれを忘れていたんだ! 早くジュエリアを捕まえてもらわなきゃ!

「誰か助けてぇー!! 誰かぁああ――!! 」

 私は鉄格子の隙間から口を突き出し、ありったけの力を込めて大声を上げる。

「ここに本物の悪の令嬢ジュエリアがいます! 早く捕まえて下さぁ――い!!」

 これだけ声を張り上げてジュエリアの名を出せば、見張り兵も素っ頓狂となって駆け付けてくるよね。ところが……。

「誰も助けにこりゃしないし、私を捕まえには来ないわよ」
「は?」

 わぁわぁ叫ぶのに必死でジュエリアを見失っていたけど、ヤツは私の様子を目にしていても、慌てる素振り一つもない。なんなの、この無駄な落ち着きは?

「なんですって? アンタなにかしたの!」
「兵士達には今眠ってもらっているわ」
「は?」
「ふふふっ」

 またジュエリアは高笑いを洩らす。明らかに嘲笑するその姿は不気味そのものだ。眠ってもらっているってなに? そんなに簡単に眠らせられるものなの? 睡眠薬を飲ませた? 睡眠作用のあるお香でも焚いた?

 ――というかこの人、本当は魔女なんじゃ!?

 令嬢の名を被った魔女じゃ!? 騎士の「魔女の気質をもった」という言葉を思い出す。

「残念だったわね。誰も助けに来てもらえなくて。まぁそう容易く捕まる状況にしておくわけないでしょ?」
「アンタ何者!? ただの令嬢じゃないんでしょ!?」
「さぁね。それはどうでしょう」
「はぐらかすな!」

 やっぱこの人普通じゃない! その恐怖とどうしようもない怒りを私はジュエリアにぶつける。何か言葉にしていないと、気がおかしくなりそうだった。いくら夢とはいえ、この生々しさはなんなんだ!

「一体アンタはなにやらかしたのよ! 白状なさい!」
「そうね、明日で処刑となる身の貴女だし、死ぬ前に教えてあげてもよくてよ?」
「死なないっての!」

 勝手に人を処刑扱いにした上に、上から目線の言い方で二重に腹立つわ!

「これでも代わりになってくれた貴女には感謝しているのよ。だから話してあげる」

 代わりになった覚えもないし、そんな感謝いらないわ! もういっちいち言う事がストレスフルだ!

「その前にだけど、そうねー。いい加減この世界が現実である事を理解して頂戴ね」
「は?」





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