STEP2「悪役令嬢、どなたの事ですか?」




 ――私の恋のお相手はどなた様でしょうかね?

 なんてお花畑のようなフワフワっとした考えは一瞬だけだった。すぐに自分の置かれている状況に気付いて蒼白したからだ。何故だか私は囚われの身となっている。

 ――えっと、これはどういう事?

 ちっとやそっとではぶった切れないような超硬張網の鎖に手足が繋がれていますけど? その鎖は背中の上にある石造の壁に繋がり固定されていた。

 ――なんの趣味ですか、これ?

 辺りは燭台しょくだいの上で揺れている蝋燭の灯りのみで仄暗い。壁もだけど、地についている床も石造りだ。硬くてお尻が痛いっての。極めつけは真っ黒な鉄格子! お決まり、ここは完璧な地下牢獄ってやつですか!

 状況は恐ろしいんだけど、どう考えてもこれは現実的リアルには思えない。確か私はオンラインゲーム「BURN UP NIGHT」をプレイしようとしていた……はず。

 ――ん? これって……?

 鎖のインパクトが強くて気付かなかったけど、どうやら私はゲームの初期設定で用意されたクリーム色の襟付きワンピースを着ている。どういうこっちゃ?

 ――そっか、ゲームの世界に入ったっていう夢か。

 とはいえ、なんでこんな悪趣味な夢の中に入っちゃったのさ? 甘いひと時が過ごせる筈じゃなかったの~? 誰か説明プリーズ!

「気分はどうだ?」

 ――最悪でしょう!

 喉から零れ落ちそうになった言葉を呑み込んだ。聞かなくてもわかるだろう……っていつから人がいたんだ! ハッとなった私は視線を鉄格子の外へと向けた。すると、見知らぬ男性の三人が立っているではないか。

 辺りは陰気が纏う空気が流れているのに、男性達の周りだけ異彩が放たれていた。なにそのアイドル的? スター的なキラキラは? オーラだけで彼等が特別な存在なのがわかる。薄暗くてハッキリと顔まではわからないけど、きっと彼等は美形だろう。

 ちょっくらと私の胸が高鳴る。一人でも美形が出てくるのは美味しいのに、三人も出てきたわけだからね。うんうん、これこそ熱い夜……ん? というか、美形三人と牢獄の中で繋がれている私? ……まさかとは思うけど、「そういうプレイ」じゃないですよね! ちょっと複数とこんな場所でそんなハードな……ってそうじゃなくて。

 えっと、だからどういう事? これは夢なんだよね? まさかリアルなゲームの世界とかってわけじゃないよね? どっちにしても臨場感ありまくりだから。恋に初心な私なんですから、どうかお手柔らかにお願いします。すっかりと自分の世界に入り込んだ私を現実に引き戻す、例の声が再び降りる。

「声も出せぬほど、怖気づいているのか? さすがの悪役令嬢もここは怖いと思うのか」

 三人の内、真ん中の男性が一歩前に出て口を開いた。穏やかで安心感を与える声だった。

 ――はい? ……悪役令嬢?

 なにそれ? ラノベテンプレの単語が出てきましたけど? つぅか、さっきから私に対して物事を発していますけど、誰かと勘違いしていない? 私が口をポカンとして固まっていると……。

 ――うひゃっ!

 心の中で驚嘆を上げる声と同時に、心臓がドッキーンと飛び出しそうになったよ。ランプを翳して明るみに姿を現した男性に、私はゴクリと喉を鳴らした。お星様スターライトのようにキラキラを放つ美しい髪はプラチナブロンドってやつですか?

 恐ろしく完璧な風貌だ。一度目にしたら頭にずっと残る上品な美貌。背も高く王族が羽織るような上質なミトラフコートを着衣している。間違いない、王子様とみた。え普段外人さんには興味がないって言っていたけど、前言撤回。外人さん大好きになりました! 目の保養ご馳走様です!

 私はすっかりと悪役令嬢と言われた言葉を忘れ、心を弾ませて、お花畑の中をクルクルと踊り回っている気分となった。今までに現実はおろか夢でさえ、こんな美形を目にした事はなく、かなりのハイテンションとなっていた。ところが……。

「これが、かの悪役令嬢なの? あれだけのあくどい噂を立たせた女だから、もっとこうね~」

 ――ん?

 いきなり夢から醒めたような現実が舞い戻って来た。今の朗らかな甘い美声は王子の隣りに立つもう一人の男性。魔法使いが着るようなローブの上で映える滑らかなストレートの長い髪をもつ。王子より若干背も高い。

 うん、美形だ。この人もとんでもない美形だ。サラッと前髪を掻き上げるしぐさが妙に色気を感じさせる。だけど、私の全身を舐め回すような視線が不快極まりない。いくら美形でもね、興醒めなんですけど。

 ――私は平凡女子ですから。

 思わず言ってやりたい気持ちを押し殺す。っていうか、やっぱ誰かと勘違いされている。しかも嫌な相手とだ。最悪……。私はゲンナリした気分となって俯く。ロマンスを求めているのに、とんだ真逆で気持ちが萎えてきた。

「容姿に惑わされるな。悪役令嬢どころか魔女の気質をもっている女だぞ」

 ――はい? 魔女とは?

 再び私は顔を上げる。今の声は王子でも不快にさせた男性でもない。低く威厳と落ち着きを孕んだ声は残るもう一人の男性だろう。甲冑姿の逞しい躯つきの彼は騎士を思わせる。

 隣のいる二人とは違って、ワイルドで近寄りがたい硬派なイメージがあるけど、立ち姿がやたら美しく、精悍で美丈夫な顔立ちは女性心をくすぐる。思った通り、三人とも美形で眼福に溢れる思いだ。

 だけどね、うん、さっきからどうも気になるのが悪役令嬢とか魔女とかめっちゃラノベの世界観どっぷりなんだけど、なんなんだろう? 私どうしちゃったの? ていうか、どうなる?

「さていい加減、黙秘も終わりにしろ。そろそろ口を割って洗いざらしに吐いてもらうぞ。悪役令嬢の名をもつ“ジュエリア”」
「はい? どなたの事ですか? それ?」

 うん、当然な反応だよね。「ジュエリア」って、そんな宝石ジュエリーに「ア」をくっ付けたようなゴッテゴテの名前、私には似つかわしくないっての! って自分を卑下してどうする?

 それより、王子を目の前にして一発目の言葉が色気もへったくれもないのが淋しい。ってそんなアホな事を思った自分が馬鹿だと湛えたい。何故なら……。

「しらを切るなら即処刑にするぞ」
「ひぃ!」

 いきなり鉄格子の隙間から長剣を突き出されて、眼前に恐怖が舞い降りた!

 ――ぎょぇ! いきなり死亡フラグを立てないで! 即ゲームオーバーご勘弁!





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